【twitter小説】標本の館#4【ファンタジー】

若い冒険者であるモアとクレインは、ある不思議な館の譲渡の話を聞く。奇妙なことに夫婦であることを条件として譲渡するというのだ。モアとクレインは夫婦ではないが――? 小説アカウント@decay_world で公開したファンタジー小説です。この話はこれで終わりです
Twitter小説 減衰世界 ファンタジー
rikumo 497view 0コメント
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  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-09 16:44:32
     老人と、その仲間たちは長い時の中を生きるものであった。しかし、時代が移り変わると共に地上は破壊され、生物は死に絶えてきた。たくさんの名前も知らぬ種族が生まれては消えていった。彼らは、それを悲しいと感じた。 94
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-09 16:51:29
     過去の歴史の中で幾度となく起こった超文明の崩壊と、地上の再構築。それを生き抜き、生物たちの記憶を残そうと思ったのだ。いつの昔かは分からない。何代も管理者は入れ代わり、膨大な資料と標本だけが受け継がれてきた。 95
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-09 16:57:18
    「そして、私の代もまた終わろうとしている。私の仕事を受け継ぐべき者たちを探していた。そして、それはようやく現れたのだ。……それが君たちだ。君たちならば私の仕事を任せられる。それが分かったのだ」 96
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-09 17:01:58
     光り輝き、標本や書類を届けに来るざわめきは終わり、静かに机が並んでいる。天井の裸電球が揺れていた。老人は標本の一つを手に取って言う。 「見たまえ。これはリュウジョウケイコクコケトカゲと名付けられたそうだ。美しいと思わんかね」 97
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-09 17:05:14
    「あの……わたしたちは種の保存とか今まで関係なく生きてきました。そのトカゲだって普通のトカゲとどこが違うか分かりません。それでも……それでもいいのですか?」  モアは戸惑うばかりだ。何故自分たちが選ばれたのか、それが分からなかった。 98
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-09 17:09:06
    「いまはそれだけで十分だよ。失礼だが君たちの心を覗いてみた。君たちには……世界に対する興味がある。少しずつでいい。私たちの仕事を理解して欲しい。きっと好きになるよ、君たちは少年少女のように純粋だからね」 99
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-09 17:14:04
     老人はにこりと笑って標本を机に置いた。そして水晶の目でモアとクレインを見る。それは先程の魔法仕掛けの視線ではない。真っ直ぐな、優しい目だった。 100
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-09 17:19:06
    「私だって最初に任されたときはよくわからなかった。私もね、君たちと同じように半ば騙された形でこの館を任されたんだ」  老人はゆっくりとした足取りでさっきの部屋へ戻る。モアたちは後に続いた。 101
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-09 17:22:43
    「いや、何も君たちまで騙すつもりはなかったのだが……こんな仕事面倒だろう。大丈夫、仕事は君たちの人形がやってくれるよ。そこは安心してほしい。ただ、人形の魂の鋳型となる選ばれた者たちが必要だったんだ」 102
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-09 17:26:35
    「最初一目見ただけで分かったよ。今までやってきたどんな夫婦とも違う、そういうものがね。それを待っていたのかもしれん。聞きたいかね?」  そう言って、いたずらっぽく老人は笑ったのだった。 103
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-10 16:01:10
     老人は語り始めた。いままでたったひとりでこの館を守ってきた。それはあまりにも孤独で、虚しさを覚えるものだった。次にこの任に就くものは……二人がいい。そう思ったのだ。それも心を許しあったひと組の夫婦に。 104
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-10 16:06:02
     延々繰り返される自分のコピーに飽き飽きしていたのかもしれない。そうと決めた彼は、新しい人形を作り始めた。女性型と、男性型の人形だ。彼らなら長い使命の中でも幸せに暮らしていけるだろう。そう思ったのだ。 105
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-10 16:11:56
    「私はずっと独り身だったからね、そういう夫婦にとても憧れていたんだよ。だからこれは私の勝手な思い違いかもしれない。二人で生きていくということは私の狭い想像よりずっと大変かもしれない」 106
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-10 16:21:15
    「だが、私はずっと独りだったんだ。だからこそ、その悲しみも苦しみも知っている。どんなに崇高な使命を帯びていても、支えるもののない危うい生き方だ。君たちには本当にすまないと思っている。だが、きっと幸せになるはずさ。そういう人選をしたつもりだよ」 107
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-10 16:28:43
     老人は部屋の隅にあるシリンダーへと歩いていった。シリンダーはいくつかあり、どれも彼の昔の身体が眠っている。だが、シリンダーには一つだけ空きがあった。その前に老人は立った。 108
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-10 16:35:09
    「話しすぎたようだね、後はこの二人の人形から聞くといい。館の運営に関する知識は最初から持たせてある。もはや私より詳しいくらいにね」  そう言って老人は振り返って笑った。モアとクレインは、その意味を知った。 109
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-10 16:49:19
    「もう、眠ってしまうのですね」  モアは最後に言い残したことがあった。自分とクレインは夫婦でも何でもない、偽装結婚した間柄ということ。だが、ここまで来てしまったのだ。後は眠るだけの老人に、伝える勇気はなかった。 110
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-10 16:53:02
     老人は後は頼んだよ、とだけ言って、シリンダーを開けて中に横たわった。それっきり、動かなくなってしまったのだ。コピーの人形は、それを涙で見送った。老人もまた、水晶の目にうっすらと涙を浮かべているように見えた。 111
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-10 16:56:40
     こうして、この標本の館はモアとクレインのものになったのだった。 112
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-11 15:17:36
     早速二人の引っ越しが始まった。この館は不思議な館で、資材などを持ってくれば内部の超空間にさらに物を格納できるよう拡張してくれるのだ。前の納屋ではあれほど手狭だったのに、館はそれを全て収納してなおかなりの空きがあった。 113
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-11 15:23:56
     モアとクレイン、そして二人のコピーは引っ越しも終わり、リビングで紅茶を飲んでいた。コピーの二人は快く引っ越しを引き受けてくれた。ただ、街のひとに見られると驚かれてしまうので二人は顔を隠していたが。 114
  • 減衰世界 @decay_world 2013-10-11 15:29:49
     コピーとオリジナルは感覚や意識を共有しており、まるで自分がもうひとり出来たようだった。それが自分とは別の魂を持って動いている。それは奇妙な感覚だったがモアもクレインも幸いすぐ慣れることができた。 115

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