モーサイダー!~Motorcycle Diary~ 外伝 恋する少年のクリスマス~
- IngaSakimori
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『モーサイダー!~Motorcycle Diary~ 外伝-恋する少年のクリスマス-』 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:51:38時は師走。 期末テストも終わり、早朝の手すりに霜がおりていることも珍しくない、そんな冬のはじまり。 都立南田磨校の屋上に、二つの影があった。 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:51:45「急に呼び出して、いったい何の用だ?」 「お、お兄さん。あの……お願いがあるんですっ」 夕暮れを通りこし、黄昏に至ろうとしている空を気にしながら、三鳥栖志智(みとす しち)は眼前に立つ、やたらと真剣な表情の少年を見た。 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:51:55姓は日原院(にっぱらいん)。名はティック。 なんでも時計が針を刻む『Tick』から取ったというその名前は、世間に名高いキラキラなんとかでもなければ、意味不明な当て字でもない。 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:52:02(正真正銘のハーフだからな……) きらきら輝く金髪と、左が青、右が黒のオッドアイは見るからに日本人からかけ離れた色合いである。 せいぜい、年齢に比してやたらと幼くみえる顔立ちくらいは、日本人らしいと言える要素かもしれない。 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:52:10「お願い、ね」 「はいっ。 そのっ……あ、あの、ち、ちちち、千歳ちゃんにっ! クリスマスプレゼントをあげたいんです!!」 「………………ほう」 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:52:23「そ、それで、ですね━━って、ちょっと待ってください! まだ話の途中なんですけど! なんで指をバキバキ鳴らしているんですか!?」 「ん? なんだ? 今の発言は殺してくれっていう意味じゃないのか?」 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:52:40「どう解釈したら、そんなふうになるんですかっ! わわわっ……と、とりあえず、その手っ……拳、なんとかしてくださいよっ!」 「ちっ」 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:52:49大音響に怯えるハムスターのようにフェンスへしがみつくティックを見ると、志智はしぶしぶといった表情で、きつく握りしめた拳を開いた。 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:52:57「言っておくが、この平手でもお前の口と鼻をおさえれば、窒息死させられるんだからな」 「ぶ、物騒ですね……」 「で、なんだ。千歳のやつにクリスマスプレゼント? そういえば、そんな季節だよな。けど、どうして俺に話を持ってくるんだ?」 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:53:09「それはえっと、あのう……そのう……や、やっぱりお義兄さんは千歳ちゃんの━━」 「ほーほーほー。そんなに死にたいか」 「あ! い、いえいえっ!」 志智がぐるぐると腕を回し始めると、ティックは慌てて首を振った。 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:53:21「すいません、間違えました! お兄さん! 千歳ちゃんのお兄さんですからっ! そ、そのっ、僕としては事前に許可をいただいた方がいいかなあと思っ……ちょ、ちょちょちょ! やめてください何でもしますからひいいいいいー!!」 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:53:34「なるほど、言いたいことはよくわかった」 そう言いながら、志智はティックの喉笛を締め上げる寸前だった両手をゆっくりと引っ込める。 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:53:42「なかなか殊勝な心がけだ」 「あ、ありがとうございます」 「だが……だ。 一見そんなふうに見せかけて、お前が小癪にも外堀を埋めてるつもりなんじゃないかと、考えたりもするが」 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:54:56「そ、そんなことないですよ、あは……あはははは……」 「……どうだか」 真夏のように汗をかいているティックを一瞥すると、志智は肩をすくめてみせる。 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:55:04「まあ、別にいいんじゃないか。 お前がいかがわしい気持ちで千歳をどこかへ連れ出したりするならともかく、プレゼントの一つくらい、好きにしたらいいだろ」 「ほ、本当ですかっ!?」 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:55:17「………………ああ、そうだ」 まるで結婚でも許してもらったように、目をきらきらと輝かせるティックから、仏頂面で顔をそむけながら、志智は思う。 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:55:24(こいつが惚れてる相手が、どこかの知らない女なら、わだかまりもないんだけどな……) どうして千歳なのだ。どうして自分の妹なのだ。 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:55:39(しかも、一目惚れとか……な) 単にアメリカ帰りで、日本の女子高生に免疫がなかっただけではないだろうか。 今でも志智は、ティックが転校してきてから、数日くらい千歳が風邪で休んでいたなら、結果は変わっていたのではないかと思っている。 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:55:47「あ、ありがとうございます! うわ~、やったあ~! 僕、絶対ダメだって言われると思ってました!」 「いくら何でもそんなことを言うわけないだろう。 恋愛なんて……人の勝手だからな」 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:55:55「そ、そうですよね! もっ、もし僕と千歳ちゃんがっ……こ、恋人になったとしても……そうですよね!?」 「いや、それは許さん。 殺す」 「そ、そんなあ……」 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:56:09期待をこめて訊ねた少年の問いかけを、とりつく島もなく粉砕しつつ。 (まさか……いや、そんなことがあるはずは……ないよ、な……) 志智の胸には、どうしても抑えきれないざわめきが生まれていたのだった。 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:56:16翌日のこと。 「━━というわけで、いちばん重要なお義兄さんの許可はもらうことができたんだ」 「なるほど、それは良かったですね」 都立南田磨校高等部の図書室。 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:56:41期末テスト前は勉強にはげむ学生たちで賑わっていたこの場所も、すでに閑散として現代ではSレア属性の読書好きがぽつぽつと姿をみせる程度。 そんな図書室の一角で、日原院ティックは一人の眼鏡女子と向きあっていた。 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:56:53