ほしおさなえさんの140字小説19

ほしおさなえさんの140字小説19 その190~その199です。 (まとめ1)http://togetter.com/li/371906 (まとめ2)http://togetter.com/li/373145 続きを読む
0
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その190。

2013-09-25 18:37:08
ほしおさなえ @hoshio_s

ざあざあ降りがあがって、あっという間に晴れ渡った。町が丸ごと雨のトンネルをくぐり抜けたみたいで、目がしばしばした。家も舗道も電線も濡れて、あざやかな色だ。なにもかも滴って、空気が光っている。世界はこうして日々生まれ変わるのだと思う。風が吹く。秋に向かってわたしたちも流れてゆく。

2013-09-25 18:37:50
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その191。

2013-10-01 19:57:53
ほしおさなえ @hoshio_s

夜、糸のような雨が降って、木も土も濡れてゆく。音もなく、人の心も夢もゆっくりと沈んでゆく。水の底に沈んでいるなにか、忘れていたなにかに指先が触れて、ひりひりする。忘れないでいること。忘れること。人にはどちらも等しく大切なんだね。雨と陽射しのように。雨に触れる。皮膚がゆるんでいる。

2013-10-01 19:59:10
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その192。

2013-10-02 09:45:21
ほしおさなえ @hoshio_s

水たまりに街が映り、人々が歩いていく。僕の心にもたくさんの人が住んで、大きな世界のようなのに、僕が死んだら一瞬にして消える。人なんて穴がひとつあいただけで死ぬ。そしたら世界も消える。水たまりが消えるように。そのことが悲しいより怖いよりなんとなく不思議で、いつもぽかんとしてしまう。

2013-10-02 09:46:08
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その193。

2013-10-03 21:19:37
ほしおさなえ @hoshio_s

窓際に寝そべっている。カーテンが揺れて、生きていくことが綱渡りに思えてくる。つかまるところなどなにもない。ふわりと影がよぎり、大きな葉が落ちて行ったと知る。こうやって流れていく。雲や鳥や飛行機が見えて、ちらちら日が翳って、頼りない気持ちを抱きしめて、目を閉じて、なにもかも忘れて。

2013-10-03 21:23:13
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その194。

2013-10-08 23:04:34
ほしおさなえ @hoshio_s

駅で人とぶつかったら、心がしわくちゃになった。人生がどんどん悪い方に行く気がする。ホームの椅子に座るとひんやりした。そうか、秋になったのだ。明日からはちゃんと靴下を履こう。そうすればきっとなにもかもうまくいく。そんなことか、とくすくす笑う。空を見る。鱗雲が少しずつ形を変えてゆく。

2013-10-08 23:05:49
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その195。

2013-10-11 16:25:18
ほしおさなえ @hoshio_s

今日はとても風が強くて、低い雲がすごい速さで流れてゆく。あれはどこまで行くのだろう。形を変え色を変え、雨を降らせ地球をめぐり、雲は雲で案外忙しいのかもしれない。郵便配達のようにすべての窓に雲の姿が配達される。封を開くと、風が身体を抜けて、わたしたちは星に住んでいるんだな、と思う。

2013-10-11 16:26:40
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その196。

2013-10-15 18:01:39
ほしおさなえ @hoshio_s

子どもが風呂にはいっている。のびやかにお湯のなかでゆらゆらして、歌っている。くつろいだ歌声を聴くのはよいものだと思う。心が湯気にふんわりとほどけていく。窓の外では葉が揺れて、土に埋もれたものたちも歌っているのかもしれない。生きてることはいつもさびしい。天井に明るい声が響いている。

2013-10-15 18:01:56
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その197。

2013-10-16 20:59:34
ほしおさなえ @hoshio_s

夕暮れの空を見ていると、どこかから呼ばれている気がした。行こうよ。風に揺れる木の葉が、流れるピンクの雲が、おいでおいでしてる。遠く、お祭りの太鼓と笛の音が聞こえて、自分がむかし生きていただれかだった気がしてくる。半月が時間を超える舟のようだ。身体を置いて、行ってしまいそうになる。

2013-10-16 21:00:11
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その198。

2013-10-18 21:21:40
ほしおさなえ @hoshio_s

列車の中で忘れ物をする夢を見た。追いつめられた気持ちだったが、覚めてみるとなにを忘れたのか思い出せない。そういえばいつもなにか大事なことを忘れて日々過ごしている気がする。海沿いを走っている。レールが続いている。がたんごたんと音がする。月が海を照らす。こちらが夢かもしれないと思う。

2013-10-18 21:22:14
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その199。

2013-10-19 09:30:39
ほしおさなえ @hoshio_s

寒いねえ、一気に冬になったみたいだ。となりでまあるい生き物が言う。そうだねえ、と答える。分厚い雲がたちこめて、陽射しのない朝だ。ふたりでコーヒーを飲む。この雲の下でいろんな人がコーヒーを飲んでいるのかも、と思う。今日一日を生きていけるように。それぞれの思いが湯気になり、雲になる。

2013-10-19 09:31:07