「世界最高齢の動物」のまとめに関する訂正と続報
- kiruria281
- 3623
- 2
- 0
- 0
初めに
まず初めに、多少なりとも私自身も冷静ではなかった事、参考とする記事の選定に誤りがあった事、私の英語力と知識不足に由来する、誤った情報をまとめたtogetterを投稿した事をお詫びいたします。反響も大きく、このまま誤りを放置するわけにもいかないので、今さらながら訂正します。
2013-11-18 19:56:29これが件のまとめ。どこらへんが間違えているのかを含め、念のためご参照いただければ幸いです。
主に参考にした記事は以下の2つ。 ナショナルジオグラフィック『507歳の貝、年齢調査で死亡は誤解』 http://t.co/UOeEsC4srQ BBC『Clam-gate: The epic saga of Ming』(英語) http://t.co/iBVlrFAfHL
2013-11-18 19:58:19尚、BBCの見出しの「Clam-gate」は、おそらく地球温暖化に関連したメールと文章がクラッキングによって流出した「クライメートゲート(Climategate)事件」をもじったものである。
2013-11-18 19:59:38本題
まず最初の経緯から。先日、アイスランドガイ(学名:Arctica islandica)という種のある1個体が、507歳という、動物の中で最も長生きしたとされる研究結果が発表された。これについて一部の報道が、「科学者が最高齢の貝を殺した」という主旨の報道をし、大きな反響があった。
2013-11-18 20:01:53この報道を真に受けた人々は、研究者に対して批判するメールを送ったと言われている。どうも日本ばかりではなく、研究の発表されたイギリスでも炎上が起こっていたらしい。むしろ日本はその飛び火と見なせるだろう。
2013-11-18 20:03:28これに並行・あるいは反論する形で、一部の報道は「年齢調査のためにむやみに殺したのではなく、年齢を調べようとした際、誤って貝を開いてしまったために死んでしまった。」という主旨を報道した。私の最初のまとめも、概ねこの報道に基づいている。
2013-11-18 20:05:28しかし、ナショナルジオグラフィックが研究者本人の話として伝える所によれば、真実はそのいずれでもないと話す。以下訂正もかねて、はっきりした研究の時系列を記述する。
2013-11-18 20:06:53この研究は元々、過去1000年間の気候変動を調べる目的の一環であった。前回のまとめを見た方には繰り返しになるが、貝には成長に伴って1年に1本ずつ刻まれる年輪が存在し、この年輪の幅の変化によって、地球の平均気温の変化を知ることができる。年齢はこの年輪の本数を数える事にある。
2013-11-18 20:08:392006年、研究チームはアイスランドの大陸棚で、約200個体を採集した。後に世界最高齢の動物となる個体は、この200個体においても、それ以前においても、特に著しい特徴のない平凡な個体であったとされている。
2013-11-18 20:10:12そしてこの個体は、陸地に運ばれるまでの船の中で冷凍保存された。つまり、アイスランドガイはこの時点で死亡していたのである。故意であれ誤りであれ、年齢を数える瞬間まで生きており、その後死亡したという報道は誤りであったという。
2013-11-18 20:11:41そして、その200個体のうちの1つが、その時点において年齢405歳から410歳と推定された。この時点で世界最高齢の動物と認定され、ギネスブックにも掲載された。そしてこの個体は、中国の王朝に因み「明」と命名された。
2013-11-18 20:13:53そして今回、保存しておいた明の貝殻を改めて計測した結果、507歳であると訂正された。訂正された原因は、年輪の間隔が狭くてカウントが困難な部分があり、その部分を詳しく計測した事にある。また炭素年代測定も行われ、矛盾がない事が確認された。
2013-11-18 20:17:24ところで、アイスランドガイは日本において全く馴染みがないが、北大西洋地域ではごく普通に食べられている二枚貝である。商業的に捕獲される程であり、その個体数からすれば、研究で採集された200という数は非常に少ない。
2013-11-18 20:20:57そして何より、最高齢と判明した明の大きさは、多少大きな個体ではあるが、それでもアイスランドガイにおいて極一般的な大きさである。高齢になる貝は、途中から成長が遅くなるため、見かけだけでは100歳なのか300歳なのか、あるいは500歳なのかを見分けるのは不可能に近いという。
2013-11-18 20:22:20この成長の遅さが、明の年齢を誤らせたともいえる。いずれにしても言えるのは、明が現状知られている最高齢だからと言って、それがアイスランドガイ全てに照らし合わせて最高齢である確率は非常に低いとみられる。
2013-11-18 20:23:29むしろ重要なのは、るアイスランドガイはクラムチャウダーなどとしてごく普通に食べられている事である。これは明の大きさにおいても同様である。即ち、どこかの家庭に出された料理の中に、明よりさらに高齢の個体が混ざっていたとしても、何ら不思議はないと言える。
2013-11-18 20:25:07結局、報道がやや恣意的だったのではないか?とする感が否めない。もし日本でアサリの研究中に最高齢個体が見つかったとしたら、おそらくこんな報道はされなかっただろう。「殺された」という強い表現と、アイスランドガイという日本ではなじみのない貝だったことが原因ともいえる。
2013-11-18 20:27:21ちなみにアイスランドガイは、地元でもハマグリを意味する「Clam」やホンビノスガイを意味する「Quahog」を付け、黒ハマグリとかマホガニーホンビノスガイなどの異称が無数に存在する。これに惑わされたのか、ハマグリやホンビノスガイの1種とする報道もあるが、これは誤りである。
2013-11-18 20:28:50ハマグリやホンビノスガイとアイスランドガイはマルスダレガイ目という同じ目に属するものの、そのレベルで一緒とするのは、ヒトとアイアイをいっしょくたにするようなもので、正直乱暴である。二枚貝を見ればアサリもシジミもホタテも全てハマグリと言っているようなものである。
2013-11-18 20:32:05尚、アイスランドガイは気候変動を調べる目的で研究される事は記述したが、北大西洋において明に匹敵する高齢の個体は発見されておらず、その点では非常に貴重である。昔の気候変動を調べるのは、現在起こっている地球温暖化などにも絡む話題であるため、決して一般にも無視できない話である。
2013-11-18 20:34:38私が懸念するのは、今回のような生物の命を頂戴して行う研究の場合、必ず生命倫理批判が行われる事についてである。むろん、むやみに命を粗末にしない点で、倫理的な観点から研究が行われるように注意を払うのは当然の事である。
2013-11-18 20:38:41