【第一部-拾】誰かを見つめる時雨と果実酒と #見つめる時雨

時雨×山城
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誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

炬燵に酒瓶が一本立っている。どうやら果実酒のようだけど… 「出張のお土産よ」 山城が言う。山城は先日、提督と日帰りの出張に行っていた。でも山城が自分でお酒を買うなんて珍しい。 「…って、実はこれ提督に渡されたものなんだけどね…。これ、美味しいんですって。やたら勧められたわ」

2014-01-19 21:30:12
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「…僕、飲んでいいのかな?」 「のんべえの時雨って言われてたじゃない、貴女」 …のんべえって言われたのは僕じゃなくて、僕の乗組員達なんだけどな…。 「冗談よ。でもこれ果実酒だし、時雨もちょっとだけならいいんじゃない?」

2014-01-19 21:35:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「はい、どうぞ」 エプロンを着けた扶桑がおつまみを置いていく。塩鱒と切り干し大根の酢の物、鶏皮の味噌煮など、どれも美味しそう。 「姉様、ありがとうございます」 扶桑がエプロンを外し、炬燵へと入り込んだ。 「さ、いただきましょう」

2014-01-19 21:40:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「はい、山城」 山城が扶桑にお酒を注いでいる間に、小皿に料理を取り分ける。 「あら、時雨、いいのに。ありがとう。じゃあ、時雨も少しどうぞ」 山城が僕のグラスに果実酒を少量注いだ。鼻を近づけてみる。果物の甘い香りを感じた。

2014-01-19 21:45:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

一口くちを付けてみる。 「どう?」 「…うん、美味しい、かも」 ……甘い。甘くて、ちょっと不思議な感覚がする。頭が少しふんわりとするような…これが酔いかな。…まるで山城と間近で顔を合わせてるときみたいだ、なんて。

2014-01-19 21:50:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

扶桑の料理は美味しい。鎮守府には食堂があるから普段料理を作ることはないんだけど、たまにこうして小料理を振る舞ってくれる。でも扶桑の料理を食べたことのある艦娘は意外と少ない。もっと皆にも食べて貰ったら?って言ったら、「私が一番に食べて貰いたいのは山城だから。いいのよ」なんて言う。

2014-01-19 21:55:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

…僕も料理を始めてみようかな。山城に美味しいって言って貰えるような料理、作れるようになりたいな…。

2014-01-19 22:00:22
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

斜め右手に座る山城の顔がほんのり赤くなってきている。目もトロンとしていて、ほろ酔いなんだなということが一目でわかった。 「時雨も、もう少し飲む?」 山城が微笑みながら両手でお酒を差し出す。そ、そんな風にされたら断れないじゃないか…。まぁでも、もう少しくらいなら…

2014-01-19 22:05:08
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

山城の寝息が聞こえる。飲みやすいお酒ってこわいね。気づいたら沢山飲んでるから…。山城もそんなに強くないのに、沢山飲んじゃって。 「あらあら山城ったら…。時雨って意外とお酒強いのね。やっぱり貴女自身にも受け継がれてるのかしらね」 やめてよ、のんべえなんて言わないでよ。

2014-01-19 22:10:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

確かに眠たくはならないし、気持ち悪くもならない。ふわふわした感覚はあるけど…。これってのんべえ?…でも、僕がのんべえなら、雪風は…いや、この話はやめよう…。 「あっ……」 お酒をこぼしてしまった。…やっぱり酔ってきてるみたい。

2014-01-19 22:15:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「あ…時雨、大丈夫? 羽織が濡れちゃったわね…私の貸してあげるわ」 「え?そんな、悪いよ」 僕は羽織を脱がされ、代わりに扶桑の羽織を被せられた。 「いいってば…扶桑が…」 「私は部屋から別の取ってくるわ。ついでにこれ、洗濯かごに入れちゃうわね」

2014-01-19 22:20:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

羽織から扶桑の温もりを感じる。扶桑の香りも…。なんだかほっとする香りだなと思う。なんでも優しく包んでくれるような、そんな香り…。 「……ん……」 あ、山城…起きたかな? 近くに寄ってみると、山城の羽織が脱げかかっていた。 「もう、風邪引いちゃうよ」

2014-01-19 22:25:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「……ん、姉様……」 「…わっ!?」 山城が…突然、僕の腰に抱きついてきた。ふわふわ気分が、一気に吹っ飛ぶ。 「ちょ、ちょっと山城…!?僕は…」 「…姉様の匂い…とってもいい匂い…」 あ…もしかしてこの羽織のせい……。

2014-01-19 22:30:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

…僕は恐る恐る山城の頭に触れた。そして…軽く撫でると、山城が気持ちよさそうな顔をした。 「んっ…くすぐったいです…」 手を山城の首元へと移動させる。山城が…身を震わせる。 「ぁ…ねえさま…」 山城の声が、表情が、僕の心を軋ませる。警笛が鳴る。駄目だ、手を止めるんだ、僕…。

2014-01-19 22:35:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「や、山城……」 山城の頬を触り、顔を軽く支える。山城の真紅の瞳がぼんやりと揺れる。まだ酔ってるのかな…。 僕はおさげを解いた。だんだん自分が朦朧としてきているような気がする。自分のしていることに…実感がわかなかった。山城の唇に指が触れた。とても、柔らかかった。

2014-01-19 22:40:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「ねえさま…? ……ん…」 「……!?」 山城が…僕の指にキスをしてきた。指先から脳へ向かって…痺れるような刺激が駆け抜ける。思わず引っ込めそうになった僕の手を…山城の手が包んだ。 「……」 そして山城のその手は…僕の頬に伸びてきた。

2014-01-19 22:45:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

僕の顔が…引き寄せられる。山城の唇が近づいてくる…。 …山城は今、僕を扶桑だと思ってる。そして僕はそれをわかっている。だから…山城の為を思うなら、振りほどいてやめさせるべきの行為。だけど…僕は……。 僕は、卑怯者だ。

2014-01-19 22:50:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

僕は山城の手に抵抗しなかった。 そして…僕と山城の唇が、重なった。 これが僕の、初めてのキスだった。

2014-01-19 22:55:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

しっとりとしていて、柔らかい。それが山城の唇だった。ずっと欲しくてたまらなくて、でも絶対に望んではならないと思ってて。それでも、求めずにはいられなかった…山城。山城はお酒で朦朧としている。今、キスをしているのは扶桑だと思っている。だから、これは僕だけが知っている。僕だけが…。

2014-01-19 23:00:20
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

山城の舌が僕の唇をつつく。僕はあらがうことなど考えず、山城を迎え入れた。そして…僕も山城を求め、舌を絡ませる。僕と山城の唾液が、どんどん混じり合っていく。山城は扶桑を、僕は山城を…。この想いが決して交わらないキスは、とてもとても甘くて……悲しかった。

2014-01-19 23:05:10

※扶桑視点

とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

箪笥の中から羽織を取り出す。これは…榛名がくれたものだったわね。…別に気に入らなかったとかそういうわけではないのだけれど、山城と一緒に買ったあれがあまりにも気に入っていたから、こちらは2,3回着てそれっきりにしていた。あの子には悪いことをしてしまったかも。ごめんなさいね、榛名。

2014-01-19 23:10:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

大改装時代と呼ばれるあの頃…私と山城と榛名、3人で他の戦艦達の留守を預かった時期があったわね。姉妹が皆改装に入って、改装が済んでいた貴女は一人で寂しそうにしてた。だから慰めのつもりで「金剛達がいない間、私を姉だと思っていいのよ」って言ったら、本当に泣きついてきて…

2014-01-19 23:15:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「榛名は大丈夫です」なんていつも言ってるけれど、本当は誰よりも寂しがりやな貴女。でも今は皆一緒だからもう「大丈夫」よね? …お茶会には呼べないから、今度晩酌の方に榛名も誘ってみようかしらね。久しぶりにゆっくり話がしたいわ。…いけない、時雨が心配しちゃうわね。戻らないと。

2014-01-19 23:20:23