グレゴサニア

鳩の世界観 @sekai_TL

グレゴサニア　一節　≪小さな鍵の小部屋≫ 湿った空気。錆びた鉄の臭い。血と臓物を沸騰させる赤黒い数々の染み。温度のないスチールの格子を見てようやく保科伊慧は自らが監獄の中にいるのだと理解する。変化がない。あまりにも静かすぎるそこは退屈を詰めたような空間だった。

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伊慧にとって退屈はつまらない。つまらない以上に、恐らくそれは死に直結する。ガソリンに火がともらなければそれはただの液体だ。それでは意味がない。ゴキン、と軽く首を鳴らしてどう出たものか思考を巡らす。―――金属音。反射神経と感。惑いは経験と呼ばれるものか。

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本能よりも先に体が動く。頭を軽く反らしその場からステップを踏んで振り返るだけの動作。それだけのことを、視界に納められた人間はいないだろう。そして、なにが襲ってきたのかも。「…看守かと思えば」低い地を這うような声に保科がまたつまらなそうに顔を上げ、監獄の奥を睨み付けるように覗き込む

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「…とんだ客人のようだ」「客ゥ？俺は来たくてきたわけじゃないぜ？」火がつくにはまだ弱い。緩い。温い。僅かな光を頼りに伊慧の瞳が奥の男を捕えた。厳格な雰囲気を持ちながら、どこか気だるげな瞳をもつ男と目が合う。「とりあえず、手足を捥いでから看守に引き渡そう」空気が震える。

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空気が怯えたように、震える。一方で伊慧の瞳が爛々と輝き始めた。爛々、爛々。得物を視界に入れる。熱が注がれた頭にショートを起こし加速する。「テンション上がってきましたよ――ーーｯｯｯｯっとォ！！！！！」―――保科伊慧。グレゴリー名＜刺殺＞。行動開始。

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グレゴサニア　二節　≪フリート・ストリート≫ 立ち並ぶスチール製の鉄格子。底知れぬ奥の闇から響いてくるのは悔いと懺悔と怨嗟の声。上も下も右も左も埋め尽くす石造りの壁。錆びた鉄の臭いと焦げたような臭み。そこかしこに走った亀裂や抉れたような生々しい跡はその場の凄惨さを物語る。

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生々しい臭いに顔を顰めてパーカーの帽子を深くかぶる。以前いた場所では時折嗅いだことのある臭いだが、ここまでひどくはなかった。ちらりと横に目線を配らせる。そこにいつもの長身の姿はない。僅かにこぼれるため息とこの場にいる理由に思考を巡らせる。(…思い当たらない)

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なにもなかった。いつも通りの場所でいつも通りの会話を楽しみいつも通り生きていただけだった。瞬き。そんな隙間の間にこうも情景が変わるとは。やれやれと肩を落として傍にある牢獄らしきものを見る。奥にはひときわ濃い影がある。恐らく人間だろう。幾重にも巻かれた鎖が光を反射してその存在を

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主張していた。生きているかどうかはわからない。ただ、もう動かないのは確かだろう。瞬き。「やぁ、やぁやぁお兄さん」若い男の声が静かな廊下に響く。黒で統一された服に赤い腕章。穏やかな笑顔を浮かべた男がこちらに歩み寄ってくる。「お兄さん、こんなところにいたら鍵師として失格じゃないかな」

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「鍵師…?」聞きなれぬ言葉を問い返せば今度は男が瞠目する。「鍵師じゃないのかい？じゃあ看守さん？それだと服が違うね。囚人は外にはでてないはずだけど」問いに答えるつもりはないらしい。男の並び立てる言葉を掬ってやはりここは監獄あたりなのだろうと理解する。

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「ところでお兄さん。」話が変わる。同時に腕への違和感。遅れて届くのは鉄をすり合わせるような鋭い音。何かの音に似ていた。何だったか。思い出すのを違和感が邪魔をする。視線をずらして確認し、ようやく自分に起きた事態を理解した。―――――赤い水たまりに浮かぶ自らの右腕。

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「―!」驚愕。攻撃された事態に気付けなかった。骨も、肉も、繊維も、なにからなにまで綺麗に断絶された腕’(それ)。赤い液体を落とすそれを握りこんで止血し大きく後ろに飛びのいた。「お兄さん、お兄さん鋏は好きかい？私は好きだよお兄さん、勿論使うよお兄さん、鋏はみな素敵な鋏だからね。

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愛おしそうに撫でられるのは銀の刃。嗚呼、思い出した。さっきの音は鋏の音だ。シャキリ、シャキン。何かを切る。鋏の音だ。「もう一度言わせてもらうけど、俺は鍵師とかいうのじゃないよ。」「大丈夫、安心してよ。鋏も歓喜の声を上げている。君の断面を見せて欲しいな！とびきり綺麗に斬り分けて

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看守の前に引きずり出してあげるからさぁ！」会話のキャッチボールができていないだろうと心中で突っ込む。どうやら和解という訳にはいかないらしい。「…仕方ない。あんまり動きたくないんだけどね」――――グレゴリー名『撲殺』行動開始。

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グレゴサニア　三節　≪Would you like a popper?≫ 彼からすればそこは薄汚い古城のようだった。掃除の行き届いていない壁に傷だらけの石畳。続く廊下は一直線で人が五人並んで歩けるほど。両脇には一定の距離で鉄柵が施されている。

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一直線に続く廊下でありながら、彼――瀬戸の行きたい方向は全く違う。瀬戸の視線の先にあるのは鉄格子でも長く続く石畳でもない。壁だ。そこに何かが隠されているわけではない。隠し扉などがたとえあったとしても、ただの元医者である瀬戸にはわからないことだろう。

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ならばなぜ壁とにらみ合いを続けているのか。答えは簡単だ。「一直線に用意された通路を行けと？ｯﾊ、つまらんな」腕を組みﾄﾞﾔ顔で壁に面する彼はまさしく変人の部類だろうが、彼が周りの風評など気にするわけもなく高らかに笑い小ばかにしたような息をつく。

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「そうだな、ならばこうしよう」思いついたように人差指を立て空を横一線。それだけで十分だ。彼の死因’’ネウマ’’が呼応するように発動する。空気が歪み視界が歪み景色が歪む。世界への介入。常識にメスを入れ自分の詰めたいものを詰め込む、彼にだけ与えられた力が主の命に従い震撼させる。

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満足そうに頷く彼の目の前には石の壁など今は存在せず、見事な道が広がっていた。空間を歪めたことにより多少周りに”厄介事”がいったかもしれないがそれは瀬戸の知らぬ領分である。いつものように涼しい顔でその場に足を踏み入れ――――瀬戸の表情が凍り付く。

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@R18_G くちゃくちゃと静かな廊下に響く咀嚼音。壁一面を彩る赤。瀬戸のあしもとにまでのびるぬかるんだレッドカーペット。瀬戸の額に冷たい汗が通る。「…壊死、じゃぁないようだが？」瀬戸の言葉にソレはようやくこちらに気付いた。ゆらりと、それも幽鬼のように立ち上がる。

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@R18_G 足元に転がる人間だったものの頭。大きく右側が削れ白い骨が浮き彫りになっている。首と胴体は既に泣き別れをし、胴体からは血と臓物が弾け飛んでまるで三流(ﾁｰﾌﾟな)ホラーのワンシーンでもみているかのようだ。（胸糞の悪い…）

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「ん…侵入者…？」「侵入者とは言ってくれる。如何にも不審者だ」「…それって胸はっていっていいものだっけ？」「私が自身家なだけで猿はちがうだろうな」「…おれと会話する気ある？」「ないが？それがどうかしたか？」

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あまりにも唯我独尊傲慢不遜な態度に捕食者(ｲｰﾀｰ)の顔が不快げに歪む。「あのさ…ここにきたいみわかってるよね？」「私はその先に行きたい。どけ」「…いただき「まぁまて。少し話を聞け。」はぁ？」マイペースにもほどがあるだろう！そう突っ込もうとした瞬間、捕食者はわが目を疑うことにな。

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「インサニアが…!!動いて…!?」「ｯﾊｯﾊ！君は運がいいな。私の死因''ﾈｳﾏ''を直に見た奴は少ないぞ。なにせ見た奴全員つまらないもので―――殺してしまったんでな」冷ややかな瞳を最後に捕食者の目の前は石壁に埋まった。――グレゴリー名『転落死』行動開始。

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補足】「Would you like a popper?（もっとハイになりたい？）」ハンニバル・レクターによる独特な言葉の言い回しから引用