山本七平botまとめ/【「表組織」と「裏組織」④】/なぜ日本的リーダーには「人望」が求められるのか?/~伝統的な「一揆型=ぶどうの房型」の組織をよく知り、これを「支配=掌握」するのが日本的リーダー~

山本七平著『1990年代の日本』/(3)日本的集団主義の論理/日本的リーダー/50頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

1】【日本的リーダー】では具体的にそれはどのような形で行われるか。 一口にいえば①闘争型と②世話人型(対話型)だが、戦国の最も優秀なリーダーは①闘争型であり同時に世話人型であった。<『1990年代の日本』

2013-12-11 09:08:56
山本七平bot @yamamoto7hei

2】まず①闘争型だが、これはぶどうの房を団結させる最も良い方法であり、小和田哲男氏はこれを戦国大名の戦争の理由の一つとされている。 企業にたとえれば過当競争であり、競争もしくは闘争による団結強化である。

2013-12-11 09:39:00
山本七平bot @yamamoto7hei

3】ドイツの友人が笑って私に言った。 「日本はドイツのカメラ市場は完全に押えた。 そこで協定して高く売るかと思ったら、日本の企業同士で猛烈な競争をしている。 日本人はよほど利潤をあげるのが嫌いらしい」と。

2013-12-11 10:08:58
山本七平bot @yamamoto7hei

4】だがぶどうの房型組織は競争を失えば意欲を失い、「一揆に於て談合を加え」て全員が動かなくなってしまうから競争はやめられない。 だがもちろん、これだけでは組織は動かない。

2013-12-11 10:39:06
山本七平bot @yamamoto7hei

5】謙信でも元就でも人望があり、一揆の成員がみな彼に心服していたから団結して闘争ができ、その闘争によってさらに団結が強化され、またその勝利による成果の分け前があるがゆえにあらゆる努力をおしまなかったはずである。

2013-12-11 11:08:57
山本七平bot @yamamoto7hei

6】従って心服を得る為の世話人としての能力も欠くことが出来ないが、その前提には腹蔵のない対話が必要である。 黒田家の「掟書」には、次のように記されていると、小和田哲男氏が記されている。…(掟書本文省略)…

2013-12-11 11:39:00
山本七平bot @yamamoto7hei

7】…今これを行えば「まことに民主的」という事になるかも知れないが、この行き方は別に民主主義とは関係はない。ちなみにこの席にはお互に何を言われても腹を立ててはならない、批判されても怨みに思ってはならない、その場で出た話は外部の者にしゃべってはならない、という三原則があったという。

2013-12-11 12:08:59
山本七平bot @yamamoto7hei

9】このことは、今も昔も変わりはないらしく、「今の若い者は外国人だ」などと言われるが、そう言われているものさえ、「仕事一本槍の課長がよいか、親身になって世話してくれる課長がよいか」となると、アンケートの結果は常に後者が圧倒的に多いのである。

2013-12-11 12:39:04
山本七平bot @yamamoto7hei

10】ただ、組織内に浪風が立たぬようにという形で、ひたすら世話人に徹しているリーダーはやはり組織の掌握はできない。 鈴木前首相はその典型だが、この目標なく競争なく闘争なきリーダーは組織を活性化できず、また統合することもできなくて当然である。

2013-12-11 13:08:58
山本七平bot @yamamoto7hei

11】一揆的集団は各人がその存立を依拠している共同体だが、同時に到達すべき目標を有する機能集団であるから、その方向づけが明確でないとばらばらになってしまうという面がある。

2013-12-11 13:39:02
山本七平bot @yamamoto7hei

12】日本的リーダーとは、表の西欧型組織の内実である伝統的な「一揆型=ぶどうの房型」の組織をよく知ってこれを「支配=掌握」するのが第一の要件である。

2013-12-11 14:08:59
山本七平bot @yamamoto7hei

13】そして①目標を示し、②目標に到る方法論を示しても、これの組織への浸透に前記の配慮を忘れず、さらにそれに対応するように組織の編成を行うときにも、この実態に基づいて行うことが必要であろう。 この点を無視すれば、そのリーダーは組織から浮き上がってしまう。

2013-12-11 14:39:01
山本七平bot @yamamoto7hei

14】そして部下は一揆だから、リーダーが一揆により排除される場合もあり得る。 その時、三越の岡田前社長のように「なぜだ」と言っても遅いわけだが、その「なぜだ」に答えるとすれば 「貴方は日本の伝統的組織を知らず、重役一揆のリーダーの資格に欠けるから」 という事になるであろう。

2013-12-11 15:08:56
山本七平bot @yamamoto7hei

15】彼を罷免したのが株主でなく、重役一揆であったことは象徴的である。 以上がリーダーに要請される条件だが、たとえ闘争型であろうと人望型であろうと、そのリーダーシップを可能にするのが「人望」である。

2013-12-11 15:38:58
山本七平bot @yamamoto7hei

16】人望がなければ…君臣へだてなく、という状態にはならず、従って人望なき人間は一揆のリーダーになることは不可能である。 何しろ欧米化した筈の現在の日本でも 「だめだな、出来るかも知れないけど、あの男には人望がないから」 と言われれば、それでおしまいなのである。

2013-12-11 16:08:59
山本七平bot @yamamoto7hei

17】こうなると、日本の「裏組織」を掌握するには「人望」なるものが必要となる。 では「人望の条件」は何か、 となると非常に複雑であり、これについて記せば、一冊の本になるであろう。

2013-12-11 16:39:08
山本七平bot @yamamoto7hei

18】…それを知る為のヒントとして朱子の『近思録』の言葉を取り上げよう。 この本は現在では忘れられているが、徳川時代にはインテリの必読書であり…いわばリーダー必読の書であったから、日本人の人物評価にこれが与えた影響は大きく、その評価の原則は今も変わっていないといえる。

2013-12-11 17:08:59
山本七平bot @yamamoto7hei

19】次にそのヒントだけを紹介しよう。『近思録』に「九徳最も好し」という言葉がある。…この九徳を解説つきで掲げると次のようになる。 ①寛にして栗〔りつ〕(寛大だがしまりがある) ②柔にして立(柔和だが事が処理できる) ③愿にして恭(まじめだがつっけんどんでなくうやうやしい)(続

2013-12-11 17:39:00
山本七平bot @yamamoto7hei

20】続>④乱にして敬(事を始める能力があるが慎み深い) ⑤擾〔じょう〕にして毅(おとなしいが内が強い) ⑥直にして温(正直・率直だが温和) ⑦簡にして廉〔れん〕(大まかだがしまりがある) ⑧剛にして塞(剛健だが内も充実) ⑨彊〔きょう〕にして義(強勇だが正しい)

2013-12-11 18:08:58
山本七平bot @yamamoto7hei

21】日本では、たとえある面では有能であっても、九徳がないと一撲のリーダーにはなれない。 九徳の内容はそれぞれ矛盾しており、これを如何に克服するかが「人望の条件」になるが、その細部は別の機会にゆずり、ここでは簡単に、この九徳が全部逆転していたらどうなるかを想像してみればよい。

2013-12-11 18:39:04
山本七平bot @yamamoto7hei

22】それは次のようになる筈である。 ①こせこせうるさいくせに、しまりがない ②とげとげしいくせに、事が処理できない ③不まじめなくせに尊大でつっけんどん ④何事も丸くおさめることができないくせに居丈高 ⑤粗暴なくせに気が弱い(続

2013-12-11 19:09:00
山本七平bot @yamamoto7hei

23】続>⑥率直にものを言わないので人あたりはよいが、内心では冷酷 ⑦あらゆることに干渉する癖に、全体がつかめない ⑧見たところ弱々しくて内もからっば ⑨臆病なくせに粗暴 こうなると「十八不徳」になってしまうが、こういう上役の下で働きたいと思う者はいないであろう。

2013-12-11 19:39:07
山本七平bot @yamamoto7hei

24】もっとも「十八不徳」は例外で、多くの人は「九徳」の半分はもっている。 いわば、 ①寛大は結構だがしまりがない ②柔和なのは有難いが事が処理できない ③まじめは結構だが、つっけんどんで近よりにくい、 ……といった形になるのが普通である。

2013-12-11 20:09:00
山本七平bot @yamamoto7hei

25】そして日本人の代表的リーダーを見ると「九徳」の矛盾を克服してこれを身につけている人が多い。 それだからリーダーになれたということであろう。

2013-12-11 20:39:14
山本七平bot @yamamoto7hei

26】これだけではないが、こういった人物評価の基準は現在でもほとんど変わっていないのである。 このことは、日本における「裏組織」の把握の仕方が、今も変わっていないことを示すであろう。

2013-12-11 21:09:09