月刊「概念分析」:2013年11月号

さて今月の概念分析は? ※ご参考:宮原琢磨 編『21世紀の学問方法論 (日本大学文理学部叢書)』 ・amazon:http://amzn.to/1avEuVf ・書誌と目次:http://www.fuzambo-intl.com/index.php?main_page=product_info&cPath=11&products_id=189 続きを読む
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Masashi Kasaki @kasa12345

『21世紀の学問方法論』(日本大学文理学部叢書9)所収の「21世紀における哲学の方法−概念分析と思考実験,そして自然主義−」(pp. 71-134)を読んだ。タイトルからして僕の専門とかぶっているし、他の人がどういうことを考えているか知りたかったので、かなり期待した。

2013-11-06 19:41:39
Masashi Kasaki @kasa12345

言いたいことをぐぐっと抑えて、幾つかだけ言おうと思う。(1)、現在、哲学方法論がこれだけ研究されているのに、引用、参照している文献が古すぎる。2000年台の著作は、最終節で検討される戸田山の論文3つと、Knobe & Nichols (2008)の「序文」しかない。

2013-11-06 19:52:01
Masashi Kasaki @kasa12345

(2)分析哲学における「概念」の定義として、Georges ReyとPutnamが引用されるが、両者の主張は異なるし、前者は哲学における「概念」を問題にしているわけでもない。そのすぐ後に概念分析の典型例として紹介されるCarnapの概念の理解とも両者は異なる。

2013-11-06 20:02:19
Masashi Kasaki @kasa12345

(3)「知覚可能な個物に適用される自然種のような概念については、その概念が表す種の本質を明らかにすることが…その概念の概念分析だと考えられる。…他方、対応する知覚可能な個物を持たない概念…についての概念分析は、知覚可能なものに適用される概念の分析(自然科学的な分析)とは(続)

2013-11-06 20:09:07
Masashi Kasaki @kasa12345

異なり、その概念を表す語の定義(カルナップの言い方では「解明」を行うことだと思われる)」(pp. 88-9)。なぜ概念分析をこのような選言的なものとして捉えなければいけないのか全く不明。

2013-11-06 20:12:17
Masashi Kasaki @kasa12345

そもそも、自然種語のようなアプリオリにしか外延を決定できない語の存在は、アプリオリな方法としての概念分析の批判として機能してきたわけで、概念分析の擁護者たちは皆この問題に取り組んでいる。あと、ここで典型例とされるカルナップの概念分析はかなり特殊で、典型例とする根拠が不明。

2013-11-06 20:14:48
Masashi Kasaki @kasa12345

あ、「自然種語のようなアプリオリにしか外延を決定できない語の存在」と書いてますが、「アポステリオリにしか」の誤りです。

2013-11-06 21:14:27
Masashi Kasaki @kasa12345

(4)科学の思考実験は現在の科学レベルからして実現可能なものでなければならないのに対し、哲学の思考実験は「思考(想像)可能でありさえすれば何でもあり(p. 109)」という主張の根拠が不明。古い人の引用しかない。この主張に反論するのは、かなり易しい。

2013-11-06 20:18:59
Masashi Kasaki @kasa12345

(5)対応する知覚可能な個物を持たない概念についての概念分析と思考(想像)可能なものについての思考実験というアプリオリな方法が哲学特有の方法であり、21世紀の哲学は方法論的自然主義(アプリオリズムの拒否)から自由になり、それらを行使していけばいいという結論が何故出てくるのか不明。

2013-11-06 20:23:02
Masashi Kasaki @kasa12345

そもそもアプリオリがまともに定義されていないので、何を主張しているのか読み取ることができない。認識論における概念分析がある程度成功しているというのが、その根拠のようだが、そもそもそれらがアプリオリな分析であることを論証していない。そして、もちろん反対している人も大勢いる。

2013-11-06 20:25:07
Masashi Kasaki @kasa12345

最後に瑣末だが、文献表の作り方がおかしい。幾つかの論文の収録先がE. Craig, op. cit.になっているが、Cの項目にこの本がない。文献表で最初にこの本が現れるGooding (1998)のところにだけ書いてあって、あとはずっとop. cit.なので、探すのが面倒。

2013-11-06 20:28:28
Masashi Kasaki @kasa12345

この論文の構成上の問題点としては、思考実験と概念分析を何故か独立に扱っていること。概念分析については、それなりに哲学史上の見解を出しているが、思考実験については科学の思考実験について誰かが言ったこと、哲学の思考実験については幾つかの例を参照するという形で別個に扱っている。

2013-11-06 20:53:30
Masashi Kasaki @kasa12345

思考実験において適切な判断(直観)を持つことができるのは、概念能力がそれを保証するからというのは、昔からかなりポピュラーな見解で、だから思考実験は概念分析のツールと見なされたりするのだが、全然このポピュラーな見解に言及がない。

2013-11-06 20:56:23
Masashi Kasaki @kasa12345

何度か参照されているE. Craig (1988)というのは、Routledge Encyclopedia of Philosophyで、"Concepts," "Conceptual Analysis," "Thought Experiments"が参照されている。

2013-11-06 21:03:12
Masashi Kasaki @kasa12345

この本から遡って文献を調べていったので、古い本ばかり参照することになったのではないだろうか。SEPにもこれらの項目は全てあるので、そちらを参照して欲しかった…

2013-11-06 21:04:21
Masashi Kasaki @kasa12345

SEPも問題のある記事はあるし、著者の主観が反映されている部分もある。研究者なら、目に通せるものは可能な限り資料を読むべきであって、ましてやサーヴェイレベルで、それ読むことが必要だとか、それで十分とかいうようなものはないと思うが…

2013-11-06 21:51:23
Masashi Kasaki @kasa12345

僕はどちらかとというと日本の研究者がSEPに依拠し過ぎるのが問題だと思っている。文献ちゃんと読んで自分で考えれば、諸見解の整理や論点について異なっていて全然いい。

2013-11-06 21:53:48