掌小説語り~自作つぃのべる集10~

自作つぃのべまとめです。 2013年4月分
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リュカ @ryuka511

人魚の少女は男と視線が合うと背を向け海へ潜った。自分を探しているのが気配で解る。声をかけるはずだったのに思わず隠れてしまう。劇的な恋に憧れた。自分も海の泡になる事を選べる程誰かを愛したいと。だが戸惑った瞳で真っ直ぐに見つめられ、彼と生きたいと思った。 #twnovel

2013-04-02 07:26:20
リュカ @ryuka511

男は少女を追って海へ潜る。泳ぎは得意だ。彼女が何者だろうと構わない。見つけて礼を言いたかった。心配そうな不安な眼差しが目に焼き付いて離れない。少女が消えた方向へ潜ると、前方に金色の長い髪が水中を漂うのが見えた。海面から射す光と海の青の中、それは美しい光景だった。#twnovel

2013-04-04 12:56:59
リュカ @ryuka511

男は暫く少女に見惚れていた。腰から伸びる魚の身体は少女の幻想的な美しさを際立たせる。男に気付いた少女は逃げるように泳ぎ去ってしまった。彼女は何故自分を助けたのだろう。彼女の驚きと喜びの入り交じった顔に男はますます戸惑った。村へ戻っても彼女の顔が忘れられなかった。 #twnovel

2013-04-06 23:40:59
リュカ @ryuka511

人魚の少女は住み処に帰り嘆く。こんなに早く正体を知られてしまった。彼は恐れて近付いて来ないだろう。或いは興味本位で探しに来るか。それでもいい、もう一度会いたいと思った。自分を追いかけて来た理由を、自分を見つけた時の表情の意味を、知りたかった。 #twnovel

2013-04-08 08:26:35
リュカ @ryuka511

男は何故人魚が自分を助けてくれたのか知りたかった。少女は何故男が自分を追いかけてきたのか知りたかった。もう一度会いたいと思った。まだ恋には至らない、だが恋の予感を感じさせた。ある日、男も少女ももう一度あの海へ向かっていた。 #twnovel

2013-04-11 10:57:54
リュカ @ryuka511

漁師の男を助けた海で彼女は彼を探す。陸へ行けないのがもどかしいが、また会える予感は当たり、少女は浜辺に男の姿を見つける。同時に男も彼女に気付き海へ飛び込んだ。男は彼女に近付き見つめる。「お前が俺を助けてくれたんだろ?」頷く少女に更に問う。「何故俺なんかを?」 #twnovel

2013-04-13 23:57:31
リュカ @ryuka511

少女は躊躇いながら答える。「目の前に溺れてる人がいれば助けるのが当然でしょ?」恋がしたかったとは言えなかった。だが男の言葉に少女は困惑する。「人魚は人間を憎んでると思ってた。」「なぜ?」「人間は自分達と違う生物を対等だと認めない。」男の意外な言葉に少女は驚いた。 #twnovel

2013-04-15 08:10:56
リュカ @ryuka511

そういう人間が多い事は知っていた。だがそれが全てでは無い事も。男の悲しげな目は少女を惹き付ける。一体彼は何故そんな目でそんな事を言うのか。「でも貴方は私を対等に見ているわ」男は小さく自嘲する。「俺は人間じゃ無いのかもな」「そんな事…」首を振りかけて少女は気付く。 #twnovel

2013-04-17 08:58:28
リュカ @ryuka511

男が立ち泳ぎで海に浮き話し続けている事に。普通の人間なら力尽きて溺れているだろう。男は言う。「俺は自分が何者なのかわからない。人間じゃ無いのかもしれない。」「貴方はどこから見ても人間だわ。」「なら何故お前と会話が出来る?人魚の言葉が人間と共通だとは思えない。」 #twnovel

2013-04-18 20:48:27
リュカ @ryuka511

わからないと少女は首を振る。「俺には記憶が無い。数年前、浜辺に倒れてた所を助けられたんだ。その男について漁師になった」精悍な顔に似合わぬ不安げな表情。救ってあげたい。でも。「貴方は助けてくれた人と同じ人間で、漁師として街の人の生活を助ける立派な仕事をしているわ」 #twnovel

2013-04-20 00:21:24
リュカ @ryuka511

「海に落ちた俺をお前が助けてくれたと知って困惑した。人魚は人間を嫌ってると言われてる。なのに何故俺を助けたのかと。俺はお前の仲間なのかもしれないと思ったんだ。」少女は静かに首を振る。「貴方が人間じゃなく私達の仲間だとしても、貴方は街で漁師として生きるべきよ。」 #twnovel

2013-04-22 08:44:15
リュカ @ryuka511

「俺は人間なのか」彼は私達の仲間なんだろうと少女は思う。突然変異か、どこかで実った人魚と人間の愛の証なのか。真相はともかく2本の足と人間の身体機能を主として生まれたのなら彼は海底では生きられない。人間の中でも生きにくいかもしれないが、道は分かたれてしまったのだ。 #twnovel

2013-04-23 23:08:43
リュカ @ryuka511

「貴方は偶然人魚に助けられて仲間かもしれないと思ってしまっただけよ」「それだけ、なのか?お前を懐かしいと思うのも幻なのか?」断ちきれないシンパシーと惹かれる心を振り切り少女は頷いた。「そうよ。街へ帰れば忘れるわ」好きになってはいけないと、自分に言い聞かせながら。 #twnovel

2013-04-25 23:13:32