全てがトロになる ②
「不知火さん、木曾さん、収容しました!」「よし、機関第一戦速!手当ては頼むぞ!」『ゴボーッ!』巡洋艦『蔵王』はマグロ部隊の襲撃から立ち直り、艦娘たちを収容。弾薬の補給と手当てをを行っていた。だが自分たちの身に何が起こっているのか、未だに誰も把握できていない。1
2014-01-02 21:03:30「赤城さんは返事したか!?」「いえ……」一番訳が分からないのは、豹変した赤城である。頭痛を訴え待機していた赤城だったが、突然邪悪な笑みを浮かべたかと思うと、艤装を身に纏い出撃。アルバコアとニンジャの戦いに割り込んでいったのだ。通信には全く応答しない。2
2014-01-02 21:07:02「マグロ共は?」「多くは、あちらに向かったみたいですが……カノンマグロ1接近!」「マグ……羽黒、頼むぞ!」「ご、ご期待下さい!」羽黒がマグロ包丁を持って飛び出す。一部の敵は、まだこの船を狙っている。ニンジャたちの応援にはいけない。3
2014-01-02 21:10:38「あっ!アルバコア、潜水しました!」アルバコアの姿が海面から消えた。赤城とニンジャは……潜水艦に攻撃する術を持たない。そこにマグロと深海棲艦が殺到する。数の優位で押し潰すつもりだろう。このままではジリー・プアー(訳:徐々に不利)だ!4
2014-01-02 21:14:26「くそっ、考えやがる!」対潜装備を持つ艦娘は限られている。木曾が大破した今、潜水艦を攻撃できるのは不知火のみ。だが一隻の駆逐艦による爆雷の効果などたかが知れている。潜水艦を倒すには、敵の位置がわからない限り、単横陣によるローラー攻撃をするしかないのだ。5
2014-01-02 21:18:01「せめてソナーがあれば……」提督は『蔵王』の甲板を見る。様々なレーダーが並ぶが、水中ではどれも物の役に立たない。眼下に転がる二足歩行マグロパワードスーツの残骸が、提督をあざ笑うかのように輝いていた。6
2014-01-02 21:21:48「……ヤー……ワー……ヤー……バー……」海面からくぐもったカラテシャウトが聞こえる。ここは水面下50mの世界。魚類の世界。アルバコアは光る海面を見上げる。思わず手を伸ばしたくなる。かつて沈んだ時のように。だが、今はその衝動に耐えねば。これもイクサだ。8
2014-01-02 21:25:14ポータルから降って来た知性マグロたちは、彼女をすぐにマグロの王と認めた。この身に宿るビンナガ・ニンジャのソウルは、地球という海を人類からマグロに取り戻すため、平安時代の昔から戦い続ける英雄のソウルなのだと。そして彼女はマグロたちの願いに応え、マグロの王となった。9
2014-01-02 21:28:48マグロたちが語るのは、重金属に汚染された海。マッポーと化したネオサイタマ。こちらの世界はまだそこまで酷くなっていないとはいえ、人間が地球を支配すればいずれそうなる。だからマグロが世界を支配し、人間全てをマグロに変化させ何も出来なくさせる。全てがトロになる。10
2014-01-02 21:32:11海の闇の向こうから、ボロボロになったマグロヤブが泳いできた。「あれは18号機!逃げ帰ってきたか、腰抜けめ」「よせ。誰か、奴を治療してやれ」知性マグロの文句を止める。同胞が傷つく姿は痛ましい。しかしこれが戦争だ。王たるもの常に冷静に「イヤーッ!」「グワーッ!?」11
2014-01-02 21:35:53物思いに耽っていたアルバコアの脇腹を、突如ドリルが抉った!血とオイルが海水を赤黒く染める!「ゴボボーッ!?」「なんだと!?」アルバコアも知性マグロたちも驚愕!アルバコアに傷を負わせたのは、たった今泳いできたマグロヤブのドリルではないか!何故!?12
2014-01-02 21:39:43「ゴボッ……どいつもこいつも濁ったマグロの目をしやがって。節穴もいいとこだな」見れば、マグロヤブの胴体は上半身のみ。下半身は取り外され、代わりにそこから長いマグロの尾が人魚めいて生えている。知性マグロはこのようなマグロヤブの着かたはしない。ならば、このヤブの中身は……!13
2014-01-02 21:43:16「提督が、マグロの群れに着任しました。これより調理の指揮を取ります……なんちゃってね」割れたガラスの向こうで笑うのは、間違いない。横須賀鎮守府の提督本人であった。予想だにせぬ乱入者に、マグロたちは驚きのあまり、文字通りマグロめいて口をパクパクさせていた。14
2014-01-02 21:47:02「イヤーッ!」「ゴボボーッ!?」その口をヤブの左手から放たれたジェット・モリが貫通!知性マグロのハヤニエだ!「イヤーッ!」「ゴボーッ!」更に右手のドリルが知性マグロを直撃し、瞬時にネギトロと変化せしめる!ナイスクッキング!15
2014-01-02 21:50:41「イヤーッ!」アルバコア魚雷発射!「うわあああ!?」提督は我に返り、魚雷から猛スピードで逃走!泳ぐ速度だけは互角だが、武装もカラテもニンジャの深海棲艦には敵わない。アルバコアの周囲をグルグル回り、必死に逃げる。その姿は水族館のチューブに入れられたジュゴンの如し!16
2014-01-02 21:54:52「どこまでも人を食った奴だ……!」「人じゃないだろ、マグロだろ!食っていいだろ!」「うるさい!」魚雷発射、爆発!「グワーッ!」衝撃だけで提督が悲鳴を上げる。実際貧弱である。「このまま貴様もネギトロ地獄行きだぁーっ!」アルバコアがカラテを構え、突撃する。その時!17
2014-01-02 21:58:19KABOOOOM!「グワーッ!」「アイエエエ!?」「ゴボボーッ!」突然の大爆発に、アルバコアも提督も、周りのマグロたちも吹き飛ばされた。「何だ!?」「ゴボッ……ば、爆雷です!」「えっ……?」海面を見上げれば、円筒状の爆雷が海面を突き破ってこちらに落ちてくるところだった。18
2014-01-02 22:01:40KABOOM!KABOOM!KABOOM!「グワーッ!」三式爆雷。五十鈴工廠で制作された最新式の対潜爆雷である。だが姿が見えない敵を正確に狙うのは、爆雷の特殊効果ではない。ましてや偶然でもない。『提督、命中しましたか?』「ゲホッ……ああ、いいぞ。そのまま続けろ」作戦である!19
2014-01-02 22:05:48読者の中に逆探知機をお持ちの方がいれば、提督から発せられるビーコンを受信できるであろう!提督は自ら電波を発信しながらマグロの群れに突撃し、アルバコアの位置を身を持って知らせたのだ!そして不知火は教えられた位置に、無慈悲に、確実に、爆雷を投げる!20
2014-01-02 22:09:13「あ」アルバコアの視線が泳ぐ。「あ、ああ……」降り注ぐ爆雷。水中での爆発。折れる船体、沈む魂。ビンナガ・ニンジャの記憶ではない。ガトー級潜水艦アルバコアのソーマト・リコールが、彼女の中でリフレインする。津軽の冷たい海の闇が、彼女を押し潰そうとする。21
2014-01-02 22:13:08「嫌あああぁぁぁっ!」絶叫と共にポータルが開いた。海水とともにアルバコアがポータルに飲み込まれ、一瞬の01空間の後に海上へと姿を現す。見える。雲一つ無い青空。待ち望んだ太陽の光。そして。「ようやく燻り出されたか、サンシタめ」ニンジャスレイヤー。22
2014-01-02 22:15:27「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーの延髄斬りがアルバコアの首を直撃!ポータルの滝からアルバコアは弾き出される!「イヤーッ!」だがアルバコアは更なるポータルを開通!海上に蜘蛛の巣めいた滝の迷路が形成され、アルバコアはその中に潜る!23
2014-01-02 22:18:49