リヴィング・ウェル・イズ・ザ・ベスト・リヴェンジ #5

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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【リヴィング・ウェル・イズ・ザ・ベスト・リヴェンジ】#5

2013-11-15 22:17:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」右拳!左拳!右拳!左拳!シゲトはコケシマネキン木人にリズミカルなパンチを繰り出す。木人の根元はバネになっており、打撃の反動で頭部を激しくシゲトへ叩きつけにくる。これを素早いスウェーで回避し、「イヤーッ!」ハイキック! 1

2013-11-15 22:21:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

バウンム!音を立ててコケシマネキン木人が床近くまで倒れ、その反動で戻ってくる!「イイイイヤァーッ!」更なる回し蹴り!バウウウウンム!シゲトは再度跳ね返ってきた木人を抱き止め、停止させると、壁際に置いたイオン水を取りに行った。「ア?」彼は動作を止めた。戸口に人影だ。 2

2013-11-15 22:24:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何やってんだよ、カラテマン!」指差しポーズを決めたのは悪友のサイシ。バイオクーガーの毛皮の悪趣味なコートを着て、目にはサイバーサングラス、タトゥーは更に増え、首筋には「切るこれ」とミンチョ体。シゲトはオジギしてみせた。「ドーモ。バカのクソガキ=サン」「ウヒャホ!タフ!」 3

2013-11-15 22:27:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二人は拳をぶつけあってアイサツした。「本気でハマッちまってんのか?ゼンかよ?」サイシは呆れ顔で廃ビルの一角にポリウレタンタタミを敷いた即席ドージョーを見渡す。「こんなにしちまってよ!あのショドーは?自筆か?」彼は壁の「文句無い」を指差した。「ああ」とシゲト。サイシは噴き出した。4

2013-11-15 22:32:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なにやってンだかな!いきなりもイイとこだ。何日経ってもやめねえし。リボルバー貰えた俺へのあてつけか?」「よくわかんねえけどさ……」シゲトは呟き、イオン水を飲んだ。「ウフッ!スピリチュアルパワー?」サイシが笑った。「健康に気を配ってやがる!ヴィーガン!ゼン!」「うるせえなあ」 5

2013-11-15 22:36:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シゲトはタオルで汗を拭いた。全てはあの日、ドリームランド埋立地でカラテを見た時からだった。シゲトは中学時代にサイシと隠れ家にしていた廃ビルにゴミを持ち込み、DIYトレーニンググラウンドを作ってみた。突飛な行動だ。サイシがバカにするのも無理はない。理由はシゲト自身も言語化し難い。6

2013-11-15 22:41:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

あの日、激しくカラテしていた赤黒のニンジャ……あのアトモスフィアが瞼に焼きつき、彼は知恵熱を出して二日寝込んだ。それから彼はカラテの真似事をするようになった。拳を繰り出し、記憶の見よう見まねで鍛錬を行うと、頭のモヤモヤした鬱屈や無力感を忘れられた。タフガイらしくないのは確かだ。7

2013-11-15 22:47:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ウマサマ=サンのジムを使えよ」サイシは言った。「鍛え上げられたこの俺のギャングスタ・ボディにどうやっても敵わねえからって、こんなオカルト秘密訓練?ますます差が開いちまうぜ?」「カラテさ」「それがダメ」サイシはリボルバーをスピンさせた。「BANGBANG!カラテマンも一撃だぜ」8

2013-11-15 22:51:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そういうお前は益々ウマサマ=サンのパシリ小僧だな、エッ?」「羨ましいかよ。すげえだろ?」彼はコートを見せびらかした。「マブなコート、そこらのサラリマンじゃ手も出ねえ。なあ、ウマサマ=サンはお前の事気にかけてるぜ。もっと顔出せッてさ……」「行くさ」「ちゃんとしろよ?」 9

2013-11-15 22:55:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サイシは葉巻を咥えた。「禁煙だぞ」とシゲト。「ヴィーガンボイ!晩飯はトーフ・プレートか?天井に穴空いてるっての」サイシは構わず火をつけ、ふかした。「なあ、マジな話もっとドンドン行かねえと。大事なとこだぜ、俺たち。ビッグになるか、ここで死ぬか!」「ビッグなパシリ」「今だけさ!」10

2013-11-15 23:01:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サイシは咳き込みながら、「まあ、テメエの臆病は今に始まった事じゃねえしな……わかってンだろ?ここでこうして、どうすンだ?何もねえ!」「わかってるさ。やるッての!」「わかってねえな!お前は苦労する覚悟が足りねえ!」「やるさ!」「本当か?……ウマサマ=サンが俺とお前を呼んでる」 11

2013-11-15 23:08:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ビズか」「その通り」サイシは頷いた。「今までよりずっとデカいヤマだ。マネー!ムーブ!ウマサマ=サンに男を見せてよ、装甲車みてえなSUVを貰って、ファイヤーパターンとキツネをペイントすンだよ……きっとすげえぜ!やるよな?まさか小便漏らして逃げねえよな?」「ナメんな!やるさ!」12

2013-11-15 23:13:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「本当のとこ、テメエはやる奴だって思ってたぜ!」サイシは笑い、マネキン木人を殴った。「イヤーッ!」バウンム!跳ね返る木人の頭!「グワーッ!」「プッ!」シゲトは笑った。「ジャブ!ワンツー!こうだ!」「ブルシット!どうせカラテビデオが何かだろ?」「いいからやってみろよ」……。 13

2013-11-15 23:17:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

オーガニック・タタミを敷き詰めた室内には、アグラ姿勢の男、唯一人。撫でつけた金髪と鍛え上げられた褐色の肌。特徴的な瞳。彼こそは、余命幾ばくも無いとされるサキハシ知事の筆頭秘書にして、悪のニンジャ組織アマクダリ・セクトの実質的な支配者。アガメムノンその人だ。 15

2013-11-15 23:25:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼の周囲には無数のホログラム・モニタが浮かび、彼が処理すべき事案の判断材料とすべきリアルタイム数値、リアルタイム画像が常にその姿を変え続ける。それらは政治経済という名の恐るべきキメラを休まず描くビヨンボである。16

2013-11-15 23:38:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アガメムノンはそれら情報を稲妻めいたニンジャ判断力で吟味、手元の床机型デッキを時折操作しつつ、瞑想的な物思いにふける。流れはほぼ理想的に推移している。電磁嵐下で機能する長距離弾道ミサイル開発、メガトリイ社の遺産を基盤とするネットワーク・テクノロジーへの投資は極度加速している。17

2013-11-15 23:49:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「戦争はいい」。ハーヴェスターの言葉に、アガメムノンは実際異論が無い。戦争はいい。物事がとても早く進む。とても早く、彼が理想と考える状態に近づく。ビオトープめいて程よく管理された破壊と創造の車輪に、メガコーポは我先に飛び込む。そうせねば競争に敗れ、停滞と死が待つばかりだ。18

2013-11-15 23:58:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コンセントレーション・ルームの天井には「天下」を意匠化したアマクダリ・エンブレムが描かれているが、注意深くそれを透かし見ると、もう一つの無色のエンボス意匠が浮かんでくる。竜を狩る鷲。これはアガメムノンの一族を示す。この意味を理解する者はセクトの中にも殆どおらぬだろう。 19

2013-11-16 00:05:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

1999年以前の世界を管理していたのは、彼の属する鷲の一族だ。彼らはローマ皇帝の血統であり、全世界の武器市場をコントロールし、死とマネーで人類を駆り立ててきた。彼らの地球規模の支配計画にさしたる曇りや淀みは無く、2020年頃までには世界のブロック化は完了する予定であった。 20

2013-11-16 00:19:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

2020年。これはインターネットの発見によって再計算された達成年だ。インターネットは地球をめぐる秘匿された毛細血管であり、一族がメガトリイ社を手中に収めた事で、計画は極端なまでに加速した。……では、その結果は。 21

2013-11-16 00:31:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ホログラム・モニタが滝めいて流すデータ群。それらも当然、アガメムノンのもとにあるべきものだ。本来そうあるべきもの。「この速さはいい」。彼はひととき目を閉じる。非常にうまく推移している。ミクロの規模では幾つかのケオスが目につくが、さしたる支障にはなるまい。 22

2013-11-16 00:40:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼はコヨイ・シノノメの不可解な行動を思う。彼女はニンジャとして有能であり、かつ、今後のアガメムノンが公の場で妻として伴うに申し分のない家柄を持っていた。それが失われた事は残念だ。条件を満たす伴侶を手配し「家族」を整えるには、今後、多少の時間を要する。煩わしさがある。 23

2013-11-16 00:48:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

あの日の大使館のイクサの顛末には不透明な部分が幾つかある。全容の解明の為には、瀕死のニンジャスレイヤーを始末した際に重篤なダメージを負ったフージ・クゥーチの回復を待つ必要があった。アガメムノンはニンジャスレイヤーの死をさほど信じていない。その生死には興味があった。 24

2013-11-16 00:54:54