【twitter小説】氷のイコン#3【ファンタジー】
エンジェはダンジョンの最奥へ連れて行かれた。それはドーム状の広い部屋で壁に様々な機械が貼りついていたが、みなすべすべした透明な氷の壁の下にあった。床は石畳で霜がびっしりと生えている。まるで冷凍庫だ。 65
2013-09-24 16:29:19ドームの床にはいくつもの氷柱が生えていた。中に氷漬けになった者たちが見える……さらわれた村人たちだ! ミェルヒの言っていたたくさんの生命反応というのは彼らのことだろう。呪いの氷で閉ざされていて死んではいないようだった。 66
2013-09-24 16:34:02「ふヒ、ここカら生命エネルギーを吸収しテご主人様ニ供給しているのダ」 氷漬けのひとたちの一部は色がうすくなり氷と一体化しているようだった。はやく助け出さないと完全に氷になってしまうだろう。 67
2013-09-24 16:38:18エンジェは腕に埋め込まれたシリンダーの疼きを感じた。魔法が復活しつつある。しかしそれをゾンビに悟られぬようポーカーフェイスを継続した。完全に魔法が復活するまでもうすぐだ。ゾンビは全く気づかずに呪文を詠唱している。 68
2013-09-24 16:43:03呪文の詠唱によってゾンビの目の前に氷の柱が現れた。エンジェも氷漬けにしようといううのか。氷漬けにされたら脱出は不可能だろう。エンジェはゾンビに話しかけた。 「いつあなたのご主人様は復活するの?」 69
2013-09-24 16:48:33「うるサい、もウすぐ、もうすぐナんだ。環境が悪イだけだ。もっト空気中ノ魔力の質が変化すレば……」 「魔力の質? 昔と今では空気が違うの?」 「アあ……魔力の温度がイまは高すギる。いや、古代の氷積世の魔力ノ温度ガ特別低すぎタんだ」 70
2013-09-24 16:52:00ゾンビの話によれば、魔力には気温と同じように温度があるらしい。温度が極限まで低くなれば魔力は結晶し、逆に高くなり過ぎれば魔力のプラズマ……神聖破となる。これは非常に難しい話で、メデセク人は低い魔力温に適応した種族だったのだ。 71
2013-09-24 16:56:16いまメデセク人であるゾンビの主人が復活しても、高すぎる魔力温によって全身に大やけどを負ってしまうらしい。だからこそ彼女はこの氷のダンジョンで氷漬けになって生きながらえているのだ。移動することもできず、生命維持することだけで精一杯だ。 72
2013-09-24 16:59:24ゾンビは饒舌に喋りはじめた。その間氷柱の作製作業は止まっていた。もう少し、もう少しだ……エンジェはさらにゾンビから話を引き出そうとする。魔力の復活まで、もう少し。エンジェは汗を流さないようポーカーフェイスを続ける。 73
2013-09-24 17:02:34「世界ノ端、極地や遥カ高い高地ナら魔力温が低イ可能性がアる……準備が、準備ガできタら行けルんだ。もうスぐ、もうすグなんダ……」 「ええ、もうすぐ……今だ!」 エンジェはシリンダーを起動し魔法を構築する! 74
2013-09-24 17:05:21「シマッタ!」 気づいたときにはもう遅い。エンジェは爆裂の呪文を完成させ、ゾンビの後頭部に炸裂させた。ダンジョンが軋み、重い爆発音が響いた。 75
2013-09-24 17:10:29爆風はゾンビの背後に抜け、彼に大きな衝撃を与える。その隙に続けて赤熱の呪文を構築する。エンジェの身体は赤く熱せられ何倍もの腕力を与える。彼女を縛る腕をこじ開けると、掴んだ腕がぶすぶすと焦げた。たまらずゾンビは彼女を放す。 76
2013-09-25 17:36:29「おのれ……オノレ……」 まだふらふらしているゾンビに向かい、さらに破片の呪文を浴びせかける。今度はあの黄色い息を浴びないよう隙を与えず連続で攻め続ける! ゾンビはふらつき傷つきながらも生贄の氷の陰に隠れた。 77
2013-09-25 17:43:32位置が悪い。ゾンビが隠れたのは入口の近くの氷柱だ。この部屋から脱出するためにはゾンビの隠れた氷の脇を通らねばならない。それは奇襲を受けてまた魔法が使えなくなることを意味していた。手持ちの魔法を確認しつつ膠着状態が続く。 78
2013-09-25 17:48:43このドーム状の部屋はかなり気温が低く、エンジェの体力を奪う。氷のダンジョンと聞き防寒をしておいたが、それでも十分ではなかった。持久戦はまずい。魔法もいつもより効いていないようだった。これも例の魔力温のせいだろうか。 79
2013-09-25 17:54:22「かわいソうなセミ……冬が来タら死んでシまう……」 笑うようなゾンビの声が響く。気温が異常なまでに下がっていく。あのゾンビはこのダンジョンをコントロールしているのか? このダンジョンは主人を活かす生命維持装置と言っていた。 80
2013-09-25 17:58:37意を決し氷柱の陰に踏み込むべきか。そうなったら奴の思い通りだ。このダンジョンの設備を破壊できないだろうか? 気温がどんどん下がっていきエンジェのまつ毛が凍っていく。ダンジョンの機械はぴかぴか緑や赤に光っていたが、みな厚い氷の下だ。 81
2013-09-25 18:03:29氷を溶かし設備を破壊するためには少し準備がいる。それは儀式の準備をし、ゾンビの前に無防備な姿を晒さなくてはいけない。本当の魔法使いならば手足のように魔法を使えるのだが、残念ながらエンジェは似非魔法使いだ。 82
2013-09-25 18:06:27「フふ……雪が降るヨ……」 言葉通り、さらさらと氷の粒が……空気中の水分が結晶し降り注ぎ始めた。エンジェは身体を抱き震えていた。このままでは何もせずに殺されてしまう。 『たすけて……ミェルヒ』 83
2013-09-25 18:10:40エンジェはテレパスを試みた。距離によっては失敗する可能性があったが、ともかくミェルヒに助けを求めた。ミェルヒは……応えた! 急にゾンビが悲鳴をあげた! 84
2013-09-25 18:14:15「ヤメロ! やめてくれ!」 ゾンビは慌ててこの部屋を出て行った。気温が上がり始め、エンジェはぐったりと膝をついた。 『何をしたの……ミェルヒ。ありがとう、助かったよ』 85
2013-09-25 18:17:42