絵が先 「聴く少年」（仮） 【絵描きからの逆襲(5)】（出題画：色崎さん）

ねこや堂 @nekoyadou

@ts_p 日勤組の方、どなたかtogaって下され。 RT @iroha_ya: 【絵が先】ご挨拶を兼ねて初参加！少し前に描いた絵ですが、よろしくお願いします！もう少し彩度を抑えたら、暗いお話でも行けるかなぁ… #tknk http://yfrog.com/bb15dj

クロミミ跡地 @kuromimigen

@nekoyadou @ts_p @iroha_ya 「タイトル未定」でトゥギャリますので、ご希望の案がございましたら教えてくださいませ。後程、差し替えますﾉｼ

水崎沙亜乃 @roseroserose3

@ts_p　絵が先 「聴く少年」【絵描きからの逆襲(5)】（出題画：色崎さん） 投下します。　#tknk

水崎沙亜乃 @roseroserose3

蓮は迷っていた。学校を早退した帰り道、気まぐれに知らない路地を歩いていたら、元の通学路に戻れなくなっていたのだ。参ったな。もう小一時間は同じ所をうろうろしている。まあ、早退と言っても、体調不良が理由ではない。〈機嫌不良〉で無理矢理学校を出てきたのだ。

水崎沙亜乃 @roseroserose3

@ts_p　絵が先 「聴く少年」【絵描きからの逆襲(5)】その２　#tknk

水崎沙亜乃 @roseroserose3

まだ下校には早い時間。真っ直ぐ帰れば、母の憂い顔が出迎える事だろう。蓮はそれを思うと一気に気分が沈む。暗い気分のまま角を曲がると、空き地が目に飛び込んできた。なんだここ。雑多なガラクタがうず高く積まれた広場。近所の人のゴミ捨て場になっているのだろうか。

水崎沙亜乃 @roseroserose3

@ts_p　絵が先 「聴く少年」【絵描きからの逆襲(5)】その３　#tknk

水崎沙亜乃 @roseroserose3

茫然と眺めていると「おや」と、背後から声をかけられる。蓮が振り返るとそこには、薄汚れた着物を纏った小さな老婆がいた。「お前さん迷子かい？　それとも探し物かい？」老婆は黄ばんだ歯をガハハと見せながら笑った。「探し物？」

水崎沙亜乃 @roseroserose3

@ts_p　絵が先 「聴く少年」【絵描きからの逆襲(5)】その４　#tknk

水崎沙亜乃 @roseroserose3

「ああ、そうさ。ここは色々な失せ物の溜まり場なのさ。お前さんの探し物もきっと見つかるよ」「探し物――」蓮は思わず呟く。自分は何か探していただろうか。

水崎沙亜乃 @roseroserose3

@ts_p　絵が先 「聴く少年」【絵描きからの逆襲(5)】その５　#tknk

水崎沙亜乃 @roseroserose3

今日学校で進路指導があった。志望の高校だと、成績は申し分ない。しかし病欠が余りにも多すぎるので、内申で不合格になるかもしれない、それならばワンランク下げて、推薦で入れる高校に変更したらどうだ、と担任に言われた。病欠。好きでしている訳じゃない。ちょっと心臓がポンコツなだけだ。

水崎沙亜乃 @roseroserose3

@ts_p　絵が先 「聴く少年」【絵描きからの逆襲(5)】その６　#tknk

水崎沙亜乃 @roseroserose3

蓮が行きたい高校は、音楽や美術に力を入れていて、音楽が好きな蓮は、その高校の吹奏楽部に入る事を強く希望していた。楽器なんて、心臓に負担が係る。母もいい顔はしていなかった。それでも志望校に向けて、蓮は一生懸命勉強に励んでいたのだ。

水崎沙亜乃 @roseroserose3

@ts_p　絵が先 「聴く少年」【絵描きからの逆襲(5)】その７　#tknk

水崎沙亜乃 @roseroserose3

自分が周りの人全員に否定されたような気がした。それで蓮は学校を飛び出した。「おや？」老婆の声で蓮は我に返った。「これ、お前さんの探し物じゃないのかい？」「え……」老婆が差し出したのは黒いヘッドフォン。「違うと思うけど」「あんたのモンだ。まず耳に当ててみな」老婆はニッカリ笑った。

水崎沙亜乃 @roseroserose3

@ts_p　絵が先 「聴く少年」【絵描きからの逆襲(5)】その８　#tknk

水崎沙亜乃 @roseroserose3

蓮は釈然としないながらも、老婆に従いヘッドフォンを耳に当てた。「ふ……ああっ」思わず声が出る。これは……。「分かるかい？　お前さんの心臓の音さ」心地よいリズム。当たり前だ、自分の発している音だ。気がつけば鞄を放り出し、近くにあった古いテレビに腰かけ、蓮は心臓の音に耳を傾けた。

水崎沙亜乃 @roseroserose3

@ts_p　絵が先 「聴く少年」【絵描きからの逆襲(5)】その９　#tknk

水崎沙亜乃 @roseroserose3

とくんとくん。これは母の胎内にいた時の音。やがて激しく波打つような音に変わる。ああ、心臓の病気の時の音か。そしてまた穏やかな音になる。これは俺が生きている証の音だ。進路、不貞腐れないできちんと考えよう。蓮は老婆の存在も、道に迷っていた事も忘れて、ただただ命の音を聞き続けていた。

（かずぷー） @kaz_poo

@ts_p　色崎さんの『絵が先　／　聴く少年』を投下します。タイトルは『少年』です。#tknk

（かずぷー） @kaz_poo

「……また、あの話かい？　アンタはいつもそれだね」禁制品の酒を扱う小料理屋で、皺だらけの女将が呆れ顔をする。「いいから聞かせてくれよ。わざわざ、こんな店まで来てるんだからさ」「一言、余計だよ」年老いた女将は、狭いカウンターの内側で、器用に立ち振る舞いながら、

（かずぷー） @kaz_poo

遠い昔の想い出を語り始めた。彼女がまだ幼かった頃に出会った、＜少年＞の話である。当時、彼女が住んでいた集合住宅の廊下に、いつも同じ少年が居た。少年は、いつまで経っても回収に来ない粗大ごみの上を指定席にして、ヘッドフォンで音楽を聴いていた。「なにしてるの？」「寝てる」

（かずぷー） @kaz_poo

「ねてないよお」彼女がくすくす笑うと、少年もくすくす笑った。「寝てるんだよ。だって僕は今、夢の中に居るのだから」「ゆめのなかぁ？」「そう。夢の中は楽しいんだ。何でも思い通りだからね」「おうち、はいらないの？」その問いに少年は答えなかった。「はい」 返事の代わりに、

（かずぷー） @kaz_poo

少年はヘッドフォンの片方を彼女の耳に当てた。「わ、うるさい！」はしゃぐ彼女の姿を見て、少年はまた、くすくす笑った。「これは夢の世界へ入るための呪文なんだよ。呪文を聴いているとね、現実は溶けて消えちゃうんだ。……ちょっと君には早いかな？」「アタシ、わかるもん」