【twitter小説】氷のイコン#1【ファンタジー】
そのダンジョンは壁面が鏡のような氷で出来ていた。床は石畳で歩きやすいようになっている。四角く切り取られた通路は磨かれたようにつるつるで、紋様の掘られた石壁が透き通って見える。天井は光源になっており、視界は良好だ。 1
2013-09-18 15:33:52赤錆の鎧を着た騎士ミェルヒと冒険画家のエンジェは、とある依頼でこの氷のダンジョンを訪れた。近くにある村では、ひとが誘拐にあっているのだ。村人の目撃情報によれば人さらいはこのダンジョンに逃げて行ったという。 2
2013-09-18 15:38:16ダンジョンは古代の施設であり、一般人が踏み入れるにはかなり危険な場所だ。それで騎士であるミェルヒ達に依頼をしたのだ。依頼はさらわれたひとを可能な限り助け出すこと。ミェルヒは剣で、エンジェは魔法で武装していた。 3
2013-09-18 15:44:44しかし、このダンジョンは一般的なダンジョンに比べ非常に静かだった。ダンジョンで無尽蔵に生成される魔力などの恩恵を受ける凶悪な生物やならず者がいるのが常だが、このダンジョンは非常によくコントロールされているようだった。 4
2013-09-18 15:50:01「ミェルヒ、ここは静かだね。今回の依頼は、人さらいをとっちめて終わりかな」 「静かに。ここはよく声が響く……」 エンジェは慌てて口をつぐむ。しかしどうしても足音が響いてしまう。 5
2013-09-18 15:54:44ミェルヒは赤錆の小手に据え付けられたシリンダーを撫でた。するとシリンダーは淡く緑に発光し、魔法を構成する。建築物探知の呪文だ。続けて頭を覆うバシネットの装飾シリンダーを撫でる。今度は生命探知の呪文だ。 6
2013-09-18 15:59:13建築物探知の呪文でダンジョンの構造を、生命探知の呪文で周囲に存在する生き物をそれぞれ知覚する。この程度の魔法は市販のもので、冒険者がよく使う簡易魔法だ。魔法使いでなくても、こうして簡単な魔法は行使できる。 7
2013-09-18 16:04:26『単純な構造のダンジョンだ。枝分かれも少ない。先に1体、もう1体。深部に多数の生命……さらわれたひとは奥にいるかな』 ミェルヒはテレパスの魔法で声を出さずエンジェに告げる。テレパスは声を介さず距離もある程度無視して意思疎通できる。 8
2013-09-18 16:11:14『了解。先にいるのは……門番かな』 エンジェもテレパスで応える。エンジェは多数のシリンダーを身体に埋め込むことで疑似的に魔法使いのように動ける。殺傷性の高い戦闘用の魔法もいくつか準備していた。 『エンジェ、注意して。1体近づいてくる』 9
2013-09-18 16:15:22ミェルヒは盾を構え、ゆっくりと前進する。ズシズシという重い足音が近づいてきた。人間の足音には思えない。曲がり角を注意深く曲がる。先にいたのは……巨大な雪熊だった。 10
2013-09-18 16:19:24雪熊は白い毛むくじゃらの生き物で、足が短く腕が長い。首は短く、頭は潰れたように小さい。本来は北のモスルート地方に生きる生物だが、冷たいこのダンジョンに適応したのだろうか。彼らは非常に力強い危険な生き物だ。 12
2013-09-19 16:33:56雪熊の突進を盾で受けるミェルヒ。盾で横殴りにするようにして突進の威力を逸らす。赤錆の鎧の重さも感じさせない、まるで闘牛士のように華麗に盾を使い雪熊の突進をいなす。その間、エンジェは魔法の用意が出来たようだ。 13
2013-09-19 16:41:41エンジェは銀色に光る絵筆を振る。すると彼女の腕に埋め込まれたシリンダーが共鳴し、破片の呪文が効果を現す。鋭い破片が真っ直ぐ雪熊を追尾し、彼の胴体に食い込んだ。雪熊はグオオオを叫び声をあげ、動かなくなった。 14
2013-09-19 16:49:21「まだ生きてるの?」 エンジェはミェルヒに近寄る。ミェルヒはまだ生命探知の呪文が生きている。雪熊は生きているようだったが、戦う意思は無いようだ。その場にうずくまって死んだように動かない。痛みがかなり酷いようだ。 15
2013-09-19 16:55:27「この場を離れよう。手負いの獣は恐ろしい」 後ろからの襲撃に注意しながら二人はその場を離れた。雪熊は時折うめき声をあげていたが、追ってくる様子は無くそのまま通路の陰に見えなくなった。警戒を続けながら二人は先に進む。 16
2013-09-19 17:00:40『この先に部屋がある。生命反応が1体。おかしいな、かなり弱い』 テレパスでミェルヒが告げる。通路の先には木製の扉があり、びっしりと霜が貼りついていた。鍵がかかっていたが、この程度ならばエンジェが魔法で開錠できる。 17
2013-09-19 17:04:40鍵を開け、勢いよく扉を開いた。戦闘を警戒したが何事も無く沈黙が続いた。部屋は通路と同じように氷漬けになっており、木製の家具はやはり霜でびっしりだ。ミェルヒは用心深く部屋に侵入する。扉の陰になって見えなかった壁に……。 18
2013-09-19 17:09:51ミェルヒは息を飲んだ。エンジェが続けて入り、やはり驚く。壁の一面に、女性が貼り付けられているのだ。それは氷で完全に覆われ、氷漬けになっていた。見たことも無い民族衣装に身を包んでいる。 19
2013-09-19 17:17:56髪は鮮やかな藍色をしており、赤と黄色の模様の布を頭に巻いていた。やはり赤と黄色を基調とした三角形模様のローブを身につけている。このような服は見たことが無かった。ミェルヒやエンジェは各地を旅し見聞を広めていたが、記憶にない模様だ。 20
2013-09-19 17:22:39女性は眠っているようだった。肌は青白く、まるで氷のようだ。藍色のまつ毛は長く、氷が溶けたら今にも起きだしてきそうだった。 「生きてるの……?」 「みたいだ。かなり弱いけれど」 21
2013-09-19 17:29:47