『神様の庭』

「この世の中が正しさだけじゃないってことは3歳あたりでもう分かるようになる。自分は何も悪いことをしていないのに気が付けばぶたれていたり。声を振り絞って泣き声を上げたのは痛かったからではなく自分をいつでも温かく包み込んでくれると信じていたものに突き放されたからだった。」 最初の一段落が浮かんで、それからふと生まれたショートストーリー。
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葉月野 @hadukino_tc

この世の中が正しさだけじゃないってことは3歳あたりでもう分かるようになる。自分は何も悪いことをしていないのに気が付けばぶたれていたり。声を振り絞って泣き声を上げたのは痛かったからではなく自分をいつでも温かく包み込んでくれると信じていたものに突き放されたからだった。(神様の庭1)

2014-07-19 01:12:30
葉月野 @hadukino_tc

それでも毎日は進む。幼稚園に上がる前は近所の公園が外の世界だった。手入れされた芝生。午後の風とのかけっこ。そこできみと出あった。隠れたクローバーを探した。母親たちの愚痴り合いをまねたおままごとも。ひどく怒られたけど二人の気持ちがより強くつながって、永遠が続いていた。(神様の庭2)

2014-07-19 01:13:12
葉月野 @hadukino_tc

ママ友のきずなが弱まれば子供たちの世界がずれてゆく。子供の夢がいつでも目移りしていくようにすり替えられてゆく。ずっと一緒にいられると思っていたきみといつもの公園で会うこともなくなった。痛みを乗り越えて寄り添っていられる仲間がいなくなって、また一つ理不尽さを知った。(神様の庭3)

2014-07-19 01:13:42
葉月野 @hadukino_tc

幼稚園に通い始めると、子供の世界でも争ったりうそをついたり、輪に入っていないとつらいということを体感する。世の中は優しさや奇麗ごとばかりじゃない。同じ背格好なのに、なんだかよくわからない気持ちがぐるぐるしたりぶつかったりするここは、イヤだ。ぼくのいたい場所じゃない。(神様の庭4)

2014-07-19 01:14:16
葉月野 @hadukino_tc

ある日の土曜。母親が家事で疲れて転寝を始めた時。もうすっかり行かなくなったあの公園で一緒に遊んだあの子。同じ気持ちのきみならきっとわかってくれるだろうと、一人であの公園にあの子を探しに行った。思い出しながらやっとたどり着いた公園は知らない子供たちに侵略されていた。(神様の庭5)

2014-07-19 01:14:54
葉月野 @hadukino_tc

あの芝生はあの子と遊んだ時のままなのに。砂場も。回転ジムも。そのままのなかに知らない姿、知らない声。なぜかくすんだような公園の色。きみは見つからなかった。きみといたあの時だけがきらきらしていた。ずれて重ならない景色に、失う悲しさと、特別なものがあるってことを知った。(神様の庭6)

2014-07-19 01:16:41
葉月野 @hadukino_tc

信じられる相手と一緒にいることができる、あの時だけの特別な場所。色あせた公園の芝生の上に光る秘密の扉を二人で開けて、暖かな陽だまりに安心していられた。きっと、その時そこは公園の芝生じゃなくてかみさまの庭があった。見えないけれど多分、いまも。それが希望なんだと知った。(神様の庭7)

2014-07-19 01:19:38
葉月野 @hadukino_tc

いまきみがどこにいるのかはわからないけれど、同じように二人がすごした芝生を特別に感じているといいなと願った。とても大切なものを見つけた気持ちで、何か大きくなったような気がして帰った。母親が真っ青な顔で駆け寄ってきてひどくしかりつけた。急に自分が小さくなった気がした。(神様の庭8)

2014-07-19 01:20:16
葉月野 @hadukino_tc

振り返ってみると幼いころの他愛もない話だ。それでも小さい自分がせいいっぱい見つけたものは大人になっても胸の中にちゃんと残っている。煌く芝生を広げているあの神様の庭は今も誰かの希望を育てているのだろうと信じている。きみもそうだよね。どこかで同じように、きっと。(神様の庭・終)

2014-07-19 01:23:17