【twitter小説】標本の館#3【ファンタジー】

若い冒険者であるモアとクレインは、ある不思議な館の譲渡の話を聞く。奇妙なことに夫婦であることを条件として譲渡するというのだ。モアとクレインは夫婦ではないが――? 小説アカウント@decay_world で公開したファンタジー小説です。この話は#4まで続きます
Twitter小説 減衰世界 ファンタジー
rikumo 591view 1コメント
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  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-06 15:39:32
     気味の悪いその人型のものは、確かに生きているようだった。だが、顔は目や鼻などがないのっぺらぼうで、頭には髪が無い。それが裸のまま、緑色の溶液の中浮かんでいるのだ。これも標本なのだろうか……? 66
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-06 15:47:27
     モアが見てと部屋の陰を指差す。そこにはいくつかのシリンダーが横たわっていた。だが、その中に入っていたのは……あの老人なのだ! 老人の姿そのまま、緑の溶液に浸かっている。生命探知には引っかからない。これは生きてはいないようだ。 67
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-06 15:53:50
     この部屋は何もかもが奇妙だ。あの老人は一体何者なのだろうか? 老人の気配は速度を速めもうすぐこの部屋に到達するだろう。 「もしかしてあのおじいさん、わたしたちを標本に……!?」  モアの予想ももっともだった。だが、まだ彼の意図はくめない。 68
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-06 15:58:33
     ついに老人がドアの向こうに姿を現した。 「おやおや、ここは秘密の部屋。困りますな……」 「どういうことだ。僕たちに何をしようとしている」  再び両者の視線が交錯する。魔法の戦いが始まったのだ。 69
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-06 16:04:02
    「私の計画を邪魔されては困りますな……」  老人の水晶のような瞳が光る! 勝負は一瞬だった。先程あれだけ疲労していたにも関わらず、老人は最大限の力を持ってクレインをねじ伏せた。 「計画……計画とはいったい」 70
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-06 16:08:31
     クレインは意識を次第に掌握されていく。モアはどうする事も出来ず、魔法の余波だけで動けなくなっていた。それが普通なのだ。 「あの……わたし、辞退します。館はもう……」  モアは辛うじて喋ることしかできない。 71
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-06 16:12:21
     老人はフフッと笑って言った。 「契約はもう完了しているよ……君たちは私の計画に丁度いい人材だ。手放すわけにはいかないね」  老人はどこからかステッキを取り出すと、木の板の床をトントンと小突く。するとどこからか羽毛が舞い散り始めた。 72
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-06 16:17:27
     魔法が意識の段階から現象にまで相転移しているのだ。 「君たちには悪く思っているよ。少々騙した形になるからね……だが確かに館は君たちのものだ。安心するがいい」  飛びだした羽毛がクレインにいくつも突き刺さった。完全に決着がついたのだ。 73
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-06 16:24:48
    「なかなかやるな……かなりの魔法の使い手と見受ける」  クレインは膝をついた。怪我はないようだったが、今日はこれ以上の魔法戦闘は無理だろう。モアは最初から戦力外だ。もう、なすすべはない……。 74
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-07 16:53:29
    「すみませんが少し大人しくしていただきましょうか……安心してください。館はちゃんとあなた方に引き渡しますよ」  老人の水晶のような目がさらに光る! するとモアとクレインはその場を全く動けなくなってしまった。そのまま老人の手で二人は並行に寝かせられる。 75
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-07 17:03:32
     老人はステッキでシリンダーを叩いた。例の、のっぺらぼうの人間が入っていたシリンダーだ。するとシリンダーは飴のように溶け、中身の緑色の溶液が溢れだした。溶液は地面に零れるより先に激しい蒸気を立てて揮発する。 76
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-07 17:06:29
     薄緑色の靄が辺りに立ち込め、霧深い山中のようになった。ぼんやりと天井から裸電球が光っている。靄の中から歩いてくる影があった。老人ではない。それは……先程の、のっぺらぼうの人形だった。 77
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-07 17:13:56
     続いて老人が靄の中から姿を現した。老人は人の良さそうな表情を変えることなく、二人に話しかける。 「最後の儀式を始めましょうか。ええ、大丈夫ですよ。何も危険はありませんから」  男の人形がクレインに、女の人形がモアに近づき、ひざまづいた。 78
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-07 17:17:29
     緑の靄は、若草のようなさわやかな匂いだった。モアは声も出せずに女型の人形を見た。きらきらとした糸が人形の顔から放たれ、モアの顔に絡みつく。同じようなことがクレインの身にも起こった。二人は糸の放つ光が眩しく、目をつむった。 79
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-07 17:21:46
     二人は目をつむったままこれから行われることに耐えていた。身体中に糸が巻きつく感触がする。それはやがて曖昧になり、顔や身体から糸の感触は消えてしまった。モアがまず目を開いた。そしてひっと声を上げる。 80
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-07 17:26:44
     その声を聞いてクレインも目を開けた。二人が目にしたものとは……女型の人形はモアの、男型の人形はクレインの、そのままの姿に変わっていた姿だった。服こそ着ていなかったものの、顔つきや身体的特徴は全く同じだ。 81
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-07 17:30:17
     老人はそれを見て深く頷くと、ステッキを一振りした。すると裸だった二人の生き写しにモアとクレイン、それぞれと全く同じ黒いスーツに黒いドレスという服が着せられたのだ。いまや完全な二人のコピーとなった人形は、膝立ちからゆっくりと立ち上がる。 82
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-07 17:34:33
     コピーの二人は優しく笑い合うと手を取り合い部屋の隅に移動した。そして部屋の隅にあった木製の椅子に腰かけた。靄はいつの間にか晴れ、薄暗い部屋に裸電球が揺れている。 「これで手順は全てつつがなく終わりましたな。お二人さん。さぁ、理由を話しましょうか」 83
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-07 17:40:36
     モアとクレインは金縛り状態から解放され、ゆっくりと立ち上がった。この人形は一体? 眠りにつく老人の身体は? そして館の目的とは? 老人はゆっくりと話し始めたのだった。 84
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-08 15:57:39
    「この二人の紹介をしよう。今後君たちの手足となって働くものだ」  老人は手をコピーされた二人の方へ伸ばす。紹介された二人は、椅子に座ったままにこやかに手を振って応える。奇妙なことに、モアとクレインはそれぞれ自分のコピーの感覚を共有していたのだ。 85
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-08 16:03:42
     コピーはある程度自立して動いているものの、簡単に意識を送ればその動きを制御できた。生きてはいるが、命令の意のままに動く人形なのだ。彼らに危険な破壊衝動や黒い感情等はなく、純真で、子供のように透き通った心をしていた。 86
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-08 16:10:27
    「私もこれと同じように人形を使い、人形から人形へ自分自身をコピーして生きながらえてきた……そこにたくさん横たわっている私が見えるだろう? アレは使い古した自分の身体だよ。もう機能を停止し命はないがね」 87
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-08 16:17:40
     老人はそう言って狭い部屋の奥へ歩きだした。二人の人形も椅子から立ち上がり、老人に続く。モアの人形が振り返り、ウィンクをして手招く。クレインは麻痺した身体をやっと起こし、モアの手を取り立ち上がらせてあげた。そして3人の後に続く。 88

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