榊一郎先生による「漫画から学ぶ演出情報の出し方」後半
- shiraishi_kouki
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帰ってきてドタバタしていたので、随分間が開いてしまいましたが、先日途中までやった「漫画を情報にまで分解して出し方と演出を学ぶ」的な作業の後半をちとツイートします。連投になるので、うざいと思う人は一時的にでもリムーブ推奨で。 #sousaku
2013-09-21 23:10:46ちなみに、参考図書(?)の松田未来先生の漫画ですが、すいません、題名間違えてました。「極光ノ銀翼」です(「極光の銀翼」と書いてた) #sousaku
2013-09-21 23:11:59とりあえず、とげったーか何かで、以前のコマ単位分解と、そこからの脚本おこしは見ていただいていると仮定しまする。そこから、ラノベ的な文章に書き起こしたものを、貼り付けていきます。ちなみに、敢えて小説なので、漫画には無い情報を加えている部分もありますが、 #sousaku
2013-09-21 23:14:57気がついた時には囲まれていた。 およそ考え得る限り最悪の状況と言って良いだろう。 「管制、聞こえるか!」 操縦士は悲鳴じみた声でそう通信機に喚いた。 「こちら第45輸送隊〈トンプソン13〉だ! 囲まれてる!」 #sousaku
2013-09-21 23:16:50彼と管制官との現状認識には大きな温度差が在った。この期に及んで管制官は間抜けにも『〈トンプソン13〉、一体何に囲まれているのか?』などと尋ねてきたからだ。 「何って……戦闘機だよ!」 コクピット・ガラスの向こう側。 #sousaku
2013-09-21 23:17:20そこに今もはっきりと戦闘機の機影が映っている。見える限りでは二機。だが恐らくそれだけではなかろう。確実にこちらを押さえる積もりならば三機以上で編隊を組むであろうから。 #sousaku
2013-09-21 23:18:06同じ航空機の範疇(カテゴリ)に含まれると言っても、鈍重な大型輸送機から見れば、戦闘機は最早、全く別の代物だ。同じ獣の範疇に含まれていても、羊と狼を同じ動物として論じる者など居ないのと同じく。 獰猛な捕食者とその哀れな獲物。両者の関係は基本的にこれだけだ。 #sousaku
2013-09-21 23:18:47「この“回廊”にはソ連の戦闘機は入って来ない協定だよな!?」 恐怖と焦燥をぶつけるかの様に操縦士は叫んだ。 安全な飛行である筈だったのだ。 #sousaku
2013-09-21 23:19:07★既に戦争は終わり、積んでいるのは軍事物資ですらない――だからこそ輸送機が護衛も付けずに飛べる。一度空に舞い上がれば、もう二度と地面を踏む事が出来ないかもしれない、そんな覚悟を必要とする時代は、終わった筈なのだ。★ なのに―― #sousaku
2013-09-21 23:19:39「――赤い星?」 操縦士に代わって機長が管制官の問いに答える。 ソ連機の標――即ち赤い星は、問題の戦闘機には確認出来ない。 #sousaku
2013-09-21 23:20:14この状況、打破するのに一番確実で手早い方法は、これらの戦闘機の上――つまりは獰猛な猟犬の飼い主と話を付ける事だ。味方の戦闘機が緊急発進で飛んでくるよりも、電信で抗議して退かせた方が何倍も早い。 だが―― #sousaku
2013-09-21 23:20:36「……分からん、機種は……」 「鼻の長いのが二機と……それに」 几帳面な機長は、戦闘機の機種を正確に答えようとして、言葉に詰まっている。苛立つ操縦士は彼を押しのけるかの様に答えた。機種の判断など管制官にやらせておけばいい。 「え……!?」 #sousaku
2013-09-21 23:21:09操縦士は――しかしそこで絶句した。 『どうした〈トンプソン13〉!?』 管制官が慌てた様に尋ねてくる。 機長も操縦士も揃って愕然と凍り付いていた。 異様なものが目の前にいる。 それは―― 「逆だ……」 呆然と呟く操縦士。 #sousaku
2013-09-21 23:21:33『何だって?』 「前後逆に飛んで――」 そう。それは『さかさま』だった。 その戦闘機は鼻先にプロペラが無い。代わりに機体の後部――後端にプロペラが装備されているのだ。それはあたかも、空中を逆進しているかの様な、異様な光景だった。 「何なんだこいつは!?」 #sousaku
2013-09-21 23:22:00〈トンプソン13〉の乗員達――彼等は知らなかった。 ★敗戦国の一つが、戦争末期、米軍の高高度爆撃機を迎撃する為に開発した局地戦闘機。 機体後部にプロペラを配した極めて前衛的な『前翼型』機の一種。 その名を――『震電』。 #sousaku
2013-09-21 23:22:23そう。知らずとも当然だ。 『震電』が実戦に参加した記録は無い。試作機が終戦の年にようやく完成した代物だ。当然、敗戦国の兵器としてそれらは米国が押さえている。だからそれは、今、この空を飛んでいるはずの無い、幽霊機であった。★ #sousaku
2013-09-21 23:22:45その『さかさま』の奇妙な機体の背後には、先にも見た『鼻の長い二機』の姿も見える。 機種もばらばらながら、同じ部隊であるかの様にその三機は揃って飛んでいた。 そして―― 『このまま高度と進路を維持して飛んでくださいませ』 通信が入る。 #sousaku
2013-09-21 23:23:18それが、件の『さかさま』からのものだと〈トンプソン13〉の乗員達が理解するには数秒を要した。斜め上を飛ぶ機体を仰ぎ見る乗員達は、まるで挨拶するかの様に機体を傾け、操縦席をこちらに向けている『さかさま』を見た。 #sousaku
2013-09-21 23:23:53『さかさま』の操縦士がこちらを向いているのが見える―― 『そうしてくださるなら、命の保証はいたします』 「命の保証だと? 武装して囲んでいるのはそっち……」 そこまで応じてから。 ようやく――機長は気付いたらしい。 #sousaku
2013-09-21 23:24:24空電雑音にざらつく電波越しのその声の、甲高さに。 機長ははっと驚きの表情を浮かべて言った。 「!? お前、女なのか?」 女が戦場に立つ事が無いとは言わない。 #sousaku
2013-09-21 23:24:46★やむにやまれぬ事情で非戦闘員が銃をとる事もある。だがそれも精々が銃や車といった歩兵兵器までだ。戦闘機となると、専門性が高く、維持にもそれなりの資材が必要となる以上、その辺に転がっていた武器を、素人が拾って使うのとは話が異なる。 #sousaku
2013-09-21 23:25:33操縦士達の常識では、専門訓練を積んだ女の兵士は恐ろしく珍しい存在だった。戦闘機乗りとなると皆無といっても良い位だ。★ #sousaku
2013-09-21 23:25:56しかし―― 『お話は後で』 『さかさま』の操縦士は何処か癖のある、しかも微妙に古臭い言い回しでそう答える。 恐らく英語圏の国の出ではないのだろう。 『幸運を!』 #sousaku
2013-09-21 23:26:33そんな言葉を残して機体を翻し、離れていく『さかさま』。 一体何を考えているのか? 確かにあの『さかさま』と仲間の二機は、完全に〈トンプソン13〉を包囲していた。それはつまり額に銃口を押しつけた状態に等しい。 #sousaku
2013-09-21 23:27:05