エジプト騒乱。三週間の取材について。三浦英之記者の呟き。

①帰任命令が出た。カイロを離れる。エジプト騒乱を取材した3週間。その個人的な意味を備忘を兼ねて振り返ってみようと思う。報道や一部の見識者のとはちょっと違うかもしれない。でも「真実」はいつも多面的であるべきだし、本当のことはずっと後にならないとわからないと私は思っている
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三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

①帰任命令が出た。カイロを離れる。エジプト騒乱を取材した3週間。その個人的な意味を備忘を兼ねて振り返ってみようと思う。報道や一部の見識者のとはちょっと違うかもしれない。でも「真実」はいつも多面的であるべきだし、本当のことはずっと後にならないとわからないと私は思っている

2013-09-07 15:48:59
三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

②まずはエジプト騒乱の大まかな流れ。一昨年の「アラブの春」で30年続いた独裁者が倒れた。昨年、初の民主選挙でイスラム組織出身の新大統領が誕生。ところが今年、軍はクーデターを起こし、軍主導の暫定政権を設立。クーデターに抗議する民衆を実弾で強制排除し、800人以上が死んだ

2013-09-07 15:53:20
三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

③私が目撃した強制排除は「衝突」ではなく「虐殺」だった。橋の上をデモ行進する丸腰の民衆を治安部隊は周囲の建物の上からバリバリ撃った。遮る物のない橋上で人々は羊のように逃げ回り、上空をヘリコプターが低空で飛んだ。近くの建物で黒煙が上がり、道には人が倒れていた

2013-09-07 15:56:10
三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

④私がカイロに到着した前日の14日はさらにひどかったらしい。映像が残っている。デモ隊が座り込んでいた小屋に火が放たれ、銃弾の中を人々は逃げ惑い、仮設病院は遺体で埋まった。自国の民衆に実弾を撃ち込む。私はエジプト人とエジプト政府が信じられなかった

2013-09-07 16:00:20
三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑤800人以上の犠牲者を出しても、人々はデモをやめようとはしなかった。聖なる金曜日が来る度に広場に集まり、声を上げて立ち上がった。私はその度に街に出て取材を続けた。モスクや教会を回り、貧しい地域に住む人々も見た。できることは限られていたけど、自らの目で見ることができた

2013-09-07 16:04:22
三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑥ここからは私感だ。私の意見に違和感を覚える人も多いと思う。ただ正直な所を言うと、今回の騒乱は一部の人が指摘するような「軍事政権VS民衆」というシンプルな構図にはなっていないように思える。国民の意見は2分している。デモ隊を支持する人もいれば、暫定政権側に立つ人もかなりいる

2013-09-07 16:11:01
三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑦そう感じる原因の一つは私が寝泊まりしている地域にある。ホテルや飲食店はカイロでも比較的裕福なエリアにあり、取材拠点もその一角にある。人々はシャツを着ていて、車に乗って通勤している。街角では大多数の人がデモ隊を本気で「テロリストだ」と談じ、軍事政権のやり方を肯定している

2013-09-07 16:19:57
三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑧もう一つはメディアだ。エジプトではほぼ全てのテレビ・新聞が政府にコントロールされ、毎日デモ隊の映像を「テロリストだ」と報じている。制圧する治安部隊を英雄として称え、デモ隊の逮捕を快挙として伝える。大多数の民衆はその他の情報がとれない。目を与えられず、耳をふさがれている

2013-09-07 16:26:50
三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑨私が見た「エジプト騒乱」は紛れもなく「貧と富」の衝突だった。エジプトでは膨大な富を一部の人間が独占している。4割が1日2ドル以下で暮らす国。貧しい人は水道のないスラムで暮らし、富める人間はカイロ中心部のマンションで暮らす。両者は決して交わらない。故に相手の姿や想いが見えない

2013-09-07 16:32:10
三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑩「アラブの春」で人々の怒りは爆発し、「富める側」の独裁者を倒した。政権を取った「貧しい側」は富の配分を変えようとした。もちろん短期間ではうまくいかない。「富める側」は抵抗し、経済は混乱した。そこに乗じて軍はクーデターを起こし、「安定」の名の下に、貧富の構造を元に戻した。

2013-09-07 16:37:22
三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑪エジプトでは軍は軍需産業だけでなくリゾート開発も手がける一大産業だ。だから常に権力の側にいる。彼らが恐れているのは民主選挙だ。この国では「貧しい」側が多数を占める。選挙に持ち込まれれば絶対に勝てない。政権を取られれば、自らにメスが入り、豊かな生活を維持できなくなる

2013-09-07 16:45:11
三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑫エジプトは今、力で押さえられている。でもこんな状況が長く続くわけがない。考えてみてほしい。選挙で選ばれた大統領を武力で排除し、勝手に自分たちの都合のいい政権を作る。それに反対する人々を撃つ。そんな不正義が許されるはずがない。正義と不正義はひっくり返らない。歴史的に、かつ絶対的に

2013-09-07 16:48:45
三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑬そのうち民衆の憤りが頂点に達して社会の底が抜ける。急所は経済だ。カイロにいるとよくわかる。ピラミッドにもホテルにも外国人がいない(来るわけないですよね)。観光は外貨獲得の2割を占めるこの国の基幹だ。タクシーや土産屋など特に貧しい人々を潤す。外貨が入らず、エジプトは窒息している

2013-09-07 16:53:51
三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑭国営メディアを操ってどんなに「テロとの戦い」を訴えても、屋上からどんなに機関銃を連射してみても、パンを求める民衆を軍は押しとどめることはできないだろう。やがて大きな混乱が訪れる。悲しいけれど、それが今のエジプトの現実だ。同じ国民同士がにらみ合い、互いに憎しみあっている

2013-09-07 17:01:59
三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑮今回の取材で私が学んだこと。それは何かを極度に恐れてはいけないということだ。「彼ら」はそこにつけ込んでくる。実際に武器を使わなくても、それをちらつかせることで、「見えない力」で人々を押さえ込もうとする。それにどう立ち向かうか、具体的な方法論を今の私は持ちあわせないのだけれど

2013-09-07 17:08:04
三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑯行き着くところは結局「非暴力・不服従」しかないのだろう。銃を持った瞬間、相手は即座に撃ってくる。銃を持たないことこそが市民の最強の「武器」であり最良の「盾」。そして「言葉」を放棄しないこと。真実から目をそらさないよう努力すること。その勇気を私はどこまで持てるだろうか。

2013-09-07 17:12:18
三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑰それでもエジプトは私にとって決して悪い国ではなかった。人々は優しく、親日的で、どこか長閑な豊かさがあった。アラブ料理も私の口にはぴったりと合った。将来この国にまた来るかもしれない、来ないかもしない。でも私は今、こう感じている。エジプトは優しく、冷たく、そして悲しい国だと

2013-09-07 17:19:38
三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑱私は離任しますが、先輩の川上泰徳総局長@kawakami_yasu は現地に留まり続けます。エジプト滞在10年強。イラクの戦場記者であり、日本でも指折りの中東ジャーナリストです。カイロから発信される彼の記事にご期待ください。

2013-09-07 17:25:58
三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑲読み返してみると、だいぶ内容がネガティブですね。ちょっと反省。少し疲れているのかもしれません。ツイッターはしばらくお休みし、国際報道部の内勤に専念したいと思います。

2013-09-07 17:31:50
三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑳最後は宣伝です。被災地は来週2年半を迎えます。震災直後から1年間、宮城県南三陸町に住み込んで記録した現地の暮らしや人々の想いが1冊の本になっています。お時間のある方は是非。私たちは1人ではないと切に感じられる内容になっていますhttp://t.co/cc4dDAwDOq

2013-09-07 17:40:54