【二次創作な】ゲームブック「虚構のクロコニンジャ」プロローグ

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ニンジャスレイヤー　アンオフィシャルノベルゲームブック　「虚構のクロコニンジャ」

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ネオサイタマの薄汚れた夕暮れに、今日も重金属酸性雨は景気悪げに降り注いでいた。放課後の子供達はそれぞれのジクへと通うべく道を急ぐ。複雑怪奇な高度学歴社会の最終関門たるセンタ試験を高得点で突破するには、とてもではないが腐敗し切った公共教育では足らぬのだ。1

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両親に、あるいは社会によって課せられた使命は彼らに重くのしかかる。ハイク、古事記、数学、歴史、サイエンス。記憶野はこれら受験知識に埋め尽くされ、他に学ぶべき事柄…まともな人間関係、イルカやラッコの大切さ、生き抜く知恵…は隅に追いやられる。何よりも彼ら自身が興味を示さない。2

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重たげなランドセルを背負った子供達が足早に通り過ぎてゆく、その道端。男が一人と女が一人、古めかしい木箱を前にして立っていた。箱のサイズは六面がタタミ半畳ほどだろうか。前面のみが開いており、そこから覗く内部には…ナムサン、一抱えサイズの人体が、なにやら芝居めいた仕草で蠢く。3

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読者諸氏は「ジョルリ」と呼ばれるパペットをご存知だろうか。いわゆるマリオネットとは違い、ジョルリ人形は人間がダイレクトに腕を差し込んで操作する。そのためオペレーターはクロコと呼ばれる一種のステルスニンジャ装束に身を包むのが常である。この二人組は男の方がクロコ役のようだ。4

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その一方で、女は赤基調の艶やかなオイラン装束を纏っている。シャミセン・ギターを爪弾きながらミュージカル調に歌う彼女がどうやら演者らしい。声は低く、滑らかで、ハスキーだ。固く結い上げられた髪と陶磁器めいて白い肌は、ともすればどこか人工的ですらあった。5

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一昔前…電子戦争以前、この国がここまで歪んでいなかった時代ならば、道行く子供達は奇妙な二人組が演じるジョルリ人形劇に釘付けとなっていたことだろう。人形もまたミニチュアサイズのニンジャ装束とメンポを身に付けている。今日の演目、ニンジャものは活劇ジョルリの王道である。6

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「あ…甘し！リンゴとは…重点！」ベケベン！今日の演目、「シージ・トゥ・ザ・スリーピング・ビューティー♯２」は今や佳境に入っていた。オイランがシャミセンを掻き鳴らしながらセリフを高らかに歌い上げ、それに合わせてクロコ男の操るジョルリ人形は震え、唸り、仰け反る。7

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オイランさん（仮）とジョルリさん（仮）　　#piyo_nj http://t.co/dmvdvp2B1S

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箱の中に舞台装置のたぐいは無く、エピソードの全てはセリフとパントマイムによって語られる。だが見えるであろう…ガスマスクメンポのニンジャ人形は確かにコフィンホテルのフスマにその手を掛けた。「紳士的に入室。フィーヒヒヒ！アーッ！？アバーッ！？」8

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架空のフスマが勢い良く開くと同時にガスマスクニンジャ人形は腰を抜かし、見事なブザマモーションで後ずさった。箱の奥の闇からもう一体の人形が歩み出る…赤黒の装束だ！何たる意外な展開！ヒロインの寝床に忍び込もうとした不埒ガスマスクメンポニンジャの前に立ちはだかる死神ニンジャ！9

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「イヤーッ！」ベケベン！「グワーッ！」ベケベン！「イヤーッ！」ベケベン！「グワーッ！」ベケベン！オイランが弦をスラップする度ガスマスクニンジャに叩き込まれるリアルかつダイナミックな人形カラテ！アクションシーンはエンターテイメントに必要不可欠なのだ！10

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「イヤーッ！」ベケベン！「グワーッ！」ベケベン！「イヤーッ！」ベケベン！「グワーッ！」ベケベン！やがてクロコ男がノーレンメンポの奥から目配せを送り、オイランは心得たとばかりに一際強く弦を叩く！ベケベン！「イヤーッ！」「グワーッ！サヨナラ！」ジョルリ人形爆発四散！11

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　…いつの間にか日は落ちていた。もはや通学路に人の姿は無い。本来であればシージの＃２はまだ終わらぬのだが、さすがに彼らにも存在しない観客を前に熱演を続けるほどの酔狂さは無かった。残った人形も魂を抜かれたかのようにカクリとうなだれ、劇場たる木箱の扉はひとりでに閉じた。12

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「…キミの脚本が悪いわけじゃないさ。ただ、ちょっとキャラに頼っていたかな！子供達には分からなかったんじゃないかな、その、モスキートが何故ナンシー＝サンに固執するかとか…」「モスキートの説明ならウェルカム・トゥの時にくどいほどやった。繰り返すのは冗長なのではないか？」13

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「そこだ！僕達がやってるのはあくまで街頭人形劇なんだ、週刊カートゥーンでもなければ長編小説でもない。どこから観始めても大丈夫なようにあえてカットアップする…それは最初に決めたことじゃないか」「…そうか。そうだな。失念していた。すまない」「謝らなくてもいいさ！」14

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「対象年齢も気になる。少し…ダーク過ぎはしなかっただろうか。子供を相手にするなら、もう少し明るい話のほうが」「むしろもっとリアルに、もっとダークにするべきだ。子供だと思ってナメたらすぐにそっぽを向かれるし、そもそも目指すべき層は、全世代、全世界、そしてハリウッドなんだからね」15

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「そうか。そう言ってもらえると」 クロコ男とオイランは互いに微笑みを交わす。オイランは髪からカンザシを抜き、赤いキモノを脱いでカーキ色の地味な浴衣姿となった。男が劇場箱をリヤカー付き自転車に乗せ、サドルにまたがる。オイランは荷物台に腰掛けた。16

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「今夜はどうする？どのエピソードをやろうか、こんな夜にふさわしいのは何だろうね」「新しいエピソードを書きたい。昨日話したあれだ、トーフの…」「そう言うだろうと思った。『ビホルダー』はまだデザインが固まらないんだけどね、『バンディット』は簡単だった。簡単すぎた」17

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クロコ男が笑う。オイランもつられて笑い、体重を男の背中に預けた。やがて時代錯誤の旧式自転車はにじむネオン街に溶けてゆく。油が切れているのか、キコキコと耳障りな音を立てていた。18

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さて。ここまでは前置きである。

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クロコニンジャとオイラン。この二人がただのジョルリ演者なら良かったのだが、そうはいかぬようだ。これからネオサイタマは狂った箱庭劇場と化す。街に流れる噂に耳を傾けてみるがいい。暗黒物質を操り殺戮を繰り返す死刑囚。ヤクザセントーを襲うエビミュータント。ハイウェイを疾走する浮遊バイク。

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時はソウカイ・シンジケート崩壊直前、あえて無粋な言葉を使うなら…第一部終盤といったところだろうか。もしあなたがニンジャたちの足跡を追う者であれば、何が狂っているのかはひと目で分かるだろう。そうだ。あり得べくもないモノが居る。配役が明らかに間違っている。

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まずは種を明かしてしまおう。この街は今、強大なゲン・ジツに飲み込まれている。居ないはずのモノが存在し、都合の悪いモノは退場させられる。空間自体を舞台に書き換える、もはやまともな物語が成り立たぬほどの力である。