閉鎖楽園の戯言――失くした人・環境のせいにする人――

落し物回廊と、ゆとり君と
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ヨコシマくん @QUIZcat

君達は何かを失くした事はあるか? もちろん理性とか、貞操とか、夢とか、そう言った無形物ではなく有形の物だ。手袋や傘と言った物だね。持ち主の元に戻れば嬉しい事この上ないが、残念な事に大抵は持ち主の元に戻らずどこか一か所に集められるのだろう? 誰かしら集める人間がいると言う訳だ。

2013-09-24 16:54:45
ヨコシマくん @QUIZcat

では、失くした本人の手にも帰らず、拾う物すら見落とした物はどこに行くのか。どんなに探しても見つからず届けられてもいなかった落し物、不思議だと思わないか? ……拾う者が拾う前に『どこか異次元に消えてしまった』物が無いとは誰にも言い切れない。誰の意識からも外れた『隙間』がそこにある。

2013-09-24 16:59:17
ヨコシマくん @QUIZcat

いつか諦められて人の記憶から消え去ってしまった、探し物でも拾い物でもない、持ち主も拾得者もいない、曖昧な『失くし物』。……同じ属性を持つ物は引かれ合う。曖昧な物は同じく曖昧な場所に辿り着く。生も死も、正も負も、聖も邪も、清も濁も、静も動も、白と黒が綯交ぜのクローズド・ガーデンに。

2013-09-24 17:04:35
ヨコシマくん @QUIZcat

クローズド・ガーデン(以下閉鎖楽園と略す)の中心である僕の屋敷には腐るほど部屋があるのだが、その一室に『落し物回廊』と言う部屋がある。無限に続く長い長い回廊なのだが、ここにはありとあらゆる『現実からこぼれ堕ちた物』が寄せ集められる。君が幼いころに失くした何かもあるやもしれない。

2013-09-24 17:07:35
ヨコシマくん @QUIZcat

申し遅れた、僕はクレイオン。閉鎖楽園の管理人で、この屋敷に一人で住む者だ。曖昧な閉鎖楽園に相応しいのか相応しくないのか、僕の姿は人間でもないし獣でもない、曖昧な姿だ。どちらでもないし、どちらでもある。元は人間だが込み入った事情によりこんな姿になってしまった。説明は割愛する。

2013-09-24 17:11:23
ヨコシマくん @QUIZcat

さて、今日はその『落し物回廊』についてのお話をしようか。……あぁ、もし何か昔に失くした大事な物があるのであれば、言ってくれたら気が向いた時に探しておくよ。と言っても、取り返す事は不可能だ。落し物回廊には全ての落し物の持ち主『部屋の主(ルームマスター)』がいるからね……

2013-09-24 17:14:39
ヨコシマくん @QUIZcat

さて、今から語る出来事の多くは誰かによる嘆き弱音泣き事言い訳消極的発言で、大半が詭弁戯言虚言妄言暴言世迷言、ほぼ全て暴論屁理屈嘘八百出鱈目千万な発言だ。剣も魔法もドラゴンも魔王もお姫様も王子様も出てこない僕の物語……もとい僕の暇つぶしに付き合ってもらうとしよう。

2013-09-24 17:16:36
ヨコシマくん @QUIZcat

「失くしたんです」男は項垂れていた。「失くしてしまったんです、大事な、大事な物なんです」「ふむ。それは何ですか?」「全部そろって初めて意味を成すものです」「それは具体的に?」「言えませんが、大事な物なんです。愛する人の物なんですよ」そんな大事な物をどうして失くしたのか。

2013-09-24 17:20:19
ヨコシマくん @QUIZcat

だが、失くした物を探す為にわざわざ現実から次元の壁を「熱意だけ」で乗り越えてきたその情熱は認める。一応補足しておくが、ここは現実と幻想の合間にある次元の狭間である為、招かれない限りは簡単に入る事は出来ない。たまに彼の様に強い意志によって着てしまうトンデモ君もいるが、非常に稀だ。

2013-09-24 17:22:44
ヨコシマくん @QUIZcat

「お願いします、落し物回廊に入れてください。ここの噂を聞いてからもう30年も探していたんです!」ボロボロの服に、垢と皺だらけの顔。真っ白な髪の老いた男は、涙を流して懇願した。仕事も財産も人間関係も何もかもを捨ててその大事な物とやらを探していたのだろう。かっこいいじゃないか。

2013-09-24 17:25:11
ヨコシマくん @QUIZcat

「いいでしょう。ただし、落し物回廊はこの僕ですら管理下におけない特殊な場所です。『部屋の主』によって支配されている為、『主』の一存次第では貴方の身に危険が及ぶ可能性があります」「構いません」「最後まで聞いてください。いいですか、僕の言う事を必ず守ってくださいね」

2013-09-24 17:27:09
ヨコシマくん @QUIZcat

落し物回廊に限らず、屋敷の部屋には必ず特別なルールが存在する。……ルールと言うのも少しおかしいな。秩序を守り弱者を守るのがルールであるなら、部屋にあるそれは何の意味も無い『主』が気分で適当にこさえた約束みたいな物だ。破ったら不利益を起こすぞ! と言う『脅迫(バツゲーム)』に近い。

2013-09-24 17:30:07
ヨコシマくん @QUIZcat

「その一。落し物回廊に落ちている物を勝手に拾わない。その二。落し物回廊では物を落としてはいけない。その三。落し物回廊では絶対に『転んではいけない』。三つ目は特に重要です。脅迫(ルール)その一に従い、落し物を見つけてもそれは貴方の物にはなりません。当然、持って帰れません。

2013-09-24 17:34:55
ヨコシマくん @QUIZcat

脅迫その二、落し物回廊において落とした物は『落し物』とみなされて所有権が回廊側に移ります。無論脅迫その一に従い持って帰ることはできません。不安なら、貴重品は僕が屋敷で預かりますよ。そして、脅迫その三……落し物回廊では生物も無生物も同価値、無差別です。言っている意味が分かりますか?

2013-09-24 17:38:55
ヨコシマくん @QUIZcat

人も、『落し物』になり得る。脅迫その二に従い所有権が回廊に移り、脅迫その一に従い回廊から『持ち帰る』事ができません。……シンプルに言うと、転んだら出られないと言う事です。落し物回廊と言うだけあって、床が非常に散らかっているので注意してください。無理に脅迫を破れば……命に関わる」

2013-09-24 17:42:39
ヨコシマくん @QUIZcat

部屋の中は閉鎖楽園とは関係のない空間である為、願いも叶わないし蘇生も復活もできない。もちろん僕自身も危ないのだが……。「貴方は、それでも行きますか?」「行きます」すがりつくような、迷いの無い瞳。ここで止めてやるのが優しさなのだろうが、僕はあいにく優しくない。僕は誰にでも甘い。

2013-09-24 17:45:45
ヨコシマくん @QUIZcat

「貴方の願いを叶えます。付いてきて下さい。それと、僕のカンテラをお貸ししましょう。回廊の中は薄暗いので」「あ、あぁぁ! おおおお……」男は頭を地面にこすりつけ、言葉にならない声で何度もお礼を言った。「……回廊の中では地面に手を付いてはいけませんよ。『転ぶ』の定義に触れますから」

2013-09-24 17:48:25
ヨコシマくん @QUIZcat

屋敷の中、階段を上って左側。二階の奥の扉にそれはある。扉一枚隔てた向こうには屋敷の容積を明らかに超越した無限に広がる異空間が広がって……いや、伸びていると言うべきか。幅は君達の世界の単位で5m程。脇にはガードレールが立っていて、支柱の上に手袋や帽子が掛けられている。落し物だ。

2013-09-24 17:51:15
ヨコシマくん @QUIZcat

電車のつり革の様な物が天井から無作為ぶら下がり、全てに傘が掛けられている。床には雑誌、マフラー、おもちゃ、たまに鞄が丸ごと。足の踏み場が無い事もないが、煩雑としていて非常に危ない。ビニールやバナナの皮などと言うあからさまに悪意ある物も落ちている。『主』なりの笑えないジョークだ。

2013-09-24 17:55:20
ヨコシマくん @QUIZcat

「主は姿を現しませんが、常に僕らを見ています。この回廊自体が彼の胃袋みたいなものなので、気は抜かないように。ところでそれ、重くないですか?」「これは必要なものです」男は大きな背負い袋を担いだままだった。回廊の外で預かる事を申し出たが、持っていくと言って聞かない。

2013-09-24 17:57:28
ヨコシマくん @QUIZcat

中身は、恐らく落し物に関わりがある物だ。『全て揃ってこそ意味がある』。その場でしっかりと揃った姿を見たいと言うことか。確かに回廊からは落し物を持ちだせないので、完成した物はここでしか見る事が出来まい。不安を感じたが僕は了承した。それが彼の願いなら僕が聞かない訳にはいかない。

2013-09-24 17:59:51
ヨコシマくん @QUIZcat

僕たちは回廊の中に足を踏み入れた。僕は長い尻尾の先にカンテラをぶら下げ、杖で邪魔な物を払いのけながら進む。男はそれについてくる。杖は床に付いても『落し物』扱いにはならない。が、うっかり手を放して倒してしまうと『落し物』だ。そこの境目が実のところ僕にもよく分かっていないのだけど……

2013-09-24 18:01:52
ヨコシマくん @QUIZcat

男は杖を付き、何度も背負い袋を背負いなおし、汗をたらしながら歩く。カンテラはベルトにくくって固定してある。これは僕のアイデア。ここの回廊で杖は必需品だ。背負い袋を持って杖を付いたらカンテラを持てなくなる。僕がカンテラを尻尾にぶら下げてるのは彼の足もとを照らす為でもある。

2013-09-24 18:05:02
ヨコシマくん @QUIZcat

「……どの辺りに私の落し物はあるんですか」男が汗を拭いながら口を開く。「分かりませんが、歩いていたら見つかりますよ。主は貴方が探している物が分かります。彼の機嫌が良ければすぐに見つかりますが、気まぐれによってはかなり遠くに配置されるでしょうね」「私は諦めない」「それは何より」

2013-09-24 18:07:19
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