『愛のむきだし』と洗脳、あるいはカルト
見逃していた園子温監督『希望の国』を観た。宮台真司氏が指摘するように、園監督作品にしばしば登場する「(脱)洗脳者」がいないように見えて、小野家の当主、小野泰彦のセリフから明らかなように、実は洗脳者は国家そのものなのだ。「オリンピック開催時は汚染水の影響は全くない」?臍が茶を沸かす
2013-09-06 22:12:50園子温監督『愛のむきだし』は、家族や友人、あるいは自分自身に「その体験」があるひとにとっては、激しく動揺させられる作品だ。「その体験」とは、宗教、それも新興宗教やカルト宗教などに入信した者との接触、あるいは自分自身が入信し、脱会(棄教)した体験である。
2013-09-18 19:34:26僕が初めてそうした体験をしたのは、大学生のとき、いろいろな大学の学生が集まって行われる「国際学生シンポジウム」というイベントに参加した時のことだ。テーマごとにいくつかの分科会に分かれて、大学教員の講師と参加学生の中から募集したファシリテーターが司会・進行を務め、二日間にわたり、
2013-09-18 19:36:42テーマに沿って様々なディベートや議論をするというイベントだった。僕が参加した分科会は「自由について考える」というテーマ設定で、講師は社会学者の橋爪大三郎先生だった。その参加者のひとりに、幸福の科学の会員がいた。彼は自分が会員になった経緯を手短に話してくれた。
2013-09-18 19:37:43もっと詳しく話を聞こう、ということで夜、分科会のメンバーが一部屋に集まり、彼の話を聞いた。何となく理解はできる気がした。しかし、共感できるところはなかった。すでにオウム真理教の一連の事件が明るみに出た頃で、世間的に新興宗教やカルトへの拒否反応が強かったように思う。僕もそうだった。
2013-09-18 19:39:42「伝統宗教ならまだしも、新興宗教はヤバい」と思っていた。彼が何を話したか、今となってはあまり思い出せないが、印象に残っている一言がある。「大川隆法は、奇跡を起こせるのか?」という誰かのいたずらな質問に、彼は答えた。「起こせると思うが、実際にはしないだろう」と。
2013-09-18 19:40:45僕は大学生のとき、「不登校」だった時期があった。義務教育段階ではないから、正確には不登校にはあたらない。一昔前なら「スチューデント・アパシー」と呼ばれるような状態だった。学校には行かず、アルバイトだけしていた。勉強に意味が見出せなくなって、何のために大学に入ったのか、
2013-09-18 19:41:49わからなくなっていた。結局、大学は4年で中退し、地元に戻った。それから数年後、メディアにしばしば「ひきこもり」という言葉が登場するようになった。僕は親近感を覚えた。「メンタルフレンド」というひきこもり者を支援する会に入った。
2013-09-18 19:42:42会のメンバーは、家族や友人・知人にひきこもり者がいるひとや、元当事者、「ひきこもり問題」に関心を持つひとや、現役の「ニート」もいた。藤原和博氏的に言うと、上でも横でもない「斜めの関係」を築き、ひきこもり当事者の「お兄さん・お姉さん的な存在」になろうという活動だった。
2013-09-18 19:44:49そこで知り合った元当事者と、ノリでメイドカフェに遊びに行ったことがあった。そこで彼が、エホバの証人の元信者であったことを告げられた。僕のエホバの証人に関する知識は、大学時代にアパートに訪問してきたエホバの信者と議論したこと、それから
2013-09-18 19:45:56大泉実成『説得 エホバの証人と輸血拒否事件』を読んだこと、それだけだった。彼は両親がエホバの信者で、自然に自身も信者になっていた。両親が離婚し、父親と母親の間で彼は引き裂かれた。そして、父親と暮らすことを選択した。大人になり、エホバを脱会した後、脱会信者の噂を耳にするが、
2013-09-18 19:46:57みんな現実社会との間で苦しんでいるようだ、と語ってくれた。彼は脱会した経緯を話さなかった。僕も訊かなかった。彼がひきこもった原因は、そこにあるのでは、とは思った。しかし、訊ける訳がない。彼は、エホバを抜け、ひきこもりからも脱出した。それが答えだ。
2013-09-18 19:47:44ひきこもり者のカウンセリングなどを行っているNPOの講演会に参加したりしているうちに、自分も専門的な知識を身につけて支援をしたい、と思うようになった。心理学の本を読んだり、心理学の講座に参加したりし始めた。そしてあるとき、その講座の参加者のひとりに声をかけられた。
2013-09-18 19:49:00自分も心理学に興味があり、ある学校で学んでいる。よかったら、今度セミナーがあるので来ませんか、と彼女は言った。初学者で、いろいろ勉強したいと思っていたのと、女性に声をかけられて嬉しかったのとで、そのセミナーに参加した。セミナーのテーマは「常識に縛られない生き方」といったもので、
2013-09-18 19:50:44社会通念や既成概念を超え、もっと自由に生きよう、というメッセージを伝えるためのいくつかのエピソードが語られた。それから、彼女(以下、Yさん)に様々なイベントやセミナーに誘われるようになった。彼女が学んでいる学校は「オルターカレッジ」といった。
2013-09-18 19:51:38歴史や哲学からコミュニケーション論、そして実践として様々なワークにより学べるとパンフレットにはあった。セミナーの講師などを務めている、元看護師の女性のことを、生徒たちは慕い、尊敬しているようだった。『愛のむきだし』のゼロ教会のコイケにあたる人物だ。
2013-09-18 19:52:28彼女(以下、K先生)は占いも得意だ、というので、オルターカレッジの生徒たちが住んでいるアパートの一室で、マヤ文明の占星術に基づいた占いというのをしてもらったことがあった。占ってもらった後、Yさんや他の生徒たちも交えていろいろな話をした。
2013-09-18 19:53:34人間の認知や社会問題、成功哲学といった話題について話した後、K先生は言った。「私たちの教えの核心には、究極の理論『スキマ原理』というものがある。公にすればノーベル賞級の理論だが、軽々しく教えを広めるのは危険なので、今は公にしていない」と。
2013-09-18 19:54:24あるとき、生徒たちとお茶を飲んでいて、以前は小さい会社を経営していたという年配の女性が言った。「私は、ひとを根こそぎ変えてしまうような教えを求めていた。ここ(オルターカレッジ)でそれを見つけた」と。この辺りで、僕もやっと「マズい」と思い始めた。Yさんの誘いを断るようになり、
2013-09-18 19:56:14彼女と距離を置いた。そんなある日、彼女からメールがきた。「自分たちが今学んでいる知識は、これまでの限界や矛盾を超えるようなもので、これを身につければ、新しいステージに立てる」といった感じの内容だった。
2013-09-18 19:56:54僕はゲーデルの「不完全性定理」に言及しながら、「論理は突き詰めると矛盾が露わになる、それこそが論理的だ」と返信した。「そんなことはない、あなたの言葉には力がない」といった返事がきた。それを境に、しばらく交流はなくなった。
2013-09-18 19:57:41僕は「彼女の目を醒ます」ために、そのとき自分が持っている知識を総動員して文章を書いた。ベイトソン、ルーマン、ジンメル、宮台真司などを引用しながら、「カルトの構造」を分析してみた。しかし、書き上げても、重い徒労感があった。こんなものを読んでも、
2013-09-18 19:58:55彼女がオルターカレッジを辞めることなどあり得ない、と思った。だが、それでも、読んでほしい。僕は彼女の誕生日にアパートを訪れ、五木寛之『サイレント・ラブ』にその文章の原稿をそえて渡した。
2013-09-18 19:59:31