“この書は学界では紛れもない偽書として知られる。剽窃、偽作したものをあらかじめ地中などに埋め、古代に秘匿された宝物であると称して人前で取り出して見せる「埋蔵書」の一つであり、チベット人自身が仏典と考えていない。” http://t.co/Sf0owBGgpP
2013-11-21 10:57:28チベット仏教哲学の意義『チベット仏教哲学』松本史朗著(大蔵出版)より http://www.geocities.co.jp/WallStreet/1733/tibet/matsumoto.html
まず最初に言っておくが、中沢新一のやったことを全面肯定する気はない。奴は批判されてしかるべきだ。だからといって「死者の書は偽仏典で価値無し」「非主流派が使っているだけ」などと断言するのは非常にまずい。
2013-11-21 11:14:32まず、チベット仏教ニンマ派を「非主流」と言ってしまっているのが問題。ニンマ派はツォンカパによる改革以前の教義を維持している古派であって、現在も多くの信者がいる。
2013-11-21 11:18:50これはキリスト教においてはルターやカルヴァン以後(プロテスタント)とそれ以前(カトリック)の関係に似ている。プロテスタントを主流で正統、カトリックを非主流などとは言わないだろう。
2013-11-21 11:20:27次に、「死者の書」を「偽教典」と批判することについて。こういうのを「埋蔵教典」というが、埋蔵教典なら他にもいくらでもある。別に「死者の書」だけがインチキという訳でも無い。
2013-11-21 11:21:51もっとも埋蔵教典が多いのがニンマ派の特徴でもあるので、これを称してニンマ派はインチキだと言いたくなるかも知れないが、だとすると教典なんてアーガマ仏典でさえ大部分は後から付け足したものだ。どこからどこまで本物で偽物で、なんて議論に意味があるのか?
2013-11-21 11:24:52山口瑞鳳博士をdisるつもりはないのだが、この人はどうも正と異、主流と非主流に拘るところがあって、大学の頃何本も本や論文読んだけどあまり好きにはなれなかった。
2013-11-21 11:26:25チベット仏教の中に残るポン教(チベット古来の土着宗教)の成分やインドから伝わってきた密教的側面を淫祠邪教扱いするところもあったし。このへんは、さすがに師匠の中村元博士の方が偏見がなく価値中立であるだけ偉いと思っていた。
2013-11-21 11:28:23ともあれ、「チベットの死者の書」は確かにチベット仏教の古派で現在も用いられている教典であり(枕経、つまり死者の枕辺で唱える事が多い)、今も信仰のよりどころであることは確かだ。これを偽物だ非主流派だ言うのは、それこそ偏見ではなかろうか。
2013-11-21 11:30:10誤解されていることも多いが、チベット仏教と言っても別にダライ・ラマを頂点として一枚岩のピラミッドになっている訳では無い。昔からゲルク派とニンマ派は争ってきた。ゲルク派が天下を取ったからダライ・ラマが権力を握っただけであって、ニンマ派のトップは別にいる。
2013-11-21 11:32:37中国によるチベット占領後の弾圧で一番被害が大きかったのはゲルク派だが、それはゲルク派=ダライ・ラマが政権を持っていたからで、それと比べてニンマ派への弾圧はそこまで過酷では無かった。だから今も、チベット本土には結構ニンマ派は生き残っている。
2013-11-21 11:34:13私はダライ・ラマを尊敬しているし彼らの運動が成就して欲しいとも思っているが、彼とゲルク派がチベットの全てだというのは誤解であるとこの際言っておきたい。
2013-11-21 11:35:01ついでに言っておくと、チベット仏教には大きく四つの宗派がある。ゲルク派、サキャ派、カーギュッ派、そしてニンマ派だ。このうちニンマ派を古訳派、残り三つを新訳派という。
2013-11-21 11:37:47呼称の通り、ベースとなった教典の渡来時期翻訳時期に違いがある。また、古派は吐蕃王国崩壊後の混乱を経験しており、その中で土着信仰を取り込んだ経緯もある。新派は古派への改革運動として出発した点も事実だ。
2013-11-21 11:42:54よく知られているツォンカパはインドからチベットへの仏教流入が絶たれた後に最終的に教理を整理しまとめあげた人で、その教義を伝えるのがゲルク派。つまりゲルク派がチベット仏教の最終形である、という事自体は正しいが、最も正しいかといえばそうでもない。当たり前だ、宗教なんだから。
2013-11-21 11:44:37ちなみに日本における密教は、乱暴に言うと前半分しか伝わっていない。これを伝えたのが空海なのだが、空海の頃には中国には密教の前半分しか伝わっておらず、残り半分がチベットまで伝わったところでインドはイスラム勢力に征服されて仏教は壊滅した。そしてチベットから中国への流入も途絶えた。
2013-11-21 11:46:42日本の密教を知った後チベット仏教を見ると違和感を覚えるのはそれが理由で、中には「チベット仏教はチベット土着の宗教が混ざった異質なもの」と言う人もいるが、むしろ密教の正統であり最終形態を伝えているのはチベット仏教だと言ってしまってもいい。
2013-11-21 11:48:01だから別段チベットが劣るわけでも優れている訳でも、日本が正しい訳でも間違っている訳でも無い。そもそも宗教比較にそんな視点を持ち込むのがナンセンスだしアナクロだ。
2013-11-21 11:49:11というわけで、死者の書は別に偽物でもないし異端や非主流派の怪しげなものでもないよ、というお話。中沢新一による紹介はセンセーショナルだったかもしれないが、あれを頭から否定するのもまた傲慢だし出鱈目だと主張してこの項終わり。昼飯にする。
2013-11-21 11:50:43