三成と鷹の話

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はむカツサンド @riu0903

三成が、鷹を育てていたと言う。ワシが直接見たわけではない。兵達が口を揃えて、お優しい顔で肩に留まらせていたのをみました、というのだ。どうやら秀吉公から譲り受けた鷹で、側近たちに話を聞いても同じ答えだった。「三成様の手足のように自由自在に飛ぶ鷹でした」と。

2014-01-04 03:13:33
はむカツサンド @riu0903

「あの鷹は、秀吉様から譲り受けて以降必ず三成様がお世話をしておりました。その甲斐あってか、大変よく懐き、三成様が笛を鳴らすまでもなく腕をあげるだけで遠くから飛んできて、そして肩に乗って擦り寄るのです。三成様も、その時だけは見たことのないほど穏やかな笑みを浮かべておりました。」

2014-01-04 03:15:54
はむカツサンド @riu0903

関ヶ原で対峙している間、何度か飛んでいく鷹を見かけた。もしかしたらあの鷹が三成の鷹だったのかもしれない。ワシにはもう、推測することしか出来ない。三成と鷹の話には続きがあります、と1人の兵士が口を開いた。「鷹が、三成様を庇ったのです。関ヶ原において、徳川殿と対峙しているときです。」

2014-01-04 03:18:49
はむカツサンド @riu0903

「流れ矢がいくつか、陣まできたことがありました。そのうちの一つが三成様にあたりそうになったのですが、どこからともなく鷹が飛んできて自らその矢に向かっていったのです。怪我をした鷹を見た三成様はそれはもう落胆し悲しまれ、陣から出そうになるのを宥めるのに必死でございました。」

2014-01-04 03:21:43
はむカツサンド @riu0903

「落ち着かれた三成様は、1人の兵士に鷹を城の自分の部屋へ連れて行くように頼みました。ご自分が動くことは出来ないので非常に辛そうで、泣く泣くといった感じございました。そうして関ヶ原で徳川殿と決戦へ挑んだ三成様は………あとは、ご存知の通りでございます。」

2014-01-04 03:23:39
はむカツサンド @riu0903

その鷹がどうなったのか尋ねると、城の三成の自室にいるが、おそらく…という答えだった。気になって三成の自室に足を向けると、部屋で先程とは別の兵士が横たわった鷹を前に落胆していた。「…三成様が討ち取られたという報を受けてすぐ、追うように死んでしまって。」

2014-01-04 03:26:26
はむカツサンド @riu0903

丁寧に巻かれた布は、三成の手拭いだと言う。本当に大切にしていたのだな、と心が痛む。息を吐いて外を眺めると、鳥の巣のようなものが目に入った。こんなところに巣など、普通は許さないはずだ。疑問になって顔を出すと、その巣には立派な鷹が一羽、こちらを睨みつけていた。

2014-01-04 03:28:56
はむカツサンド @riu0903

耳を澄ましてみると、ぴいともちいともつかない小さな鳴き声が聞こえて、そっと巣の中を覗き込む。小さなそれを守るように睨みつける親鳥に謝罪しながら見ると、ワシの手のひらに簡単に収まるような、孵ったばかりの雛が数匹、儚くも力強い鳴き声をあげて生きていた。

2014-01-04 09:09:24
はむカツサンド @riu0903

「徳川殿?」「あ、ああ……いや、ここに雛が居るのを知っていたか?」巣を指差すと、落胆していた兵士がぱっと顔を上げて破顔した。「孵ったのですね!…三成様が、番いになられたころから気になされていて。孵ったらまた育てるのだと、慈しんでおられました。」ちり、と母鳥の視線が刺さった。

2014-01-04 09:13:38
はむカツサンド @riu0903

「……雛を一羽、譲ってもらってもいいだろうか。残りの子は、皆で育ててもらえないか。その方が三成は喜ぶだろう。」「は、はい!ありがとうございます…!」もう少し体がしっかりとしたころに引き取る、と告げて、ついでに死んだ鷹を三成の近くに埋めて欲しいと頼み城をあとにした。

2014-01-04 09:16:52
はむカツサンド @riu0903

三成が、鷹を飼っていたという。秀吉公から譲り受けたその鷹を、とても慈しんで育てたと言う。どんな気持ちで鷹を慈しみそばに置いていたのか、ワシには推測するしか出来ない。雛を育てるのも罪滅ぼしという自己満足でしかないだろう。だが、それで少しでも三成の気持ちを知りたいと、そう思うのだ。

2014-01-04 09:21:21