#とある主婦の終日滅亡【10月21日 #全滅亡祭】

10月21日に開催された #世界もう滅ぼしたい協会 主催の #全滅亡祭 用に書いた、エッセイ風の短編小説です。
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春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

日課のインターネットをチェックしていると、今日は #全滅亡祭 の日らしくて、今日で世界が滅びる話で盛り上がっていた。あら、いやだ。それは大変ね。困ったわ。今夜の夜ご飯、何にしようかしら? #10月21日最後の晩餐 #とある主婦の終日滅亡

2013-10-21 11:34:32
春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

とりあえずネットは閉じて、洗濯機を回す。その間にトイレ掃除。今日で世界が終わりだから、ちょっと念入りに。カバーを新しい物に変え、使用済は衣類の洗濯が終わった洗濯機へ放り込んで、スイッチオン。洗濯物を干しながら、夜ご飯を考える。何がいいかしらね。 #とある主婦の終日滅亡

2013-10-21 11:47:17
春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

昨夜は、白菜と魚のすり身がたくさん入ったお鍋だった。じゃあ今日は肉かしら。肉料理。でももうすぐお昼になっちゃうから、すごく手間のかかるのは無理ね。ローストビーフとか、絶対無理。あ、洗濯機さんが呼んでる。はいはい。お昼食べて、スーパーへ行ってから考えよう。 #とある主婦の終日滅亡

2013-10-21 11:54:14
春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

スーパーの精肉コーナーでどれを買おうか悩んでいると「奥さん」と声をかけられた。「あら、どうも隣の奥さん」「どうもー今夜の献立、悩んでるの?」「そうなんですよー今夜は最後の晩餐になるので」「あらあら、大丈夫?旦那さん、浮気した?」「あ、いやそうじゃないです」 #とある主婦の終日滅亡

2013-10-21 15:12:29
春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

ネットで、今日で世界が滅びる祭をしていたと説明すると、隣の奥さんは真顔になった。「え、そうなの?今夜、肉野菜炒めにするつもりだったのに。駄目じゃない」「この国産の豚バラブロック、安いですよね?」「あらほんと。じゃあ角煮にしようかしら?」「あ、いいですねー」 #とある主婦の終日滅亡

2013-10-21 15:16:32
春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

隣の奥さんが簡単な角煮の作り方を教えてくれたので、角煮用の肉を1ブロック、カゴへ入れた。後は、冷蔵庫にあるもので付け合わせとか作ればいいかな。どうやって世界が滅びるのかわからないけど、今夜で冷蔵庫が止まったりしたら、食材がもったいないわよね。 #とある主婦の終日滅亡

2013-10-21 15:21:19
春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

スーパーから出ると、どんよりした夕暮れ。真っ赤な落陽に(明日、世界が滅亡した後も良い天気ね)なんて思いたかったわけじゃないけど。今日が最後なら、綺麗な夕焼けくらい見たかったかも。あ、デザート用の抹茶アイス溶けちゃうわ。黄昏れてないで、早く帰らなきゃ。 #とある主婦の終日滅亡

2013-10-21 16:32:46
春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

家にいると、あっという間に時間が過ぎる。お風呂の準備。夕飯の支度。お弁当箱をたらいに張った水にうるかして、ようやくみんなで食卓につく。今夜は予定通りの角煮丼。あとは昨日のお鍋で余ったすり身をみそ汁にして、賞味期限が切れるおからをひじきなどと一緒に炊いた。 #とある主婦の終日滅亡

2013-10-21 20:55:01
春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

夕飯の後片付けをしながら、ふと時計を見るともう9時。今日が終わるまで、あと3時間。お風呂はみんな入り終わったし、子供たちは2階へ上がってしまった。茶の間の座卓に座って、夫がアイスを食べながらテレビを…って、それ私用の抹茶アイスじゃないの!コラー! #とある主婦の終日滅亡

2013-10-21 21:03:21
春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

後片付けが終わって座卓に座り、半分残してもらったもらった抹茶アイスを食べる。最後の晩餐の後でも、やっぱりデザートはないとね。「珍しいね」「何が?」「9時過ぎたのに、食べるんだ」「うん。今日で世界は滅びるみたいだし」「滅びる?」 #とある主婦の終日滅亡

2013-10-21 21:11:28
春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

今朝からネットに上がっている #全滅亡祭 の様子を夫に見せた。「へー。今日で世界が滅びるのか」急に真顔になった夫が立ち上がる。すると冷蔵庫から、平日は飲まないビール缶を取り出してきた。「最後なら、飲まなきゃな。もったいない」嬉しそうに、プルタブを開けた。 #とある主婦の終日滅亡

2013-10-21 21:19:07
春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

アイスを食べて、ビールを飲んで、テレビを見る。いつもとほとんど変わらない日常。もし、本当に今夜、世界が滅びてしまったら。これでいいのかしら。もっと何かするべきことがあったんじゃないかしら。家事と買い物以外に、私には何か。何が、出来たのかしら… #とある主婦の終日滅亡

2013-10-21 21:24:35
春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

一日中、食べ物のことを考えて、家事だけをする私の世界。なんてちっぽけな世界なのかしら。これくらいの小さな世界なら、きっと滅びたとしても、何も変わらないわね。それか明日の朝6時に目覚まし時計のベルが鳴れば、滅びたのと同じくらい簡単に再生するわ、きっと。 #とある主婦の終日滅亡

2013-10-21 21:32:47
春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

「どうした?アイス食べて、体冷えたか?」いつの間にか私は、震えていたらしい。夫が私の手を握った。「大丈夫?風邪ひいた?」大丈夫、と声に出そうとしたけど、出ない。声が出ない。あと数時間で、私の世界が終わってしまう可能性が、きっとゼロだとは言い切れなくて。 #とある主婦の終日滅亡

2013-10-21 21:40:14
春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

言い知れぬ恐怖は常にあった。朝、家族を見送る時。昼ご飯を食べながらにニュースを見ている時。夕方、子供たちや夫が帰ってくるまでの時間。日常が日常で無くなる可能性は、いつだってゼロじゃない。だからこそ、いつもと変わらない日常を、日常的に装う癖がついていた。 #とある主婦の終日滅亡

2013-10-21 21:45:53
春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

でも限界がある。一番怖いのは、日常を失うこと。食べること、動くこと、家族と暮らすこと。どれかひとつでも失ってしまったら、それは私の世界が滅びたと言ってもいいかもしれない。あと2時間。私はどれを失ってしまうのかしら。もしかして、全てを失ってしまうの? #とある主婦の終日滅亡

2013-10-21 21:55:50
春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

「おい!」と強く言われて、私は日常に戻った。「本当に大丈夫か?もう寝た方がいいんじゃないか?」「うん、そうするわ。明日の朝に、ここ片付けるね。そのまま置いといていいから」立ち上がって、茶の間を出た。トイレに寄ってから、1階の寝室に入り、ベッドに倒れた。 #とある主婦の終日滅亡

2013-10-21 22:04:28
春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

あ、ダメ。目覚まし時計を6時にセットして、寝る前にストレッチしないと!もうすぐ始まる滅亡に抗うように、私は私の日常を、世界を遵守する。1、2、3、4。 時計の針が進む音に合わせて、体のあちこちを伸ばし、血を巡らせる。私、ちゃんと生きてる。いま、生きてるわ。 #とある主婦の終日滅亡

2013-10-21 22:10:18
春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

一番簡単なようで、一番難しい『日常』を生き続けているのに、それ以上に自分に何か出来ないかと考えるのは、やめた。ストレッチが終わり、ベッドの中に入って目を閉じる。思い浮かべるのは、冷蔵庫の中身。卵はまだあるから、明日はまず卵焼きを作って、お弁当は… #とある主婦の終日滅亡 (終)

2013-10-21 22:19:18
春木のん🪄ふしぎなアンソロ @Haruki_Non

以上、エッセイ風短編小説 #とある主婦の終日滅亡 でした。読んでいただいた方、ありがとうございました! #全滅亡祭

2013-10-21 22:26:54