東海道中膝栗毛 四編上

十返舎一九が1802年に発表した「東海道中膝栗毛」。ここでは「四編 上」を現代語に超意訳しご紹介いたします。意訳ではありますが、ストーリーはかなり原作を忠実に再現しました。 他の「道中膝栗毛」シリーズはこちらからお入りください→ http://togetter.com/id/KumanoBonta 【文中で使用されている表現は、時代背景や作者の意図を尊重しています。ご了承ください】
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四編上は、東海道新居宿から赤坂宿までのお話です。

現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

由縁齊貞柳(1700年頃の大坂の菓子屋)の狂歌に 「ほら貝の 出し昔は 知らねども 今吹くはよき 追風なりけり」 というものがある。東海道(あづまかいどう)に名だたる今切の渡を歌ったもので、戦国時代初期、1498年の明応年間に起きた南海トラフ沿いの巨大地震のことを表した歌だ。

2013-09-19 06:05:12
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

地震の影響で、それまで淡水湖だった浜名湖は津波により太平洋とつながった。 それが現在今切と呼ばれる湾口である。 1510年の暴風雨で今切の幅が広くなったため橋を架けることもできなくなり、以降ここは渡船となった。

2013-09-19 06:05:17
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

1707年の宝永地震によってさらに浜名湖は拡大し、渡しの距離は6kmまで広がった。 元禄年間に政府が命じた今切の整備により蛇籠に石を詰めたテトラが置かれ、渡船も安心してできるようになった。

2013-09-19 06:05:22

新居宿
江戸から六十八里三十四町四十五間 (270.8 km)

現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

さて、弥次喜多の二人は新居で名物のかば焼きを食べて休憩中。あいかわらず東海道は人々の往来が激しい。 渡船場へ急ぐ旅人は、出航を知らせる声に足を宙に浮かせて走り、問屋場では役人が口やかましく何かを指示している。

2013-09-19 06:05:27
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

旅籠屋の主人はまともに服を着る時間もないほど忙しいのか袴の向きがおかしいし、茶屋の娘はエプロンがほどけているのも気づかずに引きずって走り回る。馬方は後ろ向きで小便をしながら唄って歩いている。

2013-09-19 06:05:32
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

茶屋の店「どうぞー、お休みくださーい。あらやだ馬方さん、お侍さんを馬から降ろしてさしあげて」 馬方「おっと、旦那さま、頭を下げてください。ぶつかりますよ」 馬方は茶屋の軒下へ馬を入れる。馬に乗っているのは、鼠小紋の柄のついたぶっさき羽織を着た侍だ。

2013-09-19 06:05:37
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

お侍は、弥次喜多が休んでいる席から少し離れたところに腰をかけた。 店員「いらっしゃいませ。お茶をどうぞ」 侍は店員の顔をジロリと見ると、 「今何時かね店員「もう一時をまわったくらいです」 馬方「昨日の今頃と同じ時間じゃないか?」 「さて、なんか食うか。なにがある?」

2013-09-20 05:48:09
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

店員「鰻のかば焼きはいかがですか」 「お内儀のかば焼きとな」 馬方「ご亭主のスッポン煮、なんちってー。あ、そうだ旦那さま、お荷物はこちらに置きますね。あと小さいほうの荷物が五つと」 「その銭差しはこっちにくれ」 馬方「ところで旦那さま、ちょっとばかりお願いが…」 「なんだ」

2013-09-20 05:48:17
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

馬方「えっと…お酒を飲んでもいいですか?」 「お前、酒が好きなのか」 馬方「三度の飯より好きです」 「遠慮するな。好きに飲め。俺は下戸だから相手をしてやれんけどゴメンな」 馬方「どうぞお気になさらずに。ごちそうになります」 「え?ちょちょ、待て。お前俺の金で飲むつもりか?」

2013-09-20 05:48:21
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

馬方「え、そのつもりでしたけど」 「アホか。侍はなあ、出張扱いだから交通費は全部公費なんだよ。チップなんて計上できるわけねーだろ」 馬方「そこをなんとかぁ~」 「むー…そんなこと言ったって領収書も要るしなあ」

2013-09-20 05:48:29
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

馬方「ほら、旦那のお荷物は規定より少し重いじゃないっすか。追加料金てことでどうです」 「ちっ、ほれ100円馬方「いやせめて200円はお願いしますよ」 「これで勘弁しろ、あと50円やるわ」 馬方「あざーす。まいどー」 馬方は金を受け取り、さっさと馬を連れて行ってしまった。

2013-09-20 05:48:56
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

「あれ? うわっしまった、おい待て、おーい」 馬方はとっくに見えなくなっている。 「馬に予備の草鞋をつけたままだった…くそ、江戸まであれひとつで行けるいいシロモノだったのに…こんちくしょ」 ぶつぶつ小言を言っている姿がおかしかったので、喜多が侍に声をかけてみた。

2013-09-21 05:37:33
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

「あのー、お侍さん」 「なんだよ」 喜多「お侍さんは江戸まで下るんですか」 「そうだよ」 喜多「今そこで聞こえてきたんですけど、草鞋一足で江戸まで歩くそうで。ずいぶん歩き方がお上手なんですね」 「うん、手作りなんだけどね、いつも一足で江戸まで往復するよ」

2013-09-21 05:37:38
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

弥次「へーっ、草鞋がダメになるのは歩き下手っていいますけど、お侍さんはお上手なお方だ」 「ありがとう」 弥次「でも私もね、この草鞋で一昨年松前まで行きましたが、帰るまでなんともありませんでした。去年は長崎まで行ったし、そして今回も、ほら、まだこんなに丈夫」

2013-09-21 05:37:43
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

「ほお。おにいさん、私よりよっぽど歩き方が上手じゃないですか。どうすればそんなに草鞋を長持ちさせることができるんです?」 弥次「草鞋はこんなに長持ちしますが、その代わり脚絆がすぐにダメになっちゃうんですよね」 「それはまたどうして」 弥次「歩かずに馬ばかり乗ってるからですよ」

2013-09-21 05:37:50
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

喜多「もうええわ」 弥次「ありがとーございましたーっ」 「ははははは」 弥次「さ、喜多そろそろ行こう。じゃあお侍さん、お邪魔しました。どうぞごゆっくり」 「お気をつけて」 弥次喜多は勘定を済ませ出て行った。

2013-09-21 05:37:56
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

新居のはずれから、二川まで駕籠で行くことにした。高師山橋本から北の方角に見える。 弥次鳶が産む 高師の山は 冬はさぞ 雪に真白く 見違えやせん 向こうから、二川の駕籠かきがやってきた。 二川の駕籠かき「おつかれー」 こちらの駕籠かき「よお」 二川「どうだ、換えていかないか」

2013-09-22 07:28:54
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

両宿間で客を乗せた駕籠屋がすれ違う場合、双方の客を入れ替えることがある。その距離によって値段を決める。 こちら「いくらだ」 二川「これでどうだ 手をパーにして相手に見せる。 こちら「ふむ、しょうがない、まけてやるか。お客さん、すみませんが駕籠を換えます。乗り換えをお願いします」

2013-09-22 07:29:00
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

喜多「俺たち白須賀じゃなくてその先の二川まで行くよ。いい?」 相手の駕籠かきも問題ないという仕草をしたので、ここで駕籠を乗り換えた。 駕籠かき「おにいさん、ラッキーだね。この駕籠は宿の送迎用だから、その辺の流しの駕籠とは違って上等だよ

2013-09-22 07:29:05
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

「座布団がペラペラじゃないもんな。いい乗り心地だ」 そういって座布団をサワサワすると、銭差しが一本挟んである。どうやら乗り換え前の客が忘れていったらしい。 喜多「ラッキー。いただきー」 何食わぬ顔で銭差しを懐にいただいてしまった。

2013-09-22 07:29:11
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

【中ぼん】銭さしって前にも載せたけどこれです。銭形平次が肌身離さず愛用しているやつですよね。 http://t.co/0WV6lpKBgH

2013-09-22 07:33:09
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白須賀宿
江戸から七十里二十二町四十五間 (277.4 km)

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