SecretLover3【R-18】

secretloverシリーズその3(・ε・) 【1】⇒http://togetter.com/li/605940 【2】⇒http://togetter.com/li/605940 ※なお、【1】・【2】については改訂版がHPに置いてあります。※
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橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

1)緊張で震える手をぎゅっと握り締めた。 街には年越しに備えてと行き交う人でごった返している。 こんな日に、しかも真っ昼間のこんな時間から、私は何をしているんだろうと覚悟がその首をもたげそうになるが無理矢理押し込んだ。 こんな事、理性が残っていたら到底出来やしない。

2013-12-26 13:16:08
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

2)今日は理性も常識も忘れると決めたのだ、必要なのは覚悟だけでいい。 待ち合わせ時間に間に合うように美容院で髪を巻いてもらった。 一時の夢を見る為に、これからの自分の為に。 心臓がばくばくと鳴り響く音を聞きながら小さく深呼吸を繰り返す。 顔をあげて、道行く人の姿を見つめた。

2013-12-26 13:19:33
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

3)それらしい人はまだ見当たらない。 もう一度、深く息を吐き出して吸い込もうとした瞬間、肩にポンっと何かが置かれた。 「ひゃああ!」 「…っ…ごめんごめん、驚かせた?」 「…え…」 涙目になりながら聞こえた声に振り返ると、そこにはラフなのにお洒落な格好をした、男の人が立っていた。

2013-12-26 13:29:52
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

4)「えーっと、…桃ちゃん、でいいんだよね?」 「…ぁ…っは、はい…!」 自分の名前を正確に呼ばれた事で、漸くその人が誰だかわかった。 慌てて頭を下げて、そろっと失礼にならない程度の視線を彼に向ける。 黒い細身のジーンズがその足の長さを際立たさていて、足元もなんだか高そうな靴。

2013-12-26 13:47:05
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

5)ふわふわのファーがついたコートの下に白いシャツが見える。その上に黒いセーターも。 すべてが洗練されているように見えて、ほっと笑ったその笑顔が物凄く可愛い人だった。 「―――初めまして、[SecretLover]の颯人です」 握手の為に繋いだ自分の手が、酷く震えていた。

2013-12-26 14:03:05
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

6)「さて、じゃ、場所移動しようか」 「…え?」 「ここじゃ人多すぎるし。自己紹介は落ち着いたらちゃんとするからちょっと待って」 「え、あ、…は、はい…」 ぎゅっと握られた手があっさり離れて、その人はスタスタと歩いて行ってしまう。 あれ、笑顔は可愛いと思ったんだけど。

2013-12-26 14:07:47
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

7)少しぶっきらぼうにも感じるその話し方に一抹の不安を覚えて、だけど今ここでおいていかれる訳にもいかず、慌てて彼の後を追う。 彼が足を踏み入れたのはカラオケボックスで、思わず首を傾げた。 「…あの…?」 「色々説明しないといけないからでも他人に聞かれたい話じゃないだろ」 「…あ」

2013-12-26 14:16:03
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

8)「昼間から居酒屋行くのもあれだし」 これは、私を気遣ってくれてるんだろうか、もしかしなくとも。 嬉しいような、どうにも不安が拭えないようなそんな複雑な気持ちのまま受付を済ませて部屋の番号が書かれたカードを受け取ると、彼がそのカードを覗き込んできて思わず顔を引いてしまう。

2013-12-26 14:21:49
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

9)まずい、気を悪くしちゃったかも、そう頭を過ぎったが、彼は気にした様子もなくスタスタと軽やかな足取りでエレベーターの方へ足を向けた。 慌ててその後ろ姿を追いかけて、乗り込んだエレベーターの中は驚く程静かだ。 意を決して話しかけようと顔をあげても彼の醸し出す空気に心が折れた。

2013-12-26 14:25:24
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

10)部屋について、ドアを開けてくれたその人の前を恐る恐る通る。 奥のソファに腰を下ろしてドアの閉まる音が聞こえた瞬間、自分が蛇に睨まれた蛙になったような気がした。 まずはと飲み物を頼んで、店員さんが運んで来てくれたそれに口をつけてほっと小さく息を吐く。 部屋には沈黙が落ちた。

2013-12-26 14:53:35
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

11)彼は頼んでいたコーラに口をつけたまま、視線を天井に投げている。 これは、自分から話しかけてもいいものなんだろうか。 っていうか、出張ホストって、ホストってもっとこう、色んな意味で優しいものなんじゃないんだろうか。 色々な疑問が頭をよぎって、だらだらと冷や汗が流れ落ちている。

2013-12-27 01:15:15
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

12)「…ごめんな、俺で」 「……は?」 聞こえた言葉に反射で顔をあげた。 だが、彼が口にしたその言葉の意味がよくわからない。 首をかしげていると、その人は気まずそうに視線を逸らした。 「…なんでもない。先にシステムとかの説明してもいい?」 「…あっ!は、はい…っ」

2013-12-27 01:17:21
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

13)漸く話が始まるのか、その期待が一気に膨らんだ胸を抑えながら姿勢を正す。 彼も同じように椅子に座り直して、口を開いた。 「料金は前払い制。オプションつけたかったらつけてもいい。ただしモノによっては追加料金が発生するから」 「はい…っ」 「延長も平気。俺この後空いてるし」

2013-12-27 01:19:45
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

14)「…延長、ですか…」 「…ま、それは気が向けば。終了の30分前には声かけるから、その時延長したかったら言って」 「あ、はい」 彼の説明は淡々としていて、だが逆にムダがない分わかりやすい。 必死で頭に記憶しながらふんふん頷いて、聞いていると、彼の言葉に少しの間が空いた。

2013-12-27 01:21:26
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

15)「……?」 「…まぁ、これも、わかってるとは思うけど。本番行為は絶対厳禁。俺から迫ることもないし、逆に桃ちゃんから頼まれても絶対できない。それだけは覚えといて」 「…あ…はい、わかりました」 本番行為、それが所謂挿入の事だと知ったのは依頼するかどうか迷っていた時だ 。

2013-12-27 01:24:04
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

16)確かに、私はそれを望んでいたし、出来ることならその行為をしてくれるところがあればと思っていて、実際、調べた中にはそれをしてくれると謳っているところもあった。 けどそれらのどのお店より何より、SecretLoverに依頼したのはHPが清潔で、胡散臭さなど微塵もなかったからだ。

2013-12-27 01:26:41
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

17)本番行為は犯罪になる、法律違反になると赤字で記載してあってそれが尚更背を押した。 知らないうちに犯罪を犯そうとしていた自分にも焦ったが事前に知ることができて助かったのが事実だ。 その最重要項目をきちんと目に付く場所に書いてあったお店のHPに好感を持つなというのに無理がある。

2013-12-27 01:30:27
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

18)そのHPに心を惹かれて、例えそういう行為ができなくてもいい、この人達に頼みたい、そう思ったから、あのボタンを押したのだ。 指名料はかかるが、出来るなら少しでも自分の好みの人をと、優しそうな顔立ちをした選んだその人は、思いのほかぶっきらぼうで、空気が鋭いのだけが誤算だったが。

2013-12-27 01:33:15
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

19)私が頷くのを彼が確認してから小さく息をついている。 駄々を捏ねると心配でもされていたんだろうかと首を傾げたが、彼は私に構わず話を続けた。 「じゃあ…一応。俺の源氏名は[颯人]。歳は今年で30になったばっかり。趣味は…買い物とか。昼間は普通に会社員してる」 「…へえ…」

2013-12-27 01:40:18
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

20)「…あと…ちょっと人見知り」 「えっ」 「……だから、今もちょっと緊張してる。慣れればなんて事ないけど。だから、気を悪くしてたら[ごめん]」 再び謝られて、先ほどの「俺でごめん」の意味が漸くわかった。申し訳ない、そう思ってくれていたんだ。 その気遣いがなんだかむず痒い。

2013-12-27 01:42:34
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

21)頬を赤くして視線を逸らしたその人の表情に、自然と笑みが浮かんだ。 「……よく、この副業?しようと思いましたね」 「…先輩が、紹介してくれたんだ。 人見知り治すのもちょうどいい機会かと思って」 「ふぅん…」 確かにこれは対人が主で、それが重要な仕事だろうとは思う。

2013-12-27 01:44:50
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

22)けれど、よくもまぁ、こんな調子で今まで続けられていたものだとも思った。 自分が女だから、依頼した側だから言えることだけど、そういう趣味の人でない限りもう優しくしてほしいと望むんじゃないだろうか。 くすくすと笑い始めた私に、彼がバツの悪そうな顔をしてから、諦めたように笑った。

2013-12-27 01:46:43
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

23)「…だから、今だったら断ってもらってもいいよ」 「え?」 「元々最初の30分は、女の子が俺達に頼むかどうか、説明聞いて判断する時間なんだ。キャンセルするなら5千円だけ払ってそのまま帰ってくれていい。もちろんここの金も払わなくて平気」 「…あ」 そういうシステムなのか。

2013-12-27 01:48:34
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

24)だから彼は、未だに私に前払い分を払えと言わないのだと気がついた。 提示された選択肢に一瞬迷って、だが今ここで断ったら何の為に申し込んだのかわからなくなってしまう。 それに、彼はそんなに悪い人ではなさそうだ。 こちらを伺う視線の中に、どこか寂しげな色を見つけて、苦笑した。

2013-12-27 01:51:16
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

25)「……キャンセルは、しないです」 「うん?」 「このまま颯人さんにお願いしたいです。いいですか」 笑顔でそう答えると、彼の表情が一瞬嬉しそうに綻んで、だがすぐに、生真面目な表情に戻る。 だが、一瞬見えたその笑みに、私の心臓が大げさなほど反応した。

2013-12-27 01:53:39
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