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通学路に楽しみを見つけた瞬間。

東北のとある路線で「私」こと サイと が出会った楽しいものをまとめました。「キノの旅」のあとがきがまさかこんな利用方法があるとは思いもしませんでした。改めて作者に感謝。
キノの旅 小説 出会い 電車
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サイと@物書きVtuber @sait3110c
帰りの電車の中、つり革につかまる人はまばらにおり、そのうちの一人が私だった。ちょうど私は自動ドアの付近におり、この後、電車が大きく揺れるポイントを通過することを見越し、強めにつり革を握る。揺れが来た。そして、私の足元に一冊の文庫本が転がってきた。
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文庫本の布製のカバーがめくれ、私の最近読んだ作品「キノの旅」の表紙絵が見えると、思わず作品名をこぼしてしまう。ハッとして周りを見回すと、小柄な女子高生が強い揺れに耐えきれず、よろけているのが確認できた。同時に彼女は私の呟きにも気付いたのか少しだけ恥ずかしそうにしていた。
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私は文庫本を手に取り彼女に渡す。今日の私は久々に会った友人と歓談を楽しんだ帰りで、いささか気持ちが高ぶっていたのだろう。気付くと私の口から彼女に作品名を伝える意思を持った言葉が漏れ出していた。彼女は戸惑いつつもおずおずと言った感じに作品名を繰り返す。
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高校から男子校に入学し、女子高生に縁も縁もない生活を送ってきた私は自分の行動に背汗の思いに意気消沈しつつ冷静になり始めていた。幸か不幸か冷静になったおかげで余計な一言を口走らずに済んだが、自分から話し掛けた相手と微妙な間合いで視線のみの攻防戦を繰り広げることとなる。
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と、思われたが、意外にも彼女から話しかけてきてくれた。
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「キノの旅、知ってますか」語尾は上がらないままだったが私に尋ねたことは明白だ。返事としては相応しくないだろうが、はい、とだけ答える。しかし、それが私の硬直した唇を動かすきっかけとなり、彼女にキノの旅の何巻を読んでいたのか聞くことができた。
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彼女の答えはつい先日読んだばかりの最新刊だった。ちょうどあとがきを読み終えて、本をバッグに戻そうとしていたらしい。ただし、最新刊は布製のカバーがあっては最後のあとがきを読むことすら、見つけることが出来ない変化球を付けたあとがきだった。つまり、カバー裏にあとがきがあるのだ。
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そのユーモアなカバー裏のあとがきの存在を彼女に教えると、彼女は驚きの言葉を口にして手にしていた文庫本の表紙絵が他の乗客に見えないように隠しながら布製のカバーを外し、カバー裏のこのシリーズのファンなら笑うであろうあとがきを私たちは笑いながら読み終えた。
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お互いが共通のもので笑い合っている事実を私が気付くと同じくらいに彼女も気付いたらしく、私たちの間には同士とか仲間とかそういう意識が生まれた。意識した後は、最近読んだ本について話し合い、どちらも電撃文庫をよく読むことが分かり、壁井ユカコ氏や有川浩氏が好きだとも分かった。
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それから短い時間が過ぎ、私の降りる駅の二つ前の駅で彼女は降りるらしい。もうその駅はすぐそこで、電車が減速を始めると私たちの会話も少しずつ一言一言を大切にするようになり、話の勢いを失っていく。携帯で赤外線を送るには時間が足りなかった。
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言葉少なになる中で、私は気の利いたセリフも言えず、住んでる場所や通学している学校名、今さらとツッコミつつ彼女が私の一つ下の学年であったことが分かった。そうしているうちに電車はホームに滑り込み、東北特有のボタン式ドアが私の指で開かれた。外の冷気が私の背筋を這っていく。
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彼女に気の利いた言葉を掛けることができず、彼女も掛ける言葉が見当たらないようで、ホームと電車のステップに迷いある視線を向けた。もうすぐドアが閉まる合図を駅員が鳴らす。存外大きな音に驚いて私はやはり口を滑らし、じゃあまた、と告げた。彼女も、はい、と返事した。
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閉まる時は自動のドアが彼女の姿をガラス越しにさせると、まもなく電車は私の住む町へと進み始める。その間、私は思い掛けないラノベ談義が楽しかったと反芻して、彼女の名前を聞きそびれたことに考え着いた。いささか後悔をしたものの、また会える気がして楽しみが増えたと思える。
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また会える可能性。そんな楽しみを通学路に見つけました。

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