第三次ソロモン海戦における霧島とサウス・ダコタ

有坂純先生が一次資料を用いて第三次ソロモン海戦におけるサウス・ダコタの損害を読み解く。
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有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

おはようございます。時間の都合も良さそうだし、昨夜作った「サウス・ダコタ」問題のまとめを。

2013-10-26 10:48:19
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

艦これ界周辺で、「サウス・ダコタ」と「霧島」の交戦についての理解がどうもおかしい、ということが話題になっているようですが、これは艦これ関係者の責任とは言い切れない。たぶん多くの人の典拠になっているであろうwikipediaを見てみると、日本版も英語版もおかしい。ファンタジー。

2013-10-26 10:53:07
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

特に英語版は、参考文献一覧に誇らしげに挙げてある史料をまったく使っている形跡がない。

2013-10-26 10:54:13
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

と言うわけで、今日はまずその一次史料の一つ、艦船局が書いた「サウス・ダコタ」ダメージ・リポートを読んだ上で、広く流布されている(らしい)「神話」のどこが違っているのか、数え上げてゆくことにしましょう。 http://t.co/fbRDKfcYJX

2013-10-26 10:57:51
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

最初はごく軽い気持ちで抄訳を直接貼ろうとしたのだけど、終わってみると400字8枚分になっていて、TLを汚すわけにもゆかないし、さりとてファイルをアップするほどのものではないし、断念。代わりにサマリーを。

2013-10-26 10:59:47
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

結論から述べると、 1 命中弾は42発ではない。26ないし27発。 2 霧島の唯一の命中弾は徹甲弾 3 火災は何らの脅威でもなかった。搭載機は燃えていない 4 第3砲塔は射撃不能となっていない 5 電路系の障害は日本軍の射撃によるものではない 6 大損害ゆえに後退したのではない

2013-10-26 11:02:59
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

艦船局の分析によれば、命中弾は計26ないし27。内訳は、 5インチ 1 6インチ 6または7 8インチ不明 3 8インチ通常弾 1または2 8インチ徹甲弾 13 14インチ徹甲弾 1 不明 1

2013-10-26 11:05:20
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

命中弾の半数は、重巡の91式徹甲弾ということになります。 さすがに偏り過ぎの気もしますが、これは日本軍の水中弾についての、艦船局の「思い込み」が働いています。リポートで繰り返し強調されているのは、

2013-10-26 11:09:37
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

1:日本軍の徹甲弾=水中弾はその特性ゆえに信管の遅動が大であるため、水線上に弾着して貫徹しても船体内で炸裂せず、そのまま反対舷から射出してしまうケースが多い。

2013-10-26 11:11:11
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

2:徹甲弾から脱落した被帽部が、言わば巨大な破片として、弾体とは別の被害を及ぼすケースが多い。しばしば射入孔が1個なのに射出孔が2つ生じている謎は、これで説明できる。

2013-10-26 11:12:54
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

要するに、奇妙な小さな破孔がぼこぼこ開いていたり、どのサイズのどの種類の砲弾でも被害の程度が説明できなかったりするケースは、まとめて「それは8インチ徹甲弾の被帽部の仕業だったんだよ!」で片付けようとしていたらしい。

2013-10-26 11:17:24
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

この問題については次で改めて説明しますが、それはそれとして、命中弾の総数は「26」ないし「27」ということで間違いない。wikipediaその他の「42」の典拠がどこにあるのか、私の知見では分かりません。そう書いてある文献を片っ端からまず当たってみないと。

2013-10-26 11:19:49
コシザイ @k_s_z_i

@thorn_the_socrs はじめまして、リプ失礼します。『戦艦ワシントン』イヴァン・ミュージカント著(翻訳発刊:光人社1988)では被弾数42発・搭載機炎上・第三砲塔使用不能、といった記述があり、典拠の一つかと思われます。既にご確認済でしたらすみません。

2013-10-26 11:24:30
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

@k_s_z_i ああ、問題はですね、ミュージカントさんがそれを書くに当たってどんな1次史料をどんな理由で利用したのか、ということです。彼はどうして戦闘詳報や艦船局のリポートを捨てたのか。

2013-10-26 11:30:50
コシザイ @k_s_z_i

@thorn_the_socrs 失礼しました。日本語版には参考資料等の記載がないですね…(元)乗組員からの聞き取りが多用されていそうな雰囲気の文章ですけど、もしかすると42発も誰かの証言かもしれませんね。

2013-10-26 11:35:27
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

さて「2 霧島の唯一の命中弾は徹甲弾」。要約を引用しましょう。 「命中26:14インチ砲弾と推定。 1-128番ハッチ縁材の両側を貫徹し、123.5番フレームで第3砲塔バーベットの頂部から下約17インチに命中。17.3インチの装甲に直径15インチ、深さ約1.5インチの凹部」

2013-10-26 11:23:40
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

「この部分の装甲表面は亀裂に覆われ、さらに弾着点から後方8フィートに垂直の亀裂が生じる。 爆風は、バーベット付近の上甲板に幅3フィートの破孔を生じさせる。 この破孔の周囲では、121~130番フレーム間で、上甲板が8フィート垂れ下がる」

2013-10-26 11:24:26
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

「(バーベット装甲に)逸らされた破片の一部は129番隔壁の右舷側、上甲板と第2甲板の間に飛散し、26×35インチの破孔を生じる。 破片の他の一部は兵員食堂の設備を貫徹し、水防扉を2箇所で、隔壁を1箇所で貫徹。 バーベット右では、兵員食堂に大きな被害」

2013-10-26 11:25:28
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

http://t.co/fbRDKfcYJX ←写真35~37から瞭然ですが、分厚いバーベットにこんなヒビを入れることができるのは、戦艦の徹甲弾だけです。3式弾は論外ですが、零式通常弾でもこうはなるはずがありません。艦船局の見解では、「霧島」からもらった主砲弾はこれ1発のみ。

2013-10-26 11:28:27
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

さて、海軍砲熕のサイトで(その界隈では)有名なロバート・ランドグレンさんは、この異様に8インチ徹甲弾に偏っている艦船局の見解に疑問を持たれて、ダメージ・リポートを改めて分析しておられます。 http://t.co/2g3YvkZeCP

2013-10-26 11:36:29
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

ロバート・ランドグレンによる修正された命中弾数 5インチ通常弾 2 5.5インチ通常弾 4 6インチ 8 8インチ通常弾 4 8インチ徹甲弾 3 14インチ通常弾 2 14インチ焼夷弾 2 14インチ徹甲弾 2

2013-10-26 11:38:37
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

艦船局が、「6インチ多数か8インチ徹甲弾か決めかねたケース」と「6インチか8インチか決めかねた、しかも3区画に浸水を招いている大被害のケース」がいずれも14インチ零式通常弾に

2013-10-26 11:41:02
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

「レーダー室に火災を起こしたが炸裂の痕跡がないケース」と「射撃指揮装置のレーダーアンテナに命中し、周囲に多数の破孔を生じさせた(徹甲弾なのに通常弾のような効果)ケース」が共に14インチ3式焼夷弾の命中に、改められています。

2013-10-26 11:44:15
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

ラングドンさんの(いかにも楽しげな作業の)方法論をそのまま受け入れろ、というわけではありませんが(そのテクニカルな是非はここで取り上げる問題ではありません)、艦船局が3式弾の存在を頭から無視してかかっていることもあって、14インチ砲弾についての修正にはなるほど説得力があります。

2013-10-26 11:48:12
有坂純@ターナー展 @thorn_the_socrs

次に「3 火災はほとんど発生していないに等しい」。 「サウス・ダコタ」が3式弾によってであれ、何か他の手段によってであれ、火炎に包まれたというのはまったくの神話に過ぎません。何しろ、リポートでは火災について末尾にほんの付け足しのように記されているだけなのです。

2013-10-26 11:50:59