モーサイダー！～Motorcycle Diary～Episode of Summer VI～

IngaDo type-RR @mor_cy_dar

モーターサイクルダイアリー～Episode of Summer VI～ #mor_cy_dar

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「林道を走りたぁいぃ？」 　数日後。八王子駅前、放射線通りの一角にある喫茶店。#mor_cy_dar

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　決して高級とは言えない、むしろ金のない学生やコーヒーの一杯に大金を注ぎ込む価値を認めない人々が集まるその店で、ゴシックロリータ姿の日原院亞璃須（にっぱらいん　ありす）は眉をひそめていた。 #mor_cy_dar

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「ああ、そうなんだ。俺は知らなかったけど、周遊につながる林道━━っていう道があるんだろ？」 「林道は『っていう道』ではなく、道路の種類ですわ。 　確かにありますし、それ以外にも大多磨にはいくつか林道がありますけれど……」　 #mor_cy_dar

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「けれど……なんだよ？」 「はあああああ～。しばらくぶりに連絡してきたと思ったら」 #mor_cy_dar

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　コーヒーにどばどばと注いだミルクをかきまわしつつ、大袈裟という表現も生やさしいほどの巨大なため息。 　ぐったりと肩を落とし、しぶしぶという半眼で頬杖をついてみせる亞璃須（ありす）の仕草には、不満があふれていた。 #mor_cy_dar

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「ねえ、志智」 「なんだよ」 「高校生最後の夏休みに、女子を呼び出すからにはこう……もうちょっと、何か、当然━━ありますわよね？」 　亞璃須の瞳は、これからツーリングにでも出かけてしまいそうなライディングジャケット姿の志智を恨みがましく見据えていた。#mor_cy_dar

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「は？　何のことだよ」 「ひどいですわ！　あの時に生まれたままの姿のわたくしにあんなことをしておきながら！！」 「ちょっ……ちょっと待て！　ええい、泣き真似をするなっ！ 　誤解されるようなことを大声で言うな！」 #mor_cy_dar

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　どよどよとざわめき立つ店内。 　九割方の『ひどい男だな』という視線と、一割ほどの『メンヘラ女に絡まれてるのか…』という同情のまなざしを、志智はひしひしと感じながら、そのどちらでもない事実に頭を抱える。 #mor_cy_dar

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「あのな、亞璃須。この際だから言っておきたいんだが」 「志智。『この際だから』っていう言い方、特別な関係でないとできないものだと思いません？」 #mor_cy_dar

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「……話をそらすなよ。 　お前な、その……あ～……えーと、た、確かに先月、多少特別なことはあったかもしれないが……」 「特別であることは認めますのね」 #mor_cy_dar

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「俺とお前はな、その━━べ、別に付き合っているわけじゃないんだからな」 「………………」 　時が止まった、と感じたのは志智だけだった。 　もっとも、二人の会話に聞き耳を立てていた隣席の客も同じだったかもしれない。 #mor_cy_dar

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「何を当たり前のことを言ってるんですの？」 「……意外に平然としてるんだな」 「そもそもわたくし自身、あなたに男女のおつきあいを申し込んではいないでしょうに」 #mor_cy_dar

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「あ～……いや、ま、まあそうなんだが、もし……その、勘違いしていたら、な。何か、誤解とか生じないかと思ってさ」 「誤解……ねぇ」 　にやにやと笑う亞璃須。 　志智はなぜかその表情に、首根っこを掴まれているような触感をおぼえる。 #mor_cy_dar

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「言いたいことがあるなら、言えよ」 「とりあえず、あなたのそういう反応も含めてわたくしの手のひらの上です、とだけ」 「ぐっ……」 「あなたは今、『言いたいことがあるなら言えなんて、いわなきゃよかった』と思ってますわね」 #mor_cy_dar

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「心を読むなよ……はあ。 　まあ、いいや。それで最初の話だけどさ」 「ああ、林道のことですわね。まったくもう。 　そんな話なら電話だけでもよろしいでしょうに……せっかくのおめかしがムダになってしまいそうですわ」 #mor_cy_dar

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「ムダにならないようにするには、適当にほめてやればいいのか？」 「適当というのは、軍隊用語ですと全力でやれ、という意味だそうです」 #mor_cy_dar

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「はいはい、キレイキレイ」 「む～」 　亞璃須が子供のように頬を膨らませると、志智は鼓膜を撫でるか撫でないかと言った小声で「……綺麗だよ」と呟いた。 #mor_cy_dar

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「さてさてさてー！　周遊につながる林道ですが━━」 「現金なやつめ」 「放っておいてくださいな。 　志智の話にあるDR-Zが出てきたのは、風張林道ですわね」 #mor_cy_dar

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「風張というのは駐車場の名前にもなっていますけど、要するに大多磨周遊道路の最高地点である風張峠ですわ」 「風張峠につながる林道だから、『風張林道』か……わかりやすいな」 #mor_cy_dar

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「昔はそのまま周遊へ抜けられたそうですけれど、今はゲートに鍵がかかってますので、ピストン林道ですわね」 「……先が行き止まり、っていうことか？」 「ええ」 　亞璃須が言うには、風張（かぜはり）林道は檜原村役場の交差点を右折すればいけるらしい。 #mor_cy_dar

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「志智はご存じです？　ドーナツを売っているとうふ屋さんのあるところ」 「ああ、ティックと行ったところか？ 　普段はあの交差点を左に曲がって……採石場で……それで周遊だよな」 #mor_cy_dar

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「ですので、道としては珍しいルートではありませんわ。 　そのルートには風張林道の他にも、小河内湖側へ抜けられる鋸山林道があります。通称を大ダワとも言いますね」 #mor_cy_dar

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　亞璃須が言うには、小河内湖側にもいくつか林道はあり、名栗・秩父方面まで足を伸ばせば、丸一日つかっても回りきれないほどだという。 #mor_cy_dar

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「あとは陣馬高原から醍醐林道も使えます。 　これはあきる野のコンビニ近くに出る道ですわ」 「何でも知ってるな……」 #mor_cy_dar