田中角栄の「漢詩」について

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東大中国思想文化学研究室の住人 @UTokyo_chutetsu

田中角栄が訪中した際に、毛沢東・周恩来らに送った詩。「國交途絶幾星霜,修好再開秋將到。鄰人眼温吾人迎,北京空晴秋氣深(國交途絶して幾星霜、修好再開して秋將に到らんとす。鄰人眼温くして吾人迎ふ、北京空晴れて秋氣深し)」

2013-11-15 12:08:35
東大中国思想文化学研究室の住人 @UTokyo_chutetsu

「吾人迎」は、隣人が温かい眼差しで自分を迎えてくれるのであれば、「迎吾人」とすべきである。また、天空を言うなら「空」ではなくて「天」としなければならない。「秋」の字を二度用いているのも、詩としてはよろしくない。

2013-11-15 16:08:36
東大中国思想文化学研究室の住人 @UTokyo_chutetsu

何より、この詩は押韻していない。韻が通じる気配すら感じられない。すなわち、韻文として成立するための最低限の美学が欠如している。従って、これは漢詩とは呼べず、要するに漢字を二十八個並べただけの文字列に過ぎない。

2013-11-15 20:08:40
東大中国思想文化学研究室の住人 @UTokyo_chutetsu

しかしながら、もしかすると、毛沢東・周恩来は、角栄がこの詩を詠むのを目撃したことによって、逆に日本への評価を高め、角栄に畏敬・羨望の念を抱いたのではなかろうか。

2013-11-16 08:08:49
東大中国思想文化学研究室の住人 @UTokyo_chutetsu

農民・労働者層による革命を理念に掲げ、それを成し遂げたとはいえ、毛沢東・周恩来達自身は、地主階級の出身であった。そして、旧時代の文化を一定程度身につけている、知識分子でもあった。

2013-11-16 12:08:35
東大中国思想文化学研究室の住人 @UTokyo_chutetsu

一方、田中角栄は、貧農の出身で、高校すら出ていない。すなわち、「農民階級」の出身である。そんな角栄が首相になった日本は、共産革命を成し遂げたはずの中国よりも、進んでいると謂えよう。

2013-11-16 16:08:35
東大中国思想文化学研究室の住人 @UTokyo_chutetsu

そして、その角栄に実際に会ったところ、無茶苦茶な文字列を披露され、かつそれで「ドウダ七言絶句トヤラヲ詠ンダゾ」と得意満面。毛氏らは驚嘆し、まさに「絶句」したことであろう。

2013-11-16 20:08:41
東大中国思想文化学研究室の住人 @UTokyo_chutetsu

「まさかこんな文化程度の低い人間とは!! 間違いなく、こいつは貧農出身で、ろくに教育を受けてはいまい」――彼らは、日本国首相田中角栄に対し、軽蔑を超えて、むしろ感動を覚えたのではあるまいか。

2013-11-17 08:09:28
東大中国思想文化学研究室の住人 @UTokyo_chutetsu

折しも中国は文化大革命の最中。旧文化を否定する運動が繰り広げられていた。しかし、角栄は、そのような運動を経ずとも旧文化に無知であった。毛氏とは異なり、本当にプロレタリアート出身の政治指導者だったのである。

2013-11-17 12:08:35