エネルギーの変換とか、輸送、貯蔵の効率について

エネルギーを使いたい時に使いたい形で使えるようにするには、別の形に変換したり、輸送したり貯蔵したりする必要があります。電気というのもエネルギーの「形」の一つ。その効率について具体例をいくつか調べていたので、古いツイートですが記録としてまとめておきます。
59

きっかけは水素利用についての日経の記事。

Flying Zebra @f_zebra

日経のこの記事、水素貯蔵の技術が確立されていないことに触れないのは片手落ち。アイディア自体は大昔からあるのに水素利用が普及しない理由はそこにある。最近、科学記事の劣化が激しい。 - 余剰電力、水素で貯蔵 東芝が英で11月から実験 http://t.co/JgHMrSYQ

2012-10-24 08:36:23
リンク www.nikkei.com :日本経済新聞
Flying Zebra @f_zebra

昨日、日経の水素利用についての記事を批判したので、少しばかりエネルギーの「効率」について話しておきますか。ちゃんとまとまってないのでダラダラと…

2012-10-25 12:33:21
Flying Zebra @f_zebra

エネルギー利用の効率を考える時、変換効率、つまりある形のエネルギーを別の形に変える際の効率、逆に言えば損失というのは大きな要素です。そしてもう一つ大切なのは、貯蔵と輸送の効率(あるいは損失)です。

2012-10-25 12:34:25

ちょっと補足。エネルギーはカロリーとかジュールとかで表されるけど、どちらも「次元」は同じ。食品の熱量も、運動エネルギーなどの力学エネルギーも、「高さ」による位置エネルギーも、全て同じ次元の単位で表せます。ということは、別の形に変換することもできるのです。

Flying Zebra @f_zebra

エネルギー変換効率については比較的よく理解されているので簡単に流します。石油やガスなどの化学エネルギーから電気エネルギーを得るには、まずは燃焼して熱エネルギーに変換し、そこからボイラーとタービンで力学エネルギーにして、最後に発電機で電気エネルギーに変換します。

2012-10-25 12:35:47
Flying Zebra @f_zebra

この過程で4割程度のエネルギーが失われますが、特に損失が大きいのが熱→力学の変換過程です。自動車などの内燃機関は熱を介さず直接力学エネルギーを取り出しますが、効率は更に悪くて4割程度(損失が6割)です。力学エネルギーから電気へは比較的効率よく変換できます。

2012-10-25 12:36:18
Flying Zebra @f_zebra

電気エネルギーは非常に使い勝手が良く、熱にも力学にも光にも直接効率よく変換できます。電気エネルギーを作る(他から変換する)効率が必ずしも良くないにも関わらずエネルギー利用における電気エネルギーの割合が増え続けているのは、この使い勝手の良さによるものです。

2012-10-25 12:36:42
Flying Zebra @f_zebra

電気エネルギーは使い勝手が良い上に送電網による輸送の効率も悪くない(日本では送電ロスは5%程度)のですが、貯蔵が難しいというのがボトルネックになっています。風力や太陽光などの自然エネルギーによる発電を大規模に展開し難い理由もそこにあります。

2012-10-25 12:37:40
Flying Zebra @f_zebra

風力や太陽光は発電できる時間とできない時間があって、まさに「自然まかせ」で不安定なのですが、電力を効率よく貯蔵できればこの問題は解決します。発電できる時だけ発電して、貯めておけばよいのです。ところが、その部分は簡単には解決できそうにありません。

2012-10-25 12:39:47

ここから、電気を「ためる」ことについてのお話。電気はそのままの形ではためられないので、一旦他の形のエネルギーに変換しなければなりません。

Flying Zebra @f_zebra

蓄電、というのは細かく見れば、電気エネルギーをいったん化学エネルギーなどに変換して貯蔵し、使う時には再び電気エネルギーに変換していることになります。それぞれの変換過程、および貯蔵の期間中に、ある程度のエネルギーが損失として失われます。

2012-10-25 12:40:21
Flying Zebra @f_zebra

実は、充電に要した電力のどれだけを取り出せるか、という効率は、バッテリーだとそう悪いわけではありません。自動車などに使われる鉛蓄電池で8割程度、携帯電話や電子機器に使うリチウムイオンバッテリーなら9割程度の効率です。揚水発電の7割程度に比べても、効率が良いのです。

2012-10-25 12:41:36
Flying Zebra @f_zebra

ではなぜバッテリーを使わないのか。そこに関係するのが、エネルギー密度という概念です。バッテリー1つは大した大きさではありませんが、そこに蓄えられる電力は僅かなものです。必要な容量を確保するにはどの程度の量が必要になるか、試しに計算してみましょう。

2012-10-25 12:42:39
Flying Zebra @f_zebra

小型車に使われるバッテリーの55B24Lの場合、容量は36Ahです。12VなのでWhに直すと*12で432Wh、直流から交流への変換効率を7割として、家庭の電源として使うとすれば300Wh程度ということになります。一方、標準的な家庭の電力使用量は1日10数kWh程度です。

2012-10-25 12:45:04
Flying Zebra @f_zebra

つまり、家庭で使う1日分の電気を蓄えるには40個程度のバッテリーが必要になります。同じエネルギー(12kWh)を灯油の発熱量(8767kcal/L)に換算すると、変換効率を無視すれば僅か1.18Lでしかありません。バッテリー(1個12kg程度)はエネルギー密度が低いのです。

2012-10-25 12:45:21

積載量に制限のある輸送機械、特に重さの制限が大きな航空機を電気で動かすのが難しいのもこれが理由です。電気自動車も、どうしても走行距離は短くなってしまいます。

Flying Zebra @f_zebra

化学エネルギーを利用するバッテリーは劣化も早く、鉛蓄電池なら3年程度で容量が低下します。結局、ある程度以上の規模で電気を貯めようとすれば現状では揚水発電のように位置エネルギーで蓄える方法が唯一の選択肢となっています。

2012-10-25 12:47:58
Flying Zebra @f_zebra

灯油やガソリンのような液体燃料はエネルギー密度が高く、少量で必要なエネルギーを取り出せるので輸送や貯蔵も効率的です。液体なので扱いも簡単で、例えば石炭に比べると容器の移し替えも簡単です。石炭の利用で始まった産業革命が、その後急速に石油に移行したのも頷けます。

2012-10-25 12:48:52
Flying Zebra @f_zebra

余談ですが、日露戦争の頃は軍艦の燃料が石炭から石油に変わる直前でした。石炭燃料の場合、洋上での燃料補給はほぼ人力となり、危険で非効率でした。そのため燃料補給のための寄港が増え、そこから艦隊の動きを察知していたのです。

2012-10-25 12:49:47
Flying Zebra @f_zebra

石炭燃料艦のバルチック艦隊は極東までの大航海の終盤で石炭補給のタイミングが悪く、最悪の状態で東郷平八郎率いる連合艦隊と会戦することになりました。結果はご存じの通り。ある意味、燃料補給のタイミングが勝敗を分けた海戦となりました。

2012-10-25 12:49:59
Flying Zebra @f_zebra

固体(石炭)と液体(石油)では液体があらゆる面で優秀なのですが、化石燃料のもう一つの形態、気体はどうでしょうか。天然ガスの場合、「重量あたり」のエネルギー密度は石油を凌ぎ、非常に高効率でクリーンです。ただ、如何せん気体なので同じ重量だと体積が非常に大きくなります。

2012-10-25 12:50:52
Flying Zebra @f_zebra

気体燃料は地域供給や短距離輸送なら気体のままパイプラインで可能ですが、貯蔵や長距離輸送は大量の余分なエネルギーをかけて液化して行う必要があり、エネルギー損失が大きくなります。つまり、使い勝手が悪いのです。これは、水素についても同じです。

2012-10-25 12:51:18

エネルギー密度が大きく、しかも流体だと貯蔵だけでなく輸送も効率的に行えます。気体燃料の場合、流体の扱いやすさはあるものの、如何せんエネルギー密度が低いので輸送の効率はどうしても悪くなります。