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『あの』 と見知らぬ少女が目の前の座席に腰掛けてきたものだから引きこもりはあわてた。 引きこもりがのる車両には今現在彼とその少女しか乗っていなかったのだ。 引きこもり1
2014-01-24 11:49:02救いようのない過疎列車ではあったのだけど、 もとよりそういう列車、地の果ての辺境を目指すような列車に好んで乗ったのだから、その点は引きこもりの中ではどうでもよかった。 引きこもり2
2014-01-24 11:50:38これはその閉鎖空間内にあって互いにはかればいくらでも無視しあうことのできた、二人の個体の人と人としての関係をあえて強調する行為であるとともに、引きこもりに対してもその認識を否応なく強制する荒業であったから 引きこもり4
2014-01-24 11:53:33引きこもりは方やこれは厄介なことになったと青ざめ、方や現代人特有のドライな間柄を破壊する目の前の不躾な輩を憎悪したりした 引きこもり5
2014-01-24 11:56:16しかしながら内にどれほどの感情のうねりを宿らせようと、それを表情に表すことも、態度として相手に示すことも根本的に不可能であった 引きこもりのことだから 引きこもり6
2014-01-24 11:57:15そこはなすすべもなく「あ、あ」とどもりつつ、阿呆のごとく首を縦に振るより他なかったのである。 「どこへいくのですか?」 とその少女は引きこもりに問うた。 引きこもり7
2014-01-24 12:08:03(なぜそのようなことを問うのですか?あなたはなぜ僕の前に座るのですか?) 彼女の問いかけにかような逆質問をすることを引きこもりは強烈に欲したのだけれど、無論それだけの度胸が彼に備え付けられていないことはいうまでもない。 引きこもり8
2014-01-24 12:08:46この列車は明朝の午前7時、いまから約8時間後、最終目的地となる○字駅へたどり着く予定となっていたのだが、相手の頭がおかしい場合最悪その時点までこの状況が継続される恐れがあった。 引きこもり11
2014-01-24 12:13:10そして実際のところ目の前の少女の頭は現段階で十分におかしいのだ。 引きこもりは首を窓の方向へ捻じ曲げ なるべく会話に持ち込まれたくない雰囲気をかもし出した。遠い地平の外灯が糸を引いては消えまた現れた。 引きこもり12
2014-01-24 12:15:37『なぜそんなところへいくのですか?』 少女はかまわず尚も聞いてきた。 風景が心理にもたらした淡い感傷を破壊された引きこもりは居心地の悪さと不快感を覚えつつ、再度ゆっくり少女へ向き直った。 引きこもり13
2014-01-24 12:16:28『なぜそのようなところへいくのですか?』 少女は同じことを聞いてきた。 聞くのは人間の自由であるのだ。 引きこもりはそう思った。 引きこもり14
2014-01-24 12:17:15それはもうその人間の基本的人権の行使範囲内にあることだから、こちらからとやかく抗議することはできないし、またそもそもセーター少女があえて自分の目の前の席を棲家と選んだことだって、 あくまで彼女の意志の支配圏内、彼女の勝手、それまでのことだ。 引きこもり15
2014-01-24 12:21:20しかしながら同様に、こちらには答えずに済ます黙秘権があるはずなのだ。 引きこもりは心の中で頷いた。 よしそうだそうしてしまおう。 元はといえば今の時代に心と心の垣根を乗り越えて気軽に接触してきたこの女が悪いのだかわいそうにきっと頭がおかしいに違いない。 引きこもり16
2014-01-24 12:23:45ただだからといって会話を試みてきた相手を完全無視し切り捨てる行為が正当性を 帯びるかといえばそうとも言い切れない。 それはそれでやはり頭がおかしいのだ。 引きこもり17
2014-01-24 12:24:18その通り自分は頭がおかしいのだ。 だから今日に至るまで常に一人ぼっちで、挙句引きこもりの状態にまで堕ちてしまったのではないか。 引きこもり18
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