ホワット・ア・ホリブル・ナイト・トゥ・ハヴ・ア・カラテ #6
フブキ・ナハタはもう助からない。彼はこの施設内にある生命維持装置の性能を熟知している。ならばせめて安らかに。ラヴェジャーは涙を拭い、サスマタを構え、自らもドラゴン・ニンジャを追跡すべく立ち上がった。そのイクサの中で爆発四散しても構わないという、ハラキリめいた覚悟を決めていた。 1
2013-09-29 22:48:37だが、呼び止める微かな声。「ラヴェジャー=サン……」フブキだ。彼は一瞬躊躇した後、うやうやしく身を屈め、蒼白してなお美しいフブキ女史の耳元に自らの醜い顔を近づけた。シツレイを承知で。「私の脳は、顔は、胸は、無傷かしら」「……おお、フブキ=サン、全てが美的……美しいままですぞ」 2
2013-09-29 22:53:25フブキもそれ以上は問わない。腹から下がどのような有様かは知っているからだ。ラヴェジャーはそこで会話を止め、ツキジ・ダンジョンへ向かおうとした。このままここに留まれば……フブキが何を望むかは容易に予測できたからだ。「リー先生……ケーキを……」女史はラヴェジャーに何事かを告げる。 3
2013-09-29 22:56:43「おお、まさか、フブキ=サン!なりませんぞ!ニンジャソウルは呪い!ましてやゾンビーニンジャなど!永劫の呪いです!」ラヴェジャーは涙の粒をぼろぼろと零しながら警告を発した。「何卒、この美しさのままプラスティネーション埋葬を……」「ダメよ……!リー先生!永遠に御側におりますわ!」 4
2013-09-29 23:02:17「なりません!」ラヴェジャーがサスマタの柄で床を叩く!だがフブキは最後の力を振り絞り、自らの首元に濃縮ゾンビーエキスを注射!ナムアミダブツ!「ンアーッ!」フブキ女史は痙攣し、生命活動を停止!「ALAS!」ラヴェジャーは胸が張り裂けるような苦悶を味わい、天を仰いで両腕を広げた! 5
2013-09-29 23:06:50「お前たち!進め!進めーッ!」ラヴェジャーはゾンビーニンジャたちに怒鳴ると、サスマタを投げ捨て、死せるフブキ・ナハタの上半身を抱え上げた。「アバー……。ウウウウウ……ラメシイ……イタイ……イタイ……」クラーケンの呻き声を後に、ラヴェジャーは逆方向へ駆けた。ナハタ女史のラボへ! 6
2013-09-29 23:10:37「ハッ!ハッ!ハッ!」ラヴェジャーはノミめいてラボと回廊を巧みに飛び跳ね、ケーキが乗った荷台とともにまっしぐらにリー先生のラボへ!急がねば!常人に濃縮ゾンビーエキスを注入した場合、その死体は理想的なニンジャソウル強制移動憑依の受け入れ状態となるが、制限時間は限られているのだ! 7
2013-09-29 23:15:12「リー先生、お許しください!災厄を招き入れたのはこの私めだったのかもしれません!ですが、どうか今すぐ目覚めてフブキ=サンに処置を!身勝手をお許しください!」ラヴェジャーはラボの床で寝息を立てるリー先生の腕に、秘密の気付け剤を注射する!「アイエエエエエ!?」身を起こすリー先生! 8
2013-09-29 23:22:20リー先生の天才的ニューロンは瞬時にブーストされた!目の前にはフブキの死体、腐ったケーキ、そしてニンジャ生首のホルマリン漬けが!「これは……フブキ=サンからの誕生日プレゼントで御座いました」ラヴェジャーは嗚咽とともにケーキを抉り、中から小型密閉ケースを取り出しリー先生に捧げた! 9
2013-09-29 23:28:53その中に納められていたのは、先程フブキが自らに注射した新型濃縮ゾンビーエキスの組成フォーミュラと、記念すべき第49体目製造のために彼女が構築したプロジェクトメモ!「フブキ君……随分と思い切った事をしたネェー!」リー先生は笑みを浮かべ、血まみれの白衣をなびかせて立ち上がった! 10
2013-09-29 23:34:21リー先生は隔壁を開き、ソウル分離装置があるラボ心臓部へ向かう!「イヒヒーッ!成る程ネェ!フブキ君、確かにそうだ!記念碑的作品に相応しい知性!刺激的なプレゼン!」「おお、リー先生!彼女は蘇るのですか!?いや、駄目です!必ずや悲劇が!いや、しかし!ああ!」嗚咽するラヴェジャー! 11
2013-09-29 23:43:16「素晴らしいネェ!フブキ君!君の望みどおりにしてあげよう!イヒヒヒーッ!私の最高傑作だ!取って置きのニンジャソウルをくれてやる!」リー先生は興奮して飛び跳ねながら、フブキの上半身死体を抱えて片方のカプセルへ、そしてニンジャ生首ホルマリン漬けをもう片方のカプセルへと納めた! 12
2013-09-29 23:49:17「ラヴェジャー=サン!電力準備!」「ハイ!」ラヴェジャーが飛び跳ね、極めて危険な高電圧ブレーカーを一つ一つ上げてゆく!バチバチバチ!室内にテスラコイルめいた放電現象!「いつもより電力重点だ!限界まで上げろ!ラボが吹き飛んでも構わないーッ!」リー先生が興奮で過呼吸状態に陥る! 13
2013-09-29 23:54:41「ハイ!」ラヴェジャーは最後のレバーに手をかけ、一瞬躊躇する!何がフブキの幸福なのか?そして己の身勝手は?……歯を食いしばりながら彼はブレーカーを上げた!UNIX機関システムに直結したジェネレーター群の電力が、全てこの装置に集まってゆく!リー先生の頭髪までもが逆立ち始める! 14
2013-09-30 00:01:25「作動!」リー先生はINW装置の動作ボタンを押下する!ギュウイイイーン!生首の入ったカプセルに異音が鳴り響き「アバ……アババババババーッ!」生首が爆発四散!カプセルの内側が血に染まる!そこへツキジ上空を覆っていた黒雲から落雷!「グワーッ!」レバーを抑えるラヴェジャーが感電! 15
2013-09-30 00:06:52「ラヴェジャー=サン!何としても電力を保て!」リー先生が寝転がりながらヒステリックに叫ぶ!重いブレーカーレバーは凄まじい力で電力をダウンさせようと下に動く!「イヤーッ!」自らのカラテを限界まで搾り出し、ラヴェジャーはブレーカーレバーを上げ続ける!電気ショックが全身に走る! 16
2013-09-30 00:10:56「見たまえ!生首から搾り出されたヨミ・ニンジャのニンジャソウルが、間もなくフブキ君の死体に憑依するぞ!」だがその時!「ウウウウウウ……ラメシイ……!」突如、制御を失ったクラーケンがラボに乱入!自らを苦しめ続けたフブキのカプセルに向かって、巨大肉塊が触手を伸ばし飛び掛かる! 17
2013-09-30 00:21:01バリバリバリ!高圧電流がクラーケンにも襲いかかる!「シュシューッ!」知性無き巨大肉塊は闇雲に暴れ触手を装置に叩き付けた!KBAM!制御系UNIXに連鎖誤作動が発生!KBAM!憑依先として維持されねばならないはずのフブキの死体が爆ぜ、一瞬でカプセル内側が血に染まる!想定外! 18
2013-09-30 00:27:08「そ……そんな!フブキ=サン!グワーッ!」絶叫するラヴェジャー!「電力を止めるな!ブレーカーを上げ続けろ!」リー先生は天才的状況判断でカプセル落下ボタンを叩く!「シュシューッ!」クラーケン本体は頭上から降ってきたソウル抽出カプセル内にトラップ!触手を切断される! 19
2013-09-30 00:32:12「シュシュシューッ!」KBAM!クラーケンの腐肉塊も爆ぜる!だがこの先どうする!?ゾンビーニンジャからのソウル再憑依は不可能……それどころか憑依先を即座にコンタミ爆発四散せしめる!「リ、リー先生!ど、どうするのです……!」執事が叫ぶ!「うるさいネェー!今考えているのだ!」 20
2013-09-30 00:37:29CABOOM!CABOOOM!UNIXが連鎖爆発を開始!直後、何故リー先生がそのような行動をとったのか……常人たる我々には理解し得ないであろう!彼は狂気的閃きの中で仮説を構築し、ドラゴン・ニンジャから得た稀少なニンジャ水晶オーパーツを触媒としてINW装置にセットしたのだ! 21
2013-09-30 00:42:06「グワーッ!」ラヴェジャーは一縷の望みとともに高圧電流レバーを支え続けた!KABOOOM!フブキの納められていたカプセルが爆発!凄まじい煙がラボを覆う!……直後、装置は力を失い、ゼンめいて停止した。感電が止まる。膝をついたラヴェジャーは、煙幕の中にフブキ・ナハタの幻を見た。 22
2013-09-30 00:56:08同じ頃。ドラゴン・ニンジャは再びエーリアスを抱き、ツキジ・ダンジョンを駆けていた。ラボからの激しい追撃、さらに地下迷宮を徘徊している数々のゾンビーニンジャからの攻撃をかい潜る。逃げの一手でカラテゾンビの猛攻を辛くも振り切った直後……二人はただならぬニンジャ存在感を察知する! 23
2013-09-30 01:03:43エーリアスのみならず、ドラゴン・ニンジャさえもが、戦慄に汗を滲ませた。地下全体に冷たい悪意の根が張り巡らされたかのような感覚!何か恐るべき存在が壁などお構い無しで一直線に追いすがってくるような感覚!あるいは魂を凍らせる超自然のブリザードが吹き付け吸い戻されるかのような感覚! 24
2013-09-30 01:11:03