山城日記まとめ

カタバミ @catavami

扶桑姉さまが先日結婚した。お相手の方は別の鎮守府の元提督で、家業は農家。次男坊だからそこまで大変ではないと言うけれど。「山城、次はあなたね」って、姉さま、女比率が高い此処じゃ姉さまみたいに正妻の座を射止めるのは楽じゃないのよ。勿論姉さまの努力も知っているんだけれど。 #山城メモ

カタバミ @catavami

TV横須賀毎週日曜朝7時からの「渡邉アツシの鎮守府訪問」。魔改築した狭小鎮守府の番組だけれど、この間は酷かったわ。鎮守府の建物より、そこに20人のlv99金剛と提督１人なのが。他に艦娘はいないって聞いて、一寸退いていたし。完全に人生賭けてる。見るには面白かったけど。 #山城メモ

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「…ブイン中部は未明から暴風、雷雨となる見込みです。続いてラバウルの天気を…」 波のように打ち付ける雨。薄暗く超高層ビルが林立するブイン横須賀の街並みを、私は48階の自室の窓からぼんやりと眺めていた。時折風で流された妖精が窓に当たる。扶桑姉さまが結婚して2日が経った。 #山城日記

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時には鬱陶しいと思えた「山城、大丈夫？」の声もいざ無くなると寂しく感じるものだわ。結婚した扶桑姉さまはこれで2人め。１人めは扶桑おおねえさま、２人めは扶桑しょうねえさまと読んでいたけれど、遠くトラック連邦へ嫁いで行ってしまってからは。単に扶桑姉さまと呼んでいた。 #山城日記

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いつまで眺めていただろう。ビルに備え付けられた赤色の衝突防止灯の点滅が、雨中でもはっきりと色が分かる様になっていた。 「HEY山城、ゴハンダヨー」 響くノック。金剛お姉様だ。 「はーい、今行きますー」 感傷タイム、終わりだわ。 #山城日記

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土曜の夕食はカレー。今日はイカフライカレーだ。食事当番は皆で持ち回りだけど、土曜夕食は必ず木曾が作る。この木曾は、生まれて第一声で「カレーが食べたい」と言ったとか、修行先のCoCo壱を味が物足りないと飛び出したとか言われる曰く付き。まあ、美味しいからいいんだけどね。 #山城日記

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ドアを開けると金剛お姉様が立っていた。待っていてくれたのだ。 「うん、やっぱり少し元気ないネー」 「いえ、もう大丈夫です」 「無理しない無理しない。あっそうだ、こうやってー」 両手の指をわきわきと動かす。経験的に何をされるか察し、後ずさる。くすぐりだ。 「ソレッー！」 #山城日記

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脇、腹、首に膝裏を10の指が這い廻りあられもない声を上げてしまう。笑い地獄だ。ひとしきりくすぐり終え、私が上気したのを確認すると満足したようだ。身体中が熱い。鏡で顔を見たら、きっと頬は真っ赤だろう。 「ウン飛んだ飛んだ。サァ行こー」 「もう、金剛お姉様は！」 #山城日記

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金剛お姉様はドックで生まれた艦娘ではない。この鎮守府の提督の娘で、母もまた金剛だ。どんな仕組みかは知らないけれど、女児は母と瓜二つになる。男児はそもそも出生数が少ないが、顔は似ないとTVで言っていた。 「あ、ワタシ榛名呼んでくるから、山城は比叡呼んで」 「はぁい」 #山城日記

カタバミ @catavami

比叡姉さまは47階、榛名姉さまは46階だ。霧島姉さまはおそらく比叡姉さまの部屋にいるだろう。2人で階段をパタパタと軽快に降りてゆく。別れて比叡姉さまの部屋へ。ノックしたが返事はない。耳を澄ますと何やら音楽が流れている。また"研究"だわ。呆れつつ中へ。鍵は開いていた。 #山城日記

カタバミ @catavami

２人が真剣な面持ちで、比叡姉さまは両手にストップウォッチ、霧島姉さまは"それ"の丸いハンドルを微動だにせず一定に保ち、目を皿の様にして左端から発射された鉄球の行方を凝視していた。 「いまっ！」 「ええっ！」 …つまり新型パチンコ台のデータ収集よ。 #山城日記

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「ここと、ここのランプが点灯してから0.2秒後に玉がチューリップに入ると猫が出てきて」 「猫が右手を上げると次の確変に突入と」 「姉さま達、ご飯です」 驚いて振り向かないでください。どれだけ集中してたんですか。 「あれ山城？いつから居たの」 「今です。ご飯ですよ！」 #山城日記

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どこで台を買ってるんですか、と聞いた事があったが、比叡姉さまも霧島姉さまも曖昧な笑みを浮かべるだけだった。１度だけ連れられてパチンコをしてみたが、あっと言う間に台にお金が吸い込まれるのを目の当たりにしてからは行っていない。 「分かったわ。すぐ行くから先に行ってて」 #山城日記

カタバミ @catavami

部屋を出て食堂のある40階へ降りる。34階から52階までがうちの鎮守府のエリア。その他の階は別の鎮守府だ。ブーゲンビルの全島が市街化され、際限の無い埋め立てが進んでも、数十万の鎮守府が居を構える現実には、超高層建築物しか許されない。香辛料の香りが鼻腔を刺激してきた。 #山城日記

カタバミ @catavami

「ソース取って」「響、チーズを山程かけるのです！」「はぁいソース」「黄身が潰れたー」「おう…って醤油じゃねーか！」「うっわ納豆食べるならあっち行ってよ熊野！死ぬ、匂いで死ぬ！」「あら、鈴谷にはこの粘りとマイルドな味がわからなくて？残念ですわぁ」いつもの食堂の光景だわ。 #山城日記

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食べる者達の喧騒とは対照的に、厨房内には落ち着き払った木曾。 「木曾、カレー頂戴」 「なんか付けるか？」 釜の蓋を開けると一瞬、木曾の顔が白く霞む。底が深いカレー皿に白米をよそうと、そこからも。温かさの象徴が天井まで上がった。 「福神漬けだけでいいわ」 #山城日記

カタバミ @catavami

大鍋の中を大玉杓子がぐるりと弧を描く。掬い上げられた肉と野菜の比率は完璧だ。…もうちょっとお肉少ない方がいいかな。顔に出ていたのだろうか。少し傾け肉を落とす。 「…分かった？」 「ああ」 微笑んでカレーを受けとる。ちょうど金剛姉さま達が入ってきた。榛名姉さんはいない。 #山城日記

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「榛名姉さまは？」 「寝てる。何しても起きないヨ」 ゲーム疲れだネーと溜め息を吐いた。最近榛名姉さまはオンラインゲームにハマったとかで、休みの日は起きてから寝るまでスマートフォンを手放さない。貯金も目減りしているという。 「榛名は遊び方を弁えてないのよ」 #山城日記

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「弁えてないねー。さっすが霧島。経験者は言うこと違うわねー。スロットで使い果たした上に台バンで叩き壊しちゃって弁償したも」 「ちょっと姉さん！」 慌てて比叡姉さまの口を手で押さえて止める。霧島姉さまは怒ると恐い。が。 「後で聞きますヨー」 金剛姉さまの方がもっと恐い。 #山城日記

カタバミ @catavami

生卵、らっきょう、マヨネーズ。順に金剛、比叡、霧島姉さまだ。霧島姉さまは大のマヨネーズ好きで、白米でも味噌汁でもマヨネーズを掛けて食べるマヨラーだ。見ていると胸焼けしそうになる。今食べているカレーにも、お好み焼きだと言わんばかりに格子状のマヨネーズラインが出来ていた。 #山城日記

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「ねえねえ、金剛お姉さまは彼氏とかいないんですか？」 比叡姉さまが匙を口に運びつつ尋ねる。一口に対してらっきょうも1個乗るので消費量は大変なことになる。 「ソウネー」 黄身を潰して白米とルーに絡めながら金剛姉さま。 「ワタシはそろそろ決めなくっちゃいけないノヨネ」 #山城日記

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「何をですか？」 「艦娘を続けるかどうか」 あ、と比叡姉さまが匙に乗せていたらっきょうを滑らせ落下する。テーブルをころころと転がったあと、床に落ちた。 「艦娘を辞めたら、その後どうなるんですか？」 霧島姉さま、マヨネーズで変色したカレールーが口周りに付いています。 #山城日記

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「何処か勤めに出るか、誰かイイ人見つけるかダネー」 提督と艦娘の間に出来た子供で男子は提督に、女子は艦娘になる。しかしそれは成人になるための通過儀礼なのだ。3年程度（本人の意思もあるが）務めれば鎮守府から離れる。ドック生まれの私達とは、違う。 #山城日記

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扶桑姉さまもドック生まれだったが、偶々、遠征先の鎮守府の提督に見初められ結婚した。 「紅茶のお店なんてどうですか！お姉さま紅茶好きだし」 比叡姉さまが落ちた物を拾いながら言うが、金剛姉さまには憂慮の色が浮かんでいた。 「卵の提供者にナルカ…」 黄身はすっかり混ざった。 #山城日記

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卵子提供者。今の文明ほどあらゆる場面で卵子を必要とする世界は過去に無いだろう。 「…次のニュースです。本日正午、トラック・ラバウル・ソロモン連邦の各政府は先週、連続ドック爆破テロ犯として指名手配していた不知火・山口・綾子を砲撃戦の末、殺害したと発表しました…」 #山城日記