茨の魔法使いと樹海の守り人

診断メーカーの「進撃せよ!~まいにち調査兵団~」(http://shindanmaker.com/352448)から派生した物語。 茨の魔法使い・三部作の最後のお話。 本編である「日刊調査兵団」とは似て非なる物語。 続きを読む
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お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 銀の月が輝く冬の夜。枕元に燭台が置かれると、ベッドで眠っていた青年は目を覚まし、大きな手を差し延べた。その手に小さな手を預けて、少女はベッドに腰掛けた。そして、語り始めた。「むかぁし昔のお話でした。あるところに双子の兄妹がおりました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-03 23:49:20
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 兄は『茨の魔法使い』、妹は『茨の魔女』と呼ばれていました。彼らは茨に覆われていました。しかし、兄の姿を見た者はいません。兄は肉体を捨てて茨に宿り、愛する妹を護っていたからです。二人は母親の故郷である『常春の妖精郷』を目指していました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-04 00:25:34
お菊 @sara_yashiki

@tos 兄妹は安住の地を求めていました。二人の父親は冷酷な王様で、母親は優雅な妖精でした。両親は深く愛し合っていましたが、息子たちを愛してはいませんでした。兄は両親を城から追放し、与えられなかった愛情を補うように、妹ただ一人を強く愛したのでした。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-20 09:39:18
お菊 @sara_yashiki

@tos ある時、二人は深い森の中を彷徨っていました。そこは静かな森でした。突然、パァンと大きな音が響きました。魔法使いは妹を護るために、慌てて茨で鎧を作りました。それは鉄砲の音でした。鎧の胸に弾が食い込み、魔女はその衝撃で気を失ってしまいました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-19 11:56:34
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 魔法使いは心臓の音を聞き、妹の無事を知って安心しました。そして、強い怒りを覚えました。もし魔法使いがいなければ、魔女は胸を貫かれて死んでいたでしょう。魔法使いは誓いました。犯人を見つけたら、八つ裂きにして惨たらしく殺してやろう、と。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-04 01:58:29
お菊 @sara_yashiki

@tos 耳を澄ますと、足音が聞こえました。足音は近づいてきます。魔法使いは妹をそっと茨で包み、足音の主が来るのを待ちました。すると、鉄砲を担いだ青年が現れました。魔法使いは青年を捕えようと、茨を伸ばしました。しかし、捕えることはできませんでした。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-19 11:57:30
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 何故なら、青年の顔は人間であった頃の魔法使いにそっくりだったからです。魔法使いは怒りを忘れて、青年の姿を夢中で眺めていました。青年は倒れている魔女に歩み寄ると、外套を脱いで茨に覆われた魔女を包んで抱え上げ、自分の家へ連れて帰りました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-04 10:11:03
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 青年は家に着くと、魔女をベッドに横たわらせました。魔法使いは青年の様子をジッと見ていました。青年が魔女の服の裾をめくったり、袖をまくったりしたので、魔法使いは恥ずかしくなりました。魔女の脚も腕も、体中が引っかき傷だらけだったのです。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-06 20:12:18
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 青年はナイフを取り出して、魔女に纏わりつく茨を切り裂こうとしました。魔法使いは声を出さずにせせら笑いました。そんな小さなナイフでは、茨に…魔法使いに傷をつけることすらできないからです。青年が茨に刃を当てると、魔女は目覚めて叫びました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-06 22:15:15
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 魔女は青年の手からナイフを奪い取ると、切っ先を青年に向けました。魔女は言いました。「私たちを引き裂かないで」と。そして、青年に「あなたは誰?」と聞きました。青年が「俺は『樹海の守り人』だ」と答えると、魔女は再び気を失ってしまいました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-06 23:15:28
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 魔法使いは、その原因を知っていました。彼の妹は『茨の魔女』になった日から、食べることをやめてしまったのです。魔法使いが力を分け与えていても、魔女の身体は日に日に弱っていきました。手足は枯木のようにやせ細り、体は羽のように軽いのでした。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-07 00:33:52
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 青年が魔女をベッドに寝かせたので、魔法使いは妹の体に寄り添い、物思いに耽りました。妹が他人に自ら話し掛けたのは、これが初めてのことだったのです。魔法使いは青年の背中を眺めながら、妹に与えられた毒薬を飲んだことを、初めて後悔しました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-07 00:49:43
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 魔女が目を覚ますと、青年は枕元にシチューを運んできました。青年は魔女にスプーンを渡そうとしましたが、受け取ってくれません。スプーンにすくって口元に運んでも、口を開けてくれません。魔女は食べ物のにおいを嫌がり、胃液を吐いてしまいました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-07 09:58:14
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 青年はシチューを食べさせることを諦め、代わりに林檎を持ってきました。青年は林檎をかじってかみ砕き、親鳥がするように、魔女に口移しで食べさせました。最初は口に入れてもほとんど吐いてしまいましたが、魔女は徐々に飲み込めるようになりました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-07 10:17:44
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 青年の体は魔女の食事を手伝う度に茨の刺で傷つき、魔法使いの心はその様子を見る度に傷つきました。魔女は食べることを思いだし、八回目の朝がくる頃には、一人で食事ができるようになりました。今朝はシチューを平らげ、青年の狩りに付き合いました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-07 23:18:52
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 初めは鉄砲の音に驚いていた魔女も、今では怖がらなくなりました。魔女は青年に、木陰に鹿がいると教えました。すると、青年は言いました。「この鉄砲が撃つべき相手を教えてくれる。それに従わなければならない。それが守り人の掟。あの鹿は違う」と。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-08 11:51:44
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 青年の姿を見ていると、魔女は懐かしい気持ちになりました。魔女は魔法使いにそっと尋ねました。青年と以前どこかで会ったことがあるだろうか、と。魔法使いは答えません。魔女は魔法使いがヤキモチを妬いているのだと思い、深く考えるのをやめました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-08 18:20:22
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl しかし、魔女は夕食の時に思い出しました。青年の顔は、まだ人間であった頃の魔法使いとよく似ていたのです。そして、魔女は気づきました。いつの間にか、愛する兄の姿をうまく思い出せなくなっていたのです。魔女の心は不安でいっぱいになりました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-08 18:37:57
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 月は傾き、森に住まう生命たちは、木々に守られて夢を見ていました。青年がふと目を覚ますと、ロウソクの炎がゆらりゆらりと揺れていました。赤い炎に照らされて、薄暗い部屋の中で白いものが浮かび上がって見えました。それは魔女の小さな背中でした。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-09 00:55:32
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 魔女は青年が眠る長椅子に背を向け、ベッドの上に座っていました。青年が耳を澄ますと、魔女の囁く声が聞こえました。「もっと強く抱きしめて。私を離さないで」青年が目を凝らして見ていると、魔女の背中に茨が絡みつき、白い肌を赤い血で汚しました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-09 01:38:15
お菊 @sara_yashiki

@tos 魔女の吐息は快楽と苦痛に震えていました。茨の愛撫が魔女の体に傷を刻む度に、魔女は愛の言葉を囁きました。青年はその光景から目を背向けて耳を塞ぎ、悪夢が去るのを待ちました。やがて、森の静寂が部屋の中に流れ込み、安らかな寝息が聞こえてきました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-20 09:32:37
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 青年は起き上がり、ベッドに近づきました。魔女は裸の肩を毛布から出して、すやすやと眠っています。肩や首筋の傷口からは血がにじみ出ていました。青年は右手にナイフを握りしめ、魔女を見下ろしていました。すると、少年の声が語りかけてきました。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-09 02:31:48
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「さぁ、遠慮なくやり給え。僕は抵抗しない」青年は驚きました。魔女の茨には、一輪のすみれ色の薔薇が咲いていました。薔薇は歌うように言いました。「君の想像通り、彼女は魔女じゃない。呪われているのは『茨の魔法使い』である、僕一人だけ」と。 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-09 02:49:37
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 青年はナイフを床に置いて言いました。「お前もこいつの一部だ。傷付けるなんてできない」と。薔薇は青年に尋ねました。「君は彼女のことが好き?」青年が頷くと、薔薇は揺れました。「彼女のことが好きなら、彼女の一部である僕も好きってことかな?」 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-09 03:15:42
お菊 @sara_yashiki

@tos 青年は黙り込み、少年の声はケラケラと笑いました。「君が撃ったのは僕だね?僕を見逃せば、掟に背くことになる。君は断罪されるの?」薔薇の問いかけに、青年は答えました。「『樹海の主』が俺を飲み込む」薔薇は呟きました。「僕らのために死ぬつもり?」 #樹海の守り人 #日刊調査兵団

2013-12-13 00:29:19