【twitter小説】砂の魚#1【幻想】

砂漠で釣りをしている一人の男。水も無いのに彼はなぜ……? 不思議な男の物語。小説アカウント @decay_world で公開した物語です。この話は#4まで続きます
減衰世界 Twitter小説 幻想
rikumo 711view 1コメント
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  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 15:52:51
     そのオアシスは灰土地域北東にある白亜砂漠にあった。一面の砂の大地にぽつんと緑の木々の生い茂る場所がある。南国の暑い気候に様々な南国の果実が実るそこは有名な観光地だった。レジルとミレウェの二人もまたそこに観光に訪れた。そのときの話である。 1
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 15:57:37
     砂の船が大地を滑るように進み、オアシスの港へと到着した。砂の船は巨大な箱舟のような形をしており、豪華客船を思わせる。それは魔法の力で推進し、砂漠の旅をかなり快適なものにしている。レジルとミレウェは港のタラップから恐る恐る降りた。 2
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 16:04:27
    「いやはや、流石南国。暑いね」  小さなカイゼル髭を生やした若い紳士、レジルは南国に似つかわしくなく黒いスーツを着ている。シルクハットに木彫のステッキ姿はまさに紳士のいでたちだ。日傘も差さずかなり暑そうに見えるが、彼は汗ひとつかいてない。 3
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 16:10:11
    「日焼けをしてしまいそうですわ」  白を基調としたドレスに革のコルセットをつけた婦人がミレウェだ。そのスカートはくるぶしまで届く巨大なもので、ワイヤーで補強されフリルが詰まっている。だが、やはり彼女も汗ひとつかいていない。 4
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 16:14:14
     タラップは木の梯子を組み合わせたようながらくたで、降りるのに難儀したが二人は長旅の末ようやくオアシスへ辿りついた。このオアシスにはベリメルクという名が付いており、この地方の言葉で水の都という名らしい。 5
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 16:18:22
     街の入り口には木製のアーチがかかり、観光客をもてなす言葉が書かれている。だがミレウェは街に入る前に街の外の森が見たいと言い出したため、二人で森を散策することにする。そう、街の外には奇妙な森があるのだ。 6
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 16:27:14
     その森は街を取り囲むように生えていて、多くの木々が緑や黄色の果実を実らせていた。奇妙なことに、砂地からにょきにょきと生えているのだ。砂地も乾燥していて、とても水があるようには思えない。だが木々は青々と生い茂っていた。 7
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 16:32:21
    「落ち葉とかどこに行ってるんだろう」 「ふむ……燃料用に回収しているのかもな」  二人は話に花を咲かせながら南国の森を歩いていた。木々は高く伸びていて日光を遮りかなり涼しかった。街の人だろうか、籠を背負い器用に木を登って果物を取っている。 8
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 16:37:06
     二人は森を進むうちに、不思議な場所を見つけた。それは森の中にあり、そこだけ木が生えていなかった。空がぽっかりと顔を出していて、丸い日だまりを作っていた。そこに男が一人いた。奇妙なことに……彼はそこで釣りをしている! 9
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 16:40:33
    「こんなところで何をなさっているのですか?」  レジルはシルクハットを取り挨拶をしながら男に話しかけた。男は笑って釣りをしていると言う。しかし、釣竿を持っているものの釣り糸は砂地に沈んでおり、そこにやはり水など無かった。 10
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 16:43:54
    「砂地で魚が釣れるものなのでしょうか」  ミレウェの疑問ももっともなものだ。男は釣り糸の先をじっと見つめながら言った。 「自分は釣りが何よりも好きでね、いつもどんな時でも魚を釣ってきた。でももう普通の魚じゃ自分の欲求を満たせなくなってきたんだ」 11
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 17:09:34
    「そりゃ釣りは好きさ。でも釣り糸を垂らしてかかって引く。その繰り返しに少し遊びが欲しくなってきたんだ。難しいところで釣りをしよう、誰も釣ったことのない魚を釣ってみよう。そういう、思いがね」  男の視線はどこか遠くを見ているようだった。 12
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 17:16:52
    「それでとうとう砂地で釣りを……?」 「まぁそういうことだな。ここで釣ったら凄いだろう」  確かに凄いは凄いが……思い切った挑戦もあったものである。しかしレジルはそんな変わり者たちを幾度となく見てきた。 13
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 17:21:28
    「なるほど、貴方にしか見えない道というのもあるのでしょうな」 「ハハッ、分かってくれたか。みんな馬鹿にしているが……ここには、確かに魚がいる。俺には分かるんだ。ずっと……釣りをしてきたからな」 14
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 17:24:39
     男は少し照れながら笑った。男は真剣に釣り糸と釣竿を見ている。一見は確かに狂人にしか見えないだろう。だが、確かに男は信じているのだ。そんな彼を止めたり馬鹿にするなど無粋なことであろう。レジルはそう思っていた。 15
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 17:28:12
     レジルはミレウェを見た。彼女もまた同じ思いのようだった。二人は新婚旅行の世界一周の旅で様々なひとたちを見てきた。彼らはみなひととは違う夢を持ち、多くは時代に埋もれていった。だが、世界を変えた者も確かにいる。 16
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 17:31:24
     彼がどうなるかは分からないが、不帰の道へと旅立つ旅人を指差し野次を飛ばすようなことは出来ようか。ミレウェはせめてもの手向けに彼に短い祈りを捧げてやった。そうして彼らは別れ、レジルとミレウェは街の観光に戻った。 17
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 17:34:42
    「きっと釣れると思いますよ」  ミレウェはいつものように静かに笑って言った。空は雲ひとつなく風は夏の匂いを感じさせた。森を抜け先程のアーチへ辿りつく。アーチの向こう側はオアシスの目抜き通りだ。 18
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 17:39:37
     そこで、レジルは先程アーチを見た時には気づかなかったあることに気付いた。目抜き通りに立て看板が立っており、小さく人混みが出来ているのだ。さっそくレジルはミレウェと共に立て看板の元へ近寄ってみる。 19
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 17:44:04
    「困ったことになった……」「どうすればいいんだ……」  人だかりは皆オアシスの住人のようだった。一様に困った顔をしながら立て看板を見ているが、ひとが多く文字が見れるほど近寄れない。 20
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 17:46:04
    「失礼。何か揉め事でも?」  レジルは近くにいた男に聞いてみる。男は快く答えてくれた。 「ああ、観光の方ですか。ちょっと難問がありましてね。ここのオアシスの領主……このオアシスの水源を管理している地主様がですね」 21
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 17:50:33
     聞けなその領主が最近自分の庭に池を作ったというのだ。そこまでは別によかったのだが、その領主が自分の池に魚を飼いたいと言い始めたというのだ。このオアシスにはもちろん、遠くに行こうとも砂漠ばかりで魚などいない。 22
  • 減衰世界 @decay_world 2013-08-23 17:59:33
     魚を生きたまま運搬し、広大な砂漠を越えて来いというのだ。砂漠では水は重要だ。大型の砂の船でも、飲料水を確保するだけで精一杯だ。とても生きたままの魚を持ってくるなど、不可能だ。しかしそれを持って来いと立て看板には告げられているという。 23

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