ネームができないときの打ち合わせの仕方

講談社モーニング編集長、増刊モーニング・ツー初代編集長の島田英二郎 氏が語る
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島田英二郎 @asashima1

先日、道を歩いていたらうちの新人さんとばったり会った。「最近どう? ○○(担当の名)と打ち合わせしてる?」と聞くと、「打ち合わせしたいんだけど、ネームが出来なくて……」。そこで彼を誘ってお茶をすることに。

2010-10-12 17:55:04
島田英二郎 @asashima1

「どんなネームを描こうとしてるの?」と聞くと、なるほどまだ全然まとまってなくて、 ごく断片的なイメージがあるだけ。確かにネームのかたちにしないと打ち合わせがしづらいし、そもそも担当に連絡しづらいことはわかりますが、でもね…

2010-10-12 17:55:23
島田英二郎 @asashima1

この段階で打ち合わせをする技術っていうか「コツ」を身につけてほしい(担当も)。あたまのなかでモヤモヤしててぜんっぜん言葉にならないものをうまく掘り出していく。この作業をひとりでやるのはとっても大変なんです(出来る人は出来るし、ひとりでやるほうが向いてる人もいますが)。

2010-10-12 17:55:42
島田英二郎 @asashima1

実は編集者って、大半この作業の相手役として存在している気がする。この手の「自分の潜在意識の底に潜っていく」みたいな作業は、相手と対話しながらのほうが上手に、深く、しかも「早く」潜れる。商業連載作家にとってはこの「早く」ってのが得に重要で…

2010-10-12 17:55:58
島田英二郎 @asashima1

週刊連載となると、作家さんのネームが出来るまで無為無策で待ってると、永遠にネームがあがらなかったりしかねない(もちろん、最終的には編集者は「無為無策」です。結局は作家さんが生み出すことを待つことしかできない。それはそうなんだけど)。

2010-10-12 17:56:14
島田英二郎 @asashima1

つまり自分でも何がしたいかわからない状態で、それでも編集者と話す感覚ってか、癖をつけちゃうといい。編集者もそこにとことん付き合いたい(自分に言い聞かせてます)。本当の世間話に終始してもしゃあないけど、世間話と打ち合わせがシームレスにつながる感じ。いい編集はそれがうまい。

2010-10-12 17:56:26
島田英二郎 @asashima1

新人さんはとかく遠慮しがちだけど、図々しくおしかけていい。実際デビューする人って、「僕のネーム見てくれました? 早く見てくださいよ!!」って奴がけっこう多い(笑)。担当に電話して「ネームできないからお茶してよ!」って…言いづらいか。

2010-10-12 17:56:39
島田英二郎 @asashima1

俺、するよ。言ってくれれば。編集長は担当持つなって言われてるから、もうさびしんぼで…(笑)。いや、つまり編集者のほうがそういうふうに歩み寄るべきなんだよね。みんな連載に加えて新人さんたくさん担当してるからそうそう簡単にはいかないのもわかるけど。

2010-10-12 17:57:11
島田英二郎 @asashima1

初代編集長が言ってたな「キリストがあれだけのものを遺したのはそこに問う者(使徒)がいたからだ」って。そこまでの話かよ!?とは思うけど(笑)、確かに問う者の存在が才能の開花の可能性や時期を左右するのかしれません。というか、そうありたい。

2010-10-12 17:57:25
島田英二郎 @asashima1

このあたりの話については、ものすごく示唆に富んだ本があるんです。ある数学者の半生を追った本なんだけど、校了が立て込んできたんで、それについてはまた後ほど。次回MANGA OPENは11月30日締め切りです!

2010-10-12 17:58:19
島田英二郎 @asashima1

昨日の続き。“ネームが出来ないときの打ち合わせの仕方”について。「完全なる証明」(文藝春秋)という本があります。「フェルマーの定理」と並んで数学上の超難問と言われた「ポアンカレ予想」を解いたロシアの数学者・ペレルマンの半生を追ったノンフィクションなんだけど…

2010-10-13 18:16:33
島田英二郎 @asashima1

ロシアってのは世界で一番数学のさかんな国で、数学の専門塾がいっぱいある。ペレルマンを育てた“魔法使い数学コーチ”ルクシンの塾の話。一見普通の、天才とは思えないような生徒が集まるんだけど、彼の塾はロシア最強の数学塾です。そこでの生徒へのコーチの接し方…

2010-10-13 18:17:04
島田英二郎 @asashima1

普通の塾は生徒に「正解」を教えるんですが、ここではそういうことはしない。ひたすら生徒といっしょに問題を考える。作者の筆を借りると「おそらくそれはこれまでに考案された(数学指導法の)中で、もっとも労力のいる指導法だろう」

2010-10-13 18:17:23
島田英二郎 @asashima1

「つまるところ子供たちには、話をすることを教えるのです」「教師には生徒の支離滅裂な話を聞いて理解し、生徒を導くことを教えます」「教師には生徒の支離滅裂な話を聞いて、支離滅裂な話を理解することを教えるのです」。…編集者が教師で新人さんが生徒だ、なんて言うつもりはありません。

2010-10-13 18:17:36
島田英二郎 @asashima1

ルクシンの考えでは、「教師=教える」「生徒=教えられる」という図式すら成り立たないように見えます。実は「教える」ということは常に「教えられる」こととほぼ同義で、これは私の編集者としての実感でもあります。

2010-10-13 18:17:54
島田英二郎 @asashima1

編集もある程度キャリアがついてくると、どうしても新人さんに接するとき、形式上?「教える」的スタンスから始まりますが、そういう関係はすぐあやふやになっていきます。というか、なったほうがいい。ならないと打ち合わせにならない。

2010-10-13 18:18:07
島田英二郎 @asashima1

やや話がそれるかもしれないけど、新人さんのなかには「新人は教えられる立場をポーズとしてとらなければいけない」と思ってる人がたまにいる。それは絶対よくない。妙にへりくだられる?と打ち合わせが一方通行になっちゃう。

2010-10-13 18:21:09
島田英二郎 @asashima1

前にも書いたけど、自分の意見はきちんと相手に直接(モジモジとでもいいから)伝えないと。プロ(社会人)を目指すなら、それこそが最初に身につけるべきスキルだと思う。

2010-10-13 18:21:21
島田英二郎 @asashima1

まあ、ルクシンのとこのコーチみたいに立派な編集になるのはかなり大変だけど、ひとつの理想なのかなとは思う。自分の経験からいっても、相手にズバリ凄い答えを提示されちゃうと、そこで思考は止まりがち(って勝手に止めてるだけで、止めなきゃいいんだけど)。

2010-10-13 18:22:30
島田英二郎 @asashima1

連載が始まると「ルクシン的なやり方」を毎回続けるのは本当にむつかしい。でもだからこそ連載をもつまえの新人の段階は「ルクシン的なやり方」を実践する絶好の機会だと思います。

2010-10-13 18:23:55
島田英二郎 @asashima1

なんせこのやり方でルクシンは、「きらびやかな天才児たちを抱えた数多の有名塾」を尻目に、一見凡才とも見える少年少女を最強の数学者に育て上げてきたんだから。次回MANGA OPENは11月30日締め切りです!

2010-10-13 18:24:11
島田英二郎 @asashima1

さっきの「ルクシン」の話、ある人から「あまりにキレイごとじゃない?」と言われた。そうかね? 理想論かもしれないけど、こういうのは「オール オア ナッシング」じゃないから、いつも完璧に体現できなくてもいいんじゃないか?そうありたいと思うことにも意義があるのでは?

2010-10-14 01:28:29
島田英二郎 @asashima1

確かに私が言うことは理想論、「キレイごと」が多いかもしれません。でも「キレイごと」すら言えないようじゃどうしようもない。自分が至らないから理想的なことを口にするわけで、自分に言い聞かせてるようなもんです。いわば一種の「呪文」。

2010-10-14 01:28:47
島田英二郎 @asashima1

背の低い男の子が「もっと背が高くなあれ」って言ってるのや、ブサイクな女の子が「綺麗になあれ」って言ってるのと同じです。でも“呪文”は効果あると思う。「漫画がうまくなあれ」だとちょっと抽象的すぎるから、もっと具体性はいるけど、呪文は効果あるぞ。

2010-10-14 01:29:05
島田英二郎 @asashima1

初代が言っとったもんじゃ…。「編集は人の才能に乗る商売である以上、志が高くなければならない」。これが私にかけられた究極の呪文かもしれないです。呪文はそれが成就されたときに解けるもんだと思うけど、この呪文、いつかは解けるんだろうか…。

2010-10-14 01:30:06