『荒木飛呂彦論』読了の感想

タイトルのまんまでゲソ。
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Macha Dearg @BlessingMagicEC

んじゃあ、ちくま新書の『荒木飛呂彦論』の感想を書きましょう。

2014-01-17 19:29:06
Macha Dearg @BlessingMagicEC

本の目的:「荒木神の作品のおもしろさ・凄さはファンなら皆わかっている。だけど、具体的にどこがどう凄いのか? 伝統的芸術史に基づいて詳細に分析して、荒木神ほか、日本の漫画芸術の凄さを浸透させること」。なので、別に『ジョジョ』のおもしろさを伝えることが主目的ではないです。

2014-01-17 19:37:58
Macha Dearg @BlessingMagicEC

単純に「ジョジョってこんな凄ェマンガだからみんな買って読もうぜ!」的なスタンスでは全然ありません。また、日本マンガ史に荒木神を位置づけることが目的でもありません。

2014-01-17 19:40:33
Macha Dearg @BlessingMagicEC

あくまでも「具体的にどこがどう凄いのか? 伝統的芸術史に基づいて詳細に分析して、荒木神ほか、日本の漫画芸術の凄さを浸透させること」が目的です。勘違いしてはいけません。その点、Amazonのレビューは的外れなものが多くて当てになりません。そもそも本の目的が違います。

2014-01-17 19:42:30
Macha Dearg @BlessingMagicEC

本の視点:「波紋=幽波紋」を軸に据えて、船舶や血液といった「水に関わる象徴」に着目しながら『ジョジョ』を中心に荒木神の作品を考察・分析。『ジョジョ』に関しては、Part1〜Part2が「第一部」、Part3〜Part6が「第二部」Part7〜Part8を「第三部」と定義。

2014-01-17 19:50:39
Macha Dearg @BlessingMagicEC

視点に関しては、通常であれば「人間讃歌」を軸に据えてしまいそうなところを、敢えて「波紋=幽波紋」にしているところが好印象。著者は指摘していなかったけれども、SBRのアリゾナ砂漠だって、考えてみれば「沙漠」な訳で、水が確かに関わっている。そこはなるほどと納得。

2014-01-17 19:53:30
Macha Dearg @BlessingMagicEC

視点に対する方法論:著者が映画学者で、映画評論を専門としていること、伝統的芸術史に基づいていることから、必然的に齣割り(=通称荒木割り)の革新性と、視覚的・物語的な意義について着目することが多め。さすがに、そこの部分は専門なだけあって筆が乗っている。ノリノリ。

2014-01-17 19:57:23
Macha Dearg @BlessingMagicEC

読みやすさについて:( )が多用されていて読みづらい、と意見には概ね同意。( )は通常、①脚註、②言い換え、③補足説明、の3つの役割があるけれども、それらがすべて( )で行われてしまっている。そのために煩雑になって読みづらくなってしまっている。

2014-01-17 19:59:43
Macha Dearg @BlessingMagicEC

なので、せめて①脚註、③補足説明は章末にまとめる、②言い換えは必要最低限に抑える、という最低限の編集上の技術が必要かな、と。これは大学のゼミ論レベルでも必須というか当たり前のことなので、これができていないのは、著者の力というより、担当編集の力不足だと思われ。

2014-01-17 20:02:43
Macha Dearg @BlessingMagicEC

というのも、「波紋=幽波紋」を軸に据えたといったって、たとえばジャイロを「スタンド使い」と記述してはダメ。作中でジャイロがティムティムにはっきり「俺のは技術だ。人間には未知の力がある」と断言している以上、ジャイロは原則的に「限りなくスタンド使いに近い非スタンド使い」。

2014-01-17 20:06:02
Macha Dearg @BlessingMagicEC

これを原稿段階で指摘できない担当編集は、明らかに『ジョジョ』ならびに荒木神の作品を事前にきちんと読んでいない可能性が大、と言われても仕方がない。そのせいか、せっかく著者得意のマニエリスム技法の解説が入っても、肝心のところで実際の齣割り画像がなくて、理解しづらい部分も。

2014-01-17 20:08:20
Macha Dearg @BlessingMagicEC

本の難易度:本文の内容とは関係のないところで読みづらい要因はあるものの、本自体は決して難しくないレベル。…というか、この程度は少し手こずったとしても、読めないと困るのでは? 内容的にも、大学のゼミの課題文献くらい。そもそもちくま新書の難易度はそこまで高くない。

2014-01-17 20:12:18
Macha Dearg @BlessingMagicEC

本の内容の妥当性:眉唾半々、なるほど半々。文献の解析は、ズルいけれども、読者に対して、説得的に「どうやってデコードして再構造化するか」がキモ。だから、「著者が執筆当時の意向を表明しているけれども、それを敢えて無視する」ことがどこまで許されるのか、が問題。

2014-01-17 20:16:21
Macha Dearg @BlessingMagicEC

だから、ジャイロを「スタンド使い」と表記することがイカにとっては許容不可だけれども、解析の許容範囲として認められるならそれはセーフ。なので、著者の分析がいろいろ出してくる分析を許容できる範囲がどこまでかによって評価は割れる。なので、イカの場合は半々だったということ。

2014-01-17 20:19:36
Macha Dearg @BlessingMagicEC

たとえば、SBRが「荒木割り」ではなくて初期の(=漫画芸術の伝統に近い)長方形齣が多い理由を、ジャイロの「黄金長方形」に絡めて説明して、「齣割りの形と物語の内容が連動しているんだよ」と指摘する所はフムフム、となった。

2014-01-17 20:22:46
Macha Dearg @BlessingMagicEC

SBRは躍動感・開放感を出すために断ち切りを多用していることは知っていたけれども、こういうところにもきちんと気配りしているのね、と、普段まじめに読んでいないイカの無知ぶりが炙り出されたり…。

2014-01-17 20:24:05
Macha Dearg @BlessingMagicEC

あと、「波紋=幽波紋」を拡大解釈して、「血統」「血液」などにも適用することは、果たしてどこまで納得できるかな、と。ここの辺りが、この本の内容を許容できるか否かのボーダーラインかと。

2014-01-17 20:26:15
Macha Dearg @BlessingMagicEC

ちなみに、マニエリスム関係のところ以外は、粗相のない程度のことが述べられているくらい(=特に高尚なことを述べているわけではない)。テーマを切るための「方法」が専門を外れている箇所は、それこそ流し読みできると思われ。

2014-01-17 20:28:46
Macha Dearg @BlessingMagicEC

本の弱点:筆者の思い入れとマニエリスム関連を引き合いに出すため、せっかく「波紋=幽波紋」の形を変えた繰り返し(=差異と反復)をテーマに掲げているのに、Part3〜Part6が話題の中心で、特にPart2はほとんど出てこない。カーズもワムウもエシディシもサンタナも名前すら出ない。

2014-01-17 20:31:50
Macha Dearg @BlessingMagicEC

言い換えれば、200頁くらいの新書に、設定したテーマに対応する「方法」を詰め込みすぎた、というところが問題の核かと。これをマニエリスムも含めた作画技法一本に方法を絞り、それで各Partを切って行けばとてもおもしろかったろうになあ…と思ったりして。

2014-01-17 20:35:35
Macha Dearg @BlessingMagicEC

逆に言えば、それだけ荒木神の『ジョジョ』を中心とした作品群の奥行きはあまりにも広くて、とてもこれだけの紙面では解析不可能な範囲にまで広がっているのではないかと。テーマと方法論を一本に絞って、それぞれ他の領域の専門家に書かせて叢書化したら、大変におもしろいと思うなあ…。

2014-01-17 20:39:37
Macha Dearg @BlessingMagicEC

そうすれば、必然的に「伝統的芸術史に位置づける」だけではなくて、「日本/世界漫画史に位置づける」「荒木神の生い立ちから前後の影響まで徹底分析する」こともできるのではないかな、と。この1冊だけだと著者の価値判断も多分に含まれているので、読了後のもやもや感が拭い切れませぬ。

2014-01-17 20:42:56
Macha Dearg @BlessingMagicEC

というような企画を、荒木神以外の作家さんたちにもどんどん重ねれていけば、どうにか「荒木神ほか、日本の漫画芸術の凄さを浸透させること」という本の目的も達成されるのではないかな?

2014-01-17 20:45:46
Macha Dearg @BlessingMagicEC

…とかなんとか言って、逃げ気味にまとめてみましたとさ。チャンチャン。

2014-01-17 20:46:22
Macha Dearg @BlessingMagicEC

おっと補足:読者対象は、一応「荒木神の作品群を4〜5度くらいは通読していて」「何か安価で妥当な解釈本はないのかな〜」と思っている方。舌足らずで突っ込みどころも必ず見つけられるので、大学のゼミの課題図書を探している学生さんにもぴったりだm9('・x・')つ

2014-01-17 20:50:27