ディオティマかく語りき エロスとイデアのヒミツの関係 -プラトン『饗宴』より-
- Hellenike_tan
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【文脈】『饗宴』で劇中のソクラテスが「エロース」について女占い師ディオティマから聞いた話をしていく過程で、彼女が「エロースとは、善きものの永久の所有に向かうもの」と語ります。そして「その実践」とは何か―について、「わからない」というソクラテスに答えを示します。
2013-09-17 02:25:14ディオティマによる「エロース」の定義
【ディオティマ曰く「エロース」とは】"ἔστιν ἄρα συλλήβδην, ἔφη, ὁ ἔρως τοῦ τὸ ἀγαθὸν αὑτῷ εἶναι ἀεί." "ἄρα"は「すると」といった意味の小辞、"συλλήβδην"は「要するに」という意味の副詞です。(続きます)
2013-09-19 00:30:15(承前)"ὁ ἔρως τοῦ"は冠詞単数属格が続きます。「エロースは、~のである」―帰属の属格で「~に帰属する」とするのが良さそうですが―が大枠になります。"τὸ ἀγαθὸν αὑτῷ"は「善なるものを自らに」。"εἶναι ἀεί"は「常にそうである」。(続きます)
2013-09-19 00:35:14(承前)全体で「すると要するに、と彼女は言った、エロースは善なるものを永遠に自らのものとするという方向に属するということ」となります。つまり「エロースは善きものの永久の所有に向かうもの」です。
2013-09-19 00:40:14「ではその実践とは何かわかるか?」と問われた劇中のソクラテスは「わからない」と答えます。
それを受けて、ディオティマは説明を続けます。
【ディオティマの答え】"ἀλλὰ ἐγώ σοι, ἔφη, ἐρῶ. ἔστι γὰρ τοῦτο τόκος ἐν καλῷ καὶ κατὰ τὸ σῶμα καὶ κατὰ τὴν ψυχήν" (続きます)
2013-09-17 02:30:14(承前)"ἔστι γὰρ"は"ἔστι"が先行して続く二つの言葉をコピュラと示します(小辞"γὰρ"(だから)が強調のために付されています)。その「二つの言葉」が"τοῦτο τόκος"。指示代名詞中性形単数主格・対格と男性名詞"τόκος"です。(続きます)
2013-09-17 02:35:14(承前)"τόκος"は"τίκτω"(産む)の派生語で「出産」を意味します。比喩表現で「収益」「利益」という意味も持ちますが、ここで言われているのはそもそもの意味「出産」です。(続きます)
2013-09-17 02:40:12(承前)"ἐν καλῷ"は「美しいものの中に」。全体で「なら私があなたに、と彼女は言った、話しましょう。それはつまり肉体においても精神においても美しいものの中での出産です」となります。
2013-09-17 02:45:14【ソクラテスのレス】"μαντείας, ἦν δ᾽ ἐγώ, δεῖται ὅτι ποτε λέγεις, καὶ οὐ μανθάνω." (続きます)
2013-09-17 02:50:14(承前)"μαντεία"は「占い」。"δεῖται"は"δέω"(欠けている・必要とする)の直説法現在三人称単数中・受動態。"μανθάνω"は「学ぶ」「理解する」。読みは「マンタノー」で、"μαντείας"(マンテイアース)と対応しているようにも聞こえます。(続きます)
2013-09-17 02:55:15(承前)全体で「占いが、と私は言った、あなたが言ったことを理解するには必要だ、私にはわからない」となります。
2013-09-17 03:00:21出産への傾注
【206cの冒頭】"ἀλλ᾽ ἐγώ, ἦ δ᾽ ἥ, σαφέστερον ἐρῶ. κυοῦσιν γάρ, ἔφη, ὦ Σώκρατες, πάντες ἄνθρωποι καὶ κατὰ τὸ σῶμα καὶ κατὰ τὴν ψυχήν," (続きます)
2013-09-17 03:05:14(承前)"σαφέστερον"は"σαφής"(明確な)の比較級で"ἐρῶ"(私は話す)に副詞として係ります。"κυοῦσιν"は"κυέω"(孕む)の直説法現在三人称複数能動態です。…ほんとに「もっとはっきり」言ってくれています…(続きます)
2013-09-17 03:10:14(承前)"ἔφη"以降は昨日までで解説しているようなことなので省略します。全体で「では私は、もっとはっきり言おう。つまり孕んでいる、と彼女は言った、ソクラテスよ、全ての人類は、肉体にも精神にも」となります。
2013-09-17 03:15:13【206cの続き】"καὶ ἐπειδὰν ἔν τινι ἡλικίᾳ γένωνται, τίκτειν ἐπιθυμεῖ ἡμῶν ἡ φύσις." (続きます)
2013-09-17 03:20:14(承前)"ἐπειδὰν"は「いつでも」。"ἡλικίᾳ"は"ἡλικία"(年齢・時期)の単数与格、"γένωνται"は"γίγνομαι"の接続法アオリスト三人称複数中動態。"τίκτειν"は"τίκτω"の不定法現在能動態。(続きます)
2013-09-17 03:25:15(承前)"ἐπιθυμεῖ"は"ἐπιθυμέω"(心を傾ける)の直説法現在三人称単数能動態、"ἡμῶν"は一人称代名詞複数属格。"ἡ φύσις"という主格型が"ἐπιθυμεῖ"の主語になります。(続きます)
2013-09-17 03:30:14美しいものの中で
【206cの続き】"τίκτειν δὲ ἐν μὲν αἰσχρῷ οὐ δύναται, ἐν δὲ τῷ καλῷ." "τίκτειν οὐ δύναται"は「出産はできない」、"ἐν μὲν αἰσχρῷ"は「醜いものの中で」です。(続きます)
2013-09-17 03:40:13(承前)全体で「出産することは確かに醜いものの中ではすることができず、美しいものの中で(することができる)」となります。…だんだんと物言いが露骨になってきますが…
2013-09-17 03:45:13【206cの続き】"ἡ γὰρ ἀνδρὸς καὶ γυναικὸς συνουσία τόκος ἐστίν." "συνουσία"。原義は「ともにあること」ですが、英語の"intercourse"の意味を持ち、"sexual ~"を暗喩する意味もあります。(続きます)
2013-09-17 03:50:14