マスター・オブ・カブキ・イントリーグ #3
バラバラバラバラバラ。ガイオン・シティ上空を飛ぶ、3機の黒い最新鋭武装ヘリ。「山」「大」「男」……幻想的な漢字プロジェクションが投影されたキョート山脈を眼下に、ヘリの編隊は無慈悲なクナイ・ダートめいて一直線に西へと向かう。 1
2013-12-01 22:37:12「目標の庵までどれほどだ」司令官機に乗るニンジャ、イフリートが隊員に問う。「ドーモ!十分以内です!間もなく本編隊は、共和国防衛軍の航空防衛レーダーにさしかかります!」特殊部隊めいたヘルメットを被った隊員の一人が、UNIX画面を見ながら報告した。「気にせず飛べ」「イエッサー!」 2
2013-12-01 22:46:12ZZZZT……特徴的な電子ノイズが機体内の通信システムにまとわりつき、すぐに後方へ流れてゆく。彼らの乗るカミガタKF-6型は共和国軍の監視システムをパスし、御咎め無しの作戦行動を取らせる。かつてはこう簡単にはいかなかった。状況は好転している。イフリートは目を閉じ、瞑想を行う。 3
2013-12-01 22:54:43……かつて彼らは全ての名誉を失い、セプク寸前まで追いつめられていた。そこは百畳ほどの和室。その日、数名の高官を含む数十人以上の隊員が集められた。その日、彼らは全員セプクを命じられたのだ。ガイオン・カタストロフを食い止められなかった責任を取るために。…… 4
2013-12-01 23:02:40……誰が彼らを結成したか?ガイオン元老院である。彼らは何のために戦ったか?共和国をニンジャの支配から守るためである。彼らは共和国軍内に設置され、強固な電脳防御と電話網盗聴を駆使して、暗闘を続けていた。だが、ザイバツは余りに強大であり、気付いた時には全ては手遅れだった。…… 5
2013-12-01 23:12:02……誰が彼らにセプクを命じたか?それもやはりガイオン元老院である。イフリートらは孤軍奮闘したが、全ての対応は後手後手に回り、ザイバツによるヘル・オン・アースが引き起こされた。虐殺と暴動による大打撃からガイオンが回復してゆく中で、共和国議会と元老院は責任の所在を問うたのだ。…… 6
2013-12-01 23:20:11……イフリートもまた、その日、セプクをコミットする事で共和国の名誉のために果てる筈だった。イフリート自身も、それに何ら疑問を抱くことは無かった。彼らは失敗したからだ。そして彼らはキョートという国家に忠誠を誓っていたからだ。恐怖など無い。あったのは、無念の想いだけである。…… 7
2013-12-01 23:26:26……だが彼らのセプクは土壇場で中止された。比喩的に言うならば、彼らの手がオボンの上に乗ったカタナを握る前に、マッタがかかったのだ。果たして何があったのか? 長官が最後のチャンスを求めて代表ケジメし、その血で感動的なハイクを綴った。それが元老院を唸らせたのである。…… 8
2013-12-01 23:34:45……ハイクひとつで国家権力が動くとは、にわかには信じ難いかも知れぬ。だがキョート共和国は実際動いたのだ。元老院は彼らに汚名返上の最後のチャンスを与えた。それこそがオペレイション・マジックモンキー…… 9
2013-12-01 23:38:59イフリートは手を震わせながら瞑想を終える。あの日の高揚が、使命感が、再び胸を満たす。実際彼らに後は無い。ここにいる隊員全員を含め、彼らは首の皮一枚で繋がっている状態なのだ。失敗は許されず、フェイズの後戻りもできない。失敗すれば、即、セプクだ。 10
2013-12-01 23:48:17「60秒後に目標へと到達!ドーモ!」隊員の声。イフリートが返す。「各部隊、戦闘態勢を取れ。認識番号か19122を投下せよ。テストを兼ねる」「イエッサー!」「殺害するな、捕獲が最優先だ」「イエッサー!」「ザザザザ……ドーモ!民間人が混じっていた場合は」二号機の小隊長から通信。 11
2013-12-01 23:54:03「容赦なく制圧せよ」イフリートが目を細める。「イエッサー!」彼らはそれ以上の対話を必要としない。恐怖、慈悲、躊躇、人間性……セプクを回避したあの日以来、彼らは数々の枷を捨て去っている。その結果、現在の彼らの強引な作戦行動は、独善的暴走と狂信的忠誠のボーダーライン上にあった。 12
2013-12-02 00:03:53降下用ハッチが開く。眼下の丘陵地帯には、重金属耐性を獲得したバイオ松林が広がっている。この立入禁止区域は二十年先まで森林再生プロジェクト下にあり、観光バスは絶対にやって来ない。ニンジャが身を潜めるには絶好のエリアといえよう。その森の中の湖上に立つ小さな庵を、彼らは認めた。 13
2013-12-02 00:12:23「カメ小隊、降下作戦開始!ドーモ!」ヘリ2号機からパラシュートを背負った小隊が湖畔へと一斉に降下した。最新鋭のコンバットブーツが湿った砂利を踏みしだく。彼らは一糸乱れぬ統率力で隊列を整える。全員がアンタイニンジャ・アサルトライフルを装備している。 14
2013-12-02 00:28:12シュゴウン!シュゴウン!小型ジェットパックを背負った小隊長が最後に湖畔の白石を踏みしめた。フルフェイスヘルムで頭部を覆った隊員達が短い敬礼でそれを迎える。小隊長の外見は異様で、ガスマスクめいた特殊サイバーヘルムは、自らが持つ江戸時代の火消しめいたマトイとLAN直結している。 15
2013-12-02 00:34:24彼らの部隊は小隊長1名、隊員9名の10人編成。そしてそこに、大型のニンジャが1体随伴している。……そう、ニンジャである。ブゥゥゥゥーン……UNIX起動音が鳴り、頑強なコマンド・マトイの上部に備え付けられた「か」の文字が青く光り始めると、闇の中にニンジャの姿が浮かび上がった! 16
2013-12-02 00:47:16「ドーモ、アダマンタインです」首に巻いた制御デヴァイスを青く発光させながら、屈強なニンジャが小隊長にアイサツした。ニンジャがモータルに深々とオジギしたのだ。青い光がチリチリと彼のニューロンを刺す。彼は何十回もの電子的拷問の末に、このパブロフ・ドッグめいた礼儀作法を学んだ。 17
2013-12-02 00:57:28「ドーモ!頭を上げて良い!」小隊長がサーカスの猛獣使いめいて、ぴしゃりと命ずる。「ハ!久々に外の空気だぜ。……要するにだ、あの庵の中にいる双子のニンジャに、気絶するまでカラテを叩き込めばいいんだろ?」「そうだ」「アイ、アイ」アダマンタインは笑みを浮かべ拳をゴキゴキと鳴らす。 18
2013-12-02 01:06:28「……何だその返事は」小隊長が睨みつける。コマンド・マトイが回転を早める。するとニンジャの表情が凍り付き、脂汗を垂らして再度オジギした。まるでカエル・セラピーだ。「イ、イエッサー!」「それでよし!」小隊長は頷いた。彼の左胸には「禁」の漢字を象った奥ゆかしいエンブレムが輝く。 19
2013-12-02 01:12:22ナムサン!何故このニンジャは反逆しないのか?彼は叩き込まれている……ニューロンの速度より速く小隊長を殺そうとも、あるいはマトイを破壊しようとも、脳内に埋め込まれたIRC爆弾が起爆する事を。彼にもはや反逆の意志はない。自我を研修された、共和国に有益な“善良な”ニンジャなのだ。 20
2013-12-02 01:26:37ゼンめいた静寂。庵のフスマには、アナログボンボリの柔らかな灯りが内側から揺らめいている。それを無作法に踏みにじるように、湖畔に展開した各小隊が一斉に漢字サーチライトを照射!次の瞬間、庵へ架かる唯一の橋を確保したカメ小隊は、アダマンタインを先頭に、庵に向かって突撃を開始した! 21
2013-12-02 01:42:16ゼンめいた静寂。庵のフスマには、アナログボンボリの柔らかな灯りが内側から揺らめいている。それを無作法に踏みにじるように、湖畔に展開した各小隊が一斉に漢字サーチライトを照射!次の瞬間、庵へ架かる唯一の橋を確保したカメ小隊は、アダマンタインを先頭に、庵に向かって突撃を開始した! 21
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