
都築潤さんによる、コンピューターで絵を描くことについての話

どんなに現実世界の絵をまねて描いても、拡大すると必ず正方形でできていました。知り合いに相談するとペインターというソフトを勧められましたが、まねが超うまくなっただけで結果は同じでした。これは非常にまずい事態だと直感しました。
2010-10-13 22:24:15
と同時に、現実世界では鉛筆で紙に一本の線を引いただけで「うーんいい感じ」とか「ダメだあ」とか言えてたのが、良いとかダメとかそういうことを問題にさえできない世界に気持ち悪くなりました。
2010-10-13 22:37:15
こういう気持ち悪さとかまずさとかを忘れるために、解像度という薬を投与されていることが分りました。私たちはこのまま解像度の奴隷になるしかないのかと、たいへん落ち込みました。
2010-10-13 22:59:12
それだけではありません。解像度に加えアンチエイリアスという強力な促進剤まで打たれた私たちは、もはやこれらを前提にしなければ絵を描けない状況に、何の疑問も持たなくなってしまったのです。
2010-10-13 23:09:10
解像度やアンチエイリアスの投与によって太らされた体重、つまりデータ容量を支えるために、PCにはますます高スペックが求められ、これに応じられないと、私たちはイライラするようになってしまいました。こんなことでは絵を描くことの本質から離れるばかりじゃないかと思いました。
2010-10-13 23:22:21
話に悲愴感が漂ってきましたが我慢しましょう。私の画像ソフト、つまりペイントツールでの初期体験はホントにこんな感じだったのです。ここから光明が徐々にさしてきます。
2010-10-13 23:35:48
近所に住んでいたコバリンという人が良いことを教えてくれました。IllustratorとPhotoshopを行ったり来たりすれば充実した絵が描けるというアドバイスでした。そうか今まではベイント、つまり塗りだけだったから片手落ちだったのだ。絵は塗りだけでなく…
2010-10-14 00:07:35
線を引く作業も同時にやるもので、現実世界では現にそうしてきたのだし、何でそれに気づかなかったのだろう、と小躍りしました。塗るだけの道具であるペイントツールで、むりやり線の世界の問題まで解決しようとするから、解像度やアンチエイリアスに頼らざるを得なかったのだと気づいたのです。
2010-10-14 00:17:12
線の世界の問題とは形の問題です。自由な形を手に入れたいという欲求をペイントツールで解決しようとすると、原子の一点として仮りに見立てられている正方形の、その正方形という形そのものが邪魔になる。
2010-10-14 00:46:21
つまり形を点によってしか構成せざるを得ない状況下で生まれる、その構成要素である点そのものが形を持ってはいけないというパラドックスです。この話はちょっと横においときます。
2010-10-14 00:50:36
とにかくデジタル世界ではドローツールとペイントツールを合わせることで、一人前の絵になるのだと分かって小躍りしたのでした。ドローとかペイントとかいう名前も、二つ合わせれば現実世界の絵と同じものが描けますよと言ってるようなものだし、何で気づかなかったのだろうとその時は思いました。
2010-10-14 01:10:18
そう思いましたが、じつはこの時にもっと大きなことに気がつくべきだったのです。それは今まで自明だった、絵についてのほとんどの事象に、疑いの目を向けなければならないほど大きなことでした。つづく…
2010-10-14 01:18:33
えー、こういう話をしていることから分かるように、これはイラストレーションの問題ではありません。そしてデジタルの問題でもないのです。しいて言えばデジタルに触れることで初めて見通すことができた、とても大きな「絵」の問題を扱っています。ニューエイドスはそのための展覧会ですー。
2010-10-14 01:36:12
ここでドローイングとペインティングについて説明をしないといけません。ドローとは線を引くことで、ペイントとは色を塗ることですから、ドローイングは線で構成された絵を指し、ペインティングは塗りで表現した絵を指します。別の視点からこの二つを比較することもできます。
2010-10-15 00:51:29
ドローイングはアイデアスケッチや習作の意味で使われ、ペインティングは絵画作品という意味で使われたりもします。でもここのツイートでは主に、ドローイング=線画、ペインティング=塗り絵、といった意味に取ってもらって結構です。
2010-10-15 00:53:52
さて問題にしたいのは、このドローイングとペインティングが絵を構成する二大要素であることと、現実世界ではこの二つを特に意識もせず描き分けたり融合できたりしたのに、デジタル世界ではツールのレベルから分離してしまっているということです。いや分離という言葉では表現不足です…
2010-10-15 01:01:25
分離というより、もともとドローイングとペインティングは途方もなく隔たった二つの世界である事実を、デジタルによって突きつけられたというのが私の印象でした。ではどう突きつけられたのか…
2010-10-15 01:20:28
IllustratorとPhotoshopの話に戻ります。小躍りして喜んだ私は、さっそくPhotoshopで描いた塗りだけの絵に片手落ちとなっていた線と加えるため、この画像データをIllustratorに持っていくことにしました。
2010-10-15 01:31:07
そうすれば現実世界と同じドーイングとペインティングが補完し合う、フツーの絵が描けると思ったからです。しかしこの持っていく方法が配置とトレースしかありません。配置だと仮に画像を貼付けただけだし、トレースだと形は抽出できるけど色が付いてきてくれないので、とにかく途方に暮れました。
2010-10-15 01:41:06
それだけでなく、絵を描いている全ての人がこの事態に困っているはずだと思い込みました。あとから調べたら誰も困ってませんでした。
2010-10-15 01:44:05
1997年頃の話です。その頃パソコン雑誌は読んでいましたが、困ってたにもかかわらずグラフィックツールの攻略には興味がなく、ダイナブックとか、モザイクとか、アンドリーセンとクラークがどうしたとか、そんな思想的なことばかり覚えてツールについては一向に覚えませんでした。
2010-10-15 02:02:49
しかしやることは徐々に分り始めていました。まず解像度からの解放、それからデータ容量を押さえる、ドローイングとペインティングの融合と駆け引きによって絵を成立させる。でも言葉からスタートしたのではなく、感覚でもって描けばこれらが何とかなるだろうという気持ちでした。
2010-10-15 02:09:16
それから画材の物質性、描き手の息づかいとかハプニングとか、そういう現実世界では勝手に出てしまうことが、デジタル世界では逆転します。勝手に出てしまうことをわざわざ作らなければならないということです。
2010-10-15 02:15:39
あとは何を描くかですが、もともとそこに興味がないので何でも良くて、ハプニングでコンピュータならやっぱバグだろうと、バグは虫なのでそれを描くことにしました。その頃はもうIllustratorを使えば解像度は無関係という知恵がついていたので、これらの要素をわざわざ作ることを念頭に…
2010-10-15 02:27:18