【長文SS】カークランド卿の番犬(英×独)

悪趣味を持つ貴族のアーサーが、フリークショーで見世物にされている人狼ルートヴィッヒに目を付け、お買い上げする話です。
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「Ladies and gentlemen! キメラに奇形、そんな奇人変人勢揃い!今宵もフリークショーの開催だ!」 英国にある、とある裏通りの地下… そこでは定期的に珍しい特徴を持った人間たちを集めた、「見世物ショー」が開催されていた。 会場は司会者の一言で一気に熱気に包まれる。

2013-11-02 22:18:44
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カツン、カツン―― 「さあ、最初は新入りがトップバッターだ! 今や戦地の敵国、"ゲルマニア"に住まう伝説の種族、ウルフマンの登場だあ!」 黒いスーツを身に纏った小太りの司会者が一通り挨拶を終えると、奥からは複数の男によって鉄格子の檻がステージの中央へ運び込まれる。

2013-11-02 22:23:52
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檻が降ろされると、運び込んでいた男の中の一人が、腰に巻いていた鞭を手に取り、檻を開錠した。 すると、中からは男の姿が見えた。文字通り、「狼男」らしく人間の体に狼のような耳と尻尾を生やし、金髪をオールバックにした、その大柄の男は固く目を閉ざしながら檻の中で座り込んでいる。

2013-11-02 22:29:53
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「おい、お前の出番だ!早く出てこい!」調教師の男は、その持っていた鞭で 彼の体を殴るように叩く。「うっ……ぐ!」かなりそれは痛かったようで、狼男は苦痛の声を上げ、閉ざしていた目をようやく開いた。透き通ったような空色の瞳である。 ――カツン… 「失礼、レディー。そこを通してくれ…」

2013-11-02 22:34:55
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結局、狼男は調教師の男によって強引に檻の外から追い出されてしまった。後戻りができないよう、その檻は閉ざされる。 狼男は、憎悪のこもった空色の眼差しで歓声を上げる客全体を一通り見渡し、低く唸り続けていた。抵抗が許されないよう、手錠と足枷が填められた状態で。 「グルルル……」

2013-11-02 22:40:23
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「あら、失礼致しましたわ。」後ろから声をかけられた観客の若い女性は振り返る。「構わない、無理を言ったのは俺の方だからな。だが、このような場所は若いレディーの来る場所じゃないぞ。」杖を持った男は女性の手を取り挨拶する。彼は、黒い燕尾服に身を包み シルクハットを深く被っていた。

2013-11-02 22:45:05
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「いいえ、このショーは婚約者の付き添いで来ましたの。」 「…そうか、全く悪趣味な婚約者なんだな。」 燕尾服の男の目は、帽子で隠されている。 「ま、俺も人の事言えないな。 では、ご機嫌よう、レディー。」 去り際に帽子が少し浮き、その下からは翠眼が見えた。 「あら…貴方はもしや。」

2013-11-02 22:50:55
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翠眼の英国紳士  「あら? 貴方は、もしかして…」 「Sorry… まだ俺の名前は秘密にしておいてくれ、レディー。」 http://t.co/Oovv6bW2mB

2013-11-20 21:20:48
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「…しー」 翠眼の男は、白い手袋の人差し指を口の前で立てた。 ―カツン、カツン…  「さて、恒例行事を始めようか… こいつに触れたい、勇気ある者はこの中に居るか?」すると、観客は一斉に挙手を始める。 「なぁ…そいつ、俺に触れさせてくれよ。」 そして、翠眼の男は観客席を乗り越えた。

2013-11-02 22:56:57
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翠眼の男が狼男と同じステージに立つと、観客からは一斉にブーイングの嵐が巻き起こり、ステージ内へ大量の物が投げ込まれる。 「静粛に…静粛にぃ!」小太りの司会者は突然の事態にかなり焦った様子である。「落ち着けよ。俺はショーを終わらせに来たんじゃない。ただ、こいつに興味があるだけだ。」

2013-11-02 23:01:47
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観客が一通り落ち着いた後、翠眼の男は懐から小切手を取り出し、そこに万年筆で数字を書き込む。「是非とも、俺の番犬にしたい。金額はこれでどうだ?」翠眼の男は、書き終えた小切手を司会者の目の前へ突き出す。 「待て、若造。」すると、観客の最前列から痩せて目のつり上がった老人が下りてきた。

2013-11-02 23:07:19
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「こいつは希少価値のある金髪碧眼のウルフマンだ。薄々と手放すわけにはいかん!」 老人は奥の金歯が見えるまで口を大きく開き、唾を飛ばしながら話した。 「だったら、こいつの故郷で売ればもっと高値がついたんじゃねーのか?あの国では今、金髪碧眼が種(タネ)のために重宝されるらしいぜ?」

2013-11-02 23:13:24
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「喧しい!こいつの国でも取引をしようとしたが、奴らが望んでいるのは金髪碧眼の"人間"だけじゃと突き返されたわい。」 「なるほどな…そういうことだと思ったぜ。それは商売人失格だな。本当の商いってもんは相手が納得するまで売り文句をつけまくるんだよ、バーカ。」 翠眼の男は挑発する。

2013-11-02 23:19:34
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「…そんなにお困りなら、俺の知り合いには金髪碧眼が山ほどいるから一人分けてやるぞ。ヘンテコな病院で闇医者やってる香水ムンムンの髭野郎だ。その代わり、返品は一切お断りだ。悪くない取引だと思うけどな!」 老人は一通り唸りをきかせ…「むぅ…分かった、こいつは持って行け!くれてやるわ!」

2013-11-02 23:25:19
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「しかし、全く何者だお前さんは…これだけの金額が用意できるなんて、詐欺ではなかろうな。」 すると、翠眼の男は口元だけでニヤリと笑う。「持ってる金をそんなんでケチるかよ馬鹿。不安なら前金を用意してやるぞ。」そう言うと男は鞄から札束を大量に掴み、それを老人の顔面に投げつけた。

2013-11-02 23:28:29
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「それとだ、そこのお前らは突っ立ってないで今すぐテイクアウト用の猿轡と鎖付きの首輪を用意してくれ。」翠眼の男はシルクハットを脱ぎ、隠していた部分を曝け出し始めた。若干癖のついた金色の髪に、極めて太く印象的な眉毛―― 「お…お前さんは!」老人の目が丸くなり、観客はざわめき始める。

2013-11-02 23:36:16
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「追われ身だったから挨拶が遅れて申し訳ない。俺は英国王家に代々仕えるカークランド家一族の末裔、アーサー・カークランドだ。」帽子を外した碧眼の男――アーサーは、胸元に帽子を当て軽く会釈をした。 「カークランド卿だ!」「何てご無礼を…」「全員処刑になるぞ…」 観客の動揺が続く。 

2013-11-02 23:43:02
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「今処刑だというワードが聞こえたが、安心してくれ。俺はこの祭りを取り締まる気はないし、踏み込むつもりもない。お目当ての番犬だけを連れて帰らせてもらう。」アーサーがそう叫ぶと、観客からは安堵の声が溢れた。 狼男は状況が把握できなかったのか、終始尻尾をだらりと下げ、静かな様子だった。

2013-11-02 23:50:07
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「よし、大人しくしてろよ…」アーサーは、全身を覆う黒いフード姿になった狼男を連れ、地上へ出た。 そのまま裏通りを抜けて、表の店舗で連なる街通りへ出る。 「お坊ちゃま!探しましたよ…」アーサーの目の前に、白髪交じりで身なりの整った初老の男性が立ちふさがる。「ロバートか、悪りぃな…」

2013-11-02 23:57:03
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ロバートとは、アーサーが生まれる前からカークランド家に仕え、家全体の業務を取り仕切る、彼をよく知る執事である。 「裏通りから出てきたという事は、また物騒なお祭りに参加されていたのですか。全く…貴方という人は趣味が過ぎますよ。そして、隣に居る方は?」 「ああ、俺が買ってきた奴だ。」

2013-11-03 00:02:18
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「今更返しなさいとは言いません。…目的地は把握いたしました。ですが、そのような趣味はもうお止めなってください。」ロバートはそれだけ言うと、アーサーと狼男を黒いリムジンカーに乗せた。 「一通り終わったら、すぐに全部外してやるからな…」 アーサーは、いつもと別の言語で彼に話しかけた。

2013-11-03 00:07:20
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狼男は、猿轡をされているため返事をすることはできないが、その言葉は理解できたらしく表情が少し驚いた様子になった。 彼の頭に被さっている黒いフードが、ピクピクとわずかに動く。クーン…と鼻から抜けるような音がわずかに漏れた。  そしてロバートは南西の方角へと車を出した。

2013-11-03 00:12:47
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「目的地に着きましたよ、お坊ちゃま。」 走ってから約20分の所で車は道の端に寄せられ停まった。車のすぐ横手には、隣同士とは少々造りの違う古びた小さな建物が建っていた。 「Thanks,ロバート。」アーサーは従順な執事に一瞥し フード姿の男と一緒に車を降り、その建物へ入っていった。

2013-11-03 16:28:18
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「よぉ。急患が入ったぞ、フレンチ。」 アーサーは建物の奥へ入ると、家主と思われる人物の名前を蔑称で呼ぶ。 「お兄さん、これから女の子とデートへ行く所だったのに…こんな時にファンタジー眉毛かよ。」横手のドアが開き、中から気怠そうに呼ばれた主は現れた。顎から髭を生やした、金髪の男だ。

2013-11-03 16:34:17
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