「天使に翼はない」のニュースについて

連投セルフまとめ。
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森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

「「天使に翼はない」、カトリック天使学者の見解」--お外で必死こいてお仕事していたら、海法の人 .@nk12 からこんなニュースのURLが送られてきました。http://t.co/6KOrFlbwDp

2013-12-24 02:50:15
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

大本の発言を見ないと、どういうニュアンスなのか今ひとつわかりませんが、別段ビックリするような発表でもなくローマ・カトリックでは、大昔から天使についてはそんな感じの見解です。(むしろ、「クリスタル製の花瓶で屈折した太陽光に少し似ている」みたいな具体的な形容が出てきたことがびっくり)

2013-12-24 02:52:30
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

というわけで、つい先程お仕事が一段落して帰宅しましたので、息抜きに天使の翼がらみのお話など。まず、旧約聖書の中に、天使の翼についての記述は全く存在しません。

2013-12-24 02:53:31
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

え、「イザヤ書」のセラフィムと「エゼキエル書」のケルビムは?!という驚きの声があがりそうですが、少なくとも執筆当時、あれらは別に天使(御使い)ではなく、神に仕える聖獣かなんかだったというのが聖書学者のお話です。

2013-12-24 02:55:55
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

もっとも、紀元前2世紀頃から増殖し始めた偽典外典の類で翼を持つ天使がぽろぽろ出てきはじめまして、偽ディオニシウス・アレオパギタ(実際には五世紀頃のシリアの学者の変名)の『天上位階論』でセラフ、ケラブが天使の上位位階とかされるわけですが、まあ要するに政治文書です。

2013-12-24 02:58:04
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

@alkali_acid 745年の教会会議で聖書に出ていない天使たちにNGを食らわせて以来、基本、カトリックではミカエル、ガブリエル、ラファエル(聖書外伝「トビト記」)以外の天使を同格扱いにしてますね。カテキズムでも、うまくぼかしつつこの三天使をちょっと持ち上げてるくらい。

2013-12-24 03:57:07
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

イスラエル王国を脅かした新アッシリアやバビロニアの神々の影響があり、ケルビムやセラフィムのような有翼の存在が天使(御使い)と同一視されるようになったと言われていますね。ただし、これはユダヤ教のお話であって、ローマで花開いたキリスト教会の伝統とは断絶している感じです。

2013-12-24 03:00:47
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

何しろ、キリスト教絵画において、翼を持った天使の姿が最初に出現したのは4世紀以降と言われているわけです。(このあたり現在も思い出したように調査中ですが、ひょっとすると2世紀あたりに遡れるかも知れません……どちらにせも時期的空白があります)

2013-12-24 03:02:05
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

天使の体については、4~5世紀のラテン教父アウレリウス・アウグスティヌスが天使は物理的な肉体を持たない、精神的な存在だと言っておりまして、ローマ・カトリック教会の神学では概ねこのような扱いです。

2013-12-24 03:04:11
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

ちなみに、アウグスティヌスは「創世記」で神の子(ユダヤ教では天使扱い)が地上に降りて、人間の女との間に子供をもうけたという記述もガンとして認めず、あんなものは空中を漂っているデーモンなのだと断言しております。

2013-12-24 03:04:58
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

ちなみに、スコラ哲学を大成した一三世紀のトマス・アクィナスも、『神学大全』の中で天使の体は人間の魂同様に質量を持たず、神を愛している限りは不変であると書いています。カトリック文献だと概ねこんな具合で、翼がどうこうについて論じたものはあまり見かけません。

2013-12-24 03:07:14
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

それはそれとして、中世末期から近世にかけて、ラテン語聖書を読めない庶民のために日曜祝日に開催された神秘劇では、普通に翼を持った天使が出てきます。先のニュースでも触れられていますが、「一般的に広まった天使のイメージ」は布教の上でうまいこと使われてきたわけですね。

2013-12-24 03:08:34
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

閑話休題。キリスト教の天使が翼つきで描かれるようになったのは、ギリシャ、ローマの有翼神の影響と言われています。具体的にはニケであるとか、エロートとかですね。ポンペイの壁に描かれたエロートの姿などは、ヨーロッパの天使画そのまんまです。(ポンペイが埋まったのは一世紀)

2013-12-24 03:12:20
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

ちなみに、さっきエロートと言ったのはエロースではあなく、その複数形です。こういうのがいるのですよ。 http://t.co/YyQz4P5eZ4

2013-12-24 03:19:57
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

数年前に盛んに開かれたポンペイ関係の展覧会でやたら見かけられた有翼神の群れがこのエロートです。これも日本語文献にあまり出てこないので、調べるのがたいそう面倒であった思い出。

2013-12-24 03:20:53
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

ポンペイのフレスコ画の一例。構図的にも思い切り……です。 http://t.co/MQUTiHTUAy

2013-12-24 03:23:58
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

ちなみに、ローマの有翼神画については、昔こんな記事をはてな日記に投下しました。 http://t.co/kTdrXQm9aa

2013-12-24 03:14:00
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

ちなみに、天使の輪っか、といいますか光背も4世紀以降の絵画に出現するものでして、こちらはヘリオスやミスラといった太陽神と、これをモチーフにしたローマ皇帝の肖像の影響らしいです。以前、天使本書く時にさんざん調べたのだけど、関連書にほとんど出てこないのがこの光背で、苦労しました……。

2013-12-24 03:18:45
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

何も、魔術書だのグノーシス文献だのを毎日のように読みあさっているこの時期にこんなニュースが流れんでも……。(この人の頭の中に「クリスマス」の文字はない)

2013-12-24 04:08:32
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

偽ディオニシウス・アレオパギタの『天上位階論』は、聖書を解読したら天上の階級がわかったぜ! というお話。日本語訳も出てます。セバスチャン・ミカエリスの悪魔の階級は、悪魔憑きの修道女から聞き出したというお話。「だって聞いたんだもん」はちょっとずるい。

2013-12-24 04:18:25
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

『ソロモンの小さき鍵』とかに全然外見が出てないグシオンについて、アレイスター・クロウリーが「奇妙な青い頭の生物」と説明してるのも、「呼び出したらそうだったから」というおいこらな話である。

2013-12-24 04:19:52
森瀬 繚@翻訳クラファン開催中(固定ポスト参照) @Molice

ベリアルの軍勢についても『小さき鍵』』には80と書かれているのだけど、「1898年に見た時は50しかいなかったよ」とかクロウリーが言ってる。ずるい。

2013-12-24 04:20:35