衛星打ち上げにおける「高度化」とは何か

LH2NHIさんによる今回のH2Aロケットでも使われた衛星打ち上げにおける「高度化」についての開設。参考になります。
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LH2 @LH2NHI

H2Aが海外衛星を打ち上げる話で、本格的に出てきた「高度化」の話。他にもスーパーシンクロナスGTOなど、いろいろな話が出てきているけど、何それ、と思われる方も多いのではないだろうか。

2013-09-27 22:09:28
LH2 @LH2NHI

せっかくなので、フォロワーさんの中には専門家の方もいらっしゃるので恐縮ですが、簡単に説明を…。

2013-09-27 22:10:21
LH2 @LH2NHI

これが、種子島やケープカナベラルから静止トランスファ軌道(GTO)へ衛星を打ち上げる場合の軌道。ロケットは赤色の軌道のところまでで、GTOに入るとすぐ分離される。 http://t.co/154MUn1eYk

2013-09-27 22:13:16
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LH2 @LH2NHI

緑色の軌道は静止トランスファ軌道。この軌道は遠地点で静止軌道と接触している。ここで衛星は搭載されたアポジ推進系により静止軌道に入る。

2013-09-27 22:14:06
LH2 @LH2NHI

ここで、GTO軌道傾斜角のところを見てみると、28.5度になっている。

2013-09-28 10:43:18
LH2 @LH2NHI

これは、射点が北緯30度にあると、そこから真東にロケットを飛ばした場合、軌道傾斜角28.5度のパーキング軌道に入るため。

2013-09-28 10:43:34
LH2 @LH2NHI

さっき、GTOは遠地点で静止軌道と接触しているといいましたが、こうなるためには赤道上空(DecendingNode)で加速してやる必要がある。ロケットが最も楽をできるのは軌道面変更をしない場合なので、30°の軌道傾斜角のGTOが最も楽

2013-09-27 22:19:21
LH2 @LH2NHI

さて、ここでさっきの図の黄色のΔVを見てください。1833m/sになっていますが、これが衛星がアポジキックをするのに必要な速度増分です。

2013-09-28 10:45:49
LH2 @LH2NHI

(追加)実際、H2Aロケットの高度化資料では、現在のアポジキックΔVは1830m/sと記されています。http://t.co/1opH1QNH31

2013-09-28 10:46:55
LH2 @LH2NHI

ではこれが、最初から軌道傾斜角ゼロ度のGTOだとどうか。ΔVが1467m/sになっています。アリアン発射基地、クールー宇宙センターはほぼ赤道直下にあるため、この軌道に投入することができて衛星は楽チンです。 http://t.co/emINRHkJfo

2013-09-27 22:22:57
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LH2 @LH2NHI

衛星打ち上げの主力がアリアンに移ると、アリアンの場合の静止軌道投入ΔV=約1500m/sが衛星の主流になってきました。さて、何とかして同じ速度増分にできないか…。

2013-09-27 22:26:13
LH2 @LH2NHI

そうだ、太陽同期軌道に飛ばすときのように、赤道上空でドッグレッグで曲げて軌道傾斜角0°のGTOに入れたら…ΔVが下がった!けどよく見ると、VehicleΔVが増えてますよ。  http://t.co/1axIVNsIy2

2013-09-28 10:49:36
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LH2 @LH2NHI

第2段第2回燃焼開始のタイミングでは、ロケットは7.7km/sで飛んでいるので遠地点での1.6km/sにくらべて速度のベクトルの矢が長く、ここで30°曲がるのはすごいロスになっています。

2013-09-27 22:30:32
LH2 @LH2NHI

曲がるのは、ゆっくりのとき=地球から遠いとき。軌道面変更の鉄則から考えると、静止軌道より高いところまで飛ばせば、衛星が軌道面を変えるのに有利なことがわかります。

2013-09-27 22:32:42
LH2 @LH2NHI

というわけで、遠地点が静止軌道に接触しても、ロケットの火を消さずにもっと加速して遠くまで衛星を放り投げてみます。これが「スーパーシンクロナストランスファ軌道」です。  http://t.co/DMjmejiaaM

2013-09-28 10:50:25
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LH2 @LH2NHI

スーパー=超 シンクロナス=同期 なので静止軌道より遠くまで衛星が飛んで行っているのがわかります。ここではソルバで簡単にGTOのアポジと傾斜角の最適化を行っています。

2013-09-27 22:36:47
LH2 @LH2NHI

この軌道だと、ロケットが活動しているのは赤い軌道のところだけ。アポジと静止軌道投入はどちらも衛星のアポジ推進系で行います。

2013-09-27 22:39:09
LH2 @LH2NHI

さて、これとは別に、衛星のアポジキックの途中までをロケットが肩代わりしてもΔVは減らせます。これがロングコーストGTO=高度化 です。 http://t.co/i6iCt1rKTl

2013-09-28 10:52:10
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LH2 @LH2NHI

(追加)このExcelではロケット側ΔVが最小になるようソルバにて最適化をしているのですが、軌道のパラメータは ペリジ高度約3000km、 アポジ高度=35786km 軌道傾斜角20°  でJAXAリーフレットとほぼ一致します! http://t.co/1opH1QNH31

2013-09-28 10:55:39
LH2 @LH2NHI

(追加)さて、同じようにGTO1500m/sに投入するのでも、軌道によってロケットに必要な速度増分(ΔV)は異なります。それをまとめると表のようになります。 ロケットのΔVはLEOからGTOまでの増分です。 http://t.co/cw0bVRDR5C

2013-09-28 11:11:52
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LH2 @LH2NHI

ここで黄色はロケットが負担、オレンジは衛星が負担するΔVです。ロングコーストでは黄色が2つあり、ロケットがアポジで速度を負担しているのがわかります。

2013-09-28 11:13:07
LH2 @LH2NHI

(追加)さて、この速度増分から能力を計算してみると…ロングコーストの場合1500m/sGTOに約5t 大体あってる。減少分は蒸発による損失とか電池・ヘリウムの増加分でしょうか。 http://t.co/bQOOxSjOXq

2013-09-28 12:16:56
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LH2 @LH2NHI

ペリジドッグレッグの場合は1.5tしか上がらないが、図でもう少しましなのはパーキング軌道高度を250kmより高くする、とか、何らかの方法を用いているのかも。

2013-09-28 12:18:46
LH2 @LH2NHI

スーパーシンクロナスはちょっと低いけど、ロングコーストと大きくは違わないので、おそらく高度化前の1500m/s GTOはペリジドッグレッグによるものと思われる。

2013-09-28 12:20:19
大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

@LH2NHI なるほどです。正確にそのへんを記述した資料がないので、確認できないのです…2段で傾斜角変更したら、そりゃロスりますよね。スーパーシンクロナスはエネルギーとは別の理由でやりにくいという話もちらっと聞きました。

2013-09-27 22:57:03