バケツに何かを入れようとする所から頑張る物語

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齋藤虎之介 @tora404

代々バケツ作りをしている家に生まれたディッチャという男の子がいた。大きいのから小さいの、色とりどりのバケツをお父さんがせっせせっせと作っているそんな姿を見てディッチャは育った。一番のお気に入りはやはりと言うかなんというか、青いバケツだった。バケツといえば青、

2014-01-30 17:37:08
齋藤虎之介 @tora404

夏の空のようなライトブルーのバケツが好きだった。そんなお気に入りのバケツを持って外に出た。何か入れるわけでもな空のバケツを持って外にでた。(何か入れるものはないかな?)きょろきょろ辺りを探しながらテクテクと歩いていた。「ねえ、これ考えて文章書いてるの?」

2014-01-30 17:37:17
齋藤虎之介 @tora404

「いいえ。物語の登場人物が物語を書いてる人に話し掛けるなんて反則だよ。」「いや、でも代々バケツ作りっておかしいやん。もっと格調高い工芸品いっぱいあるのにバケツって。」「いいから。取り敢えずバケツに入れるものを探して。それから話し掛けないように。」ディッチャは不貞腐れながら

2014-01-30 17:37:26
齋藤虎之介 @tora404

仕方なしにバケツに入れるものを探した。石ころ、木の葉、ダンゴムシ、カエル。何かしっくりこない。バケツといえば液体なんだけどな。水を入れても芸がないし、井戸の水とか汲んで来たらお手伝いをするただのいい子がいました。で話が終わっちゃうしな。などと考えているとシクシク泣いている

2014-01-30 17:37:33
齋藤虎之介 @tora404

少女がいました。(あ!これはいい。バケツに涙を入れよう!)そう思い少女の側に駆け寄りバケツを少女の足元に置きました。「どうしたの?」と聞くと少女は声を震わせながら言いました。「飼っていたチャップが死んじゃったの?」「チャップ?」

2014-01-30 17:37:40
齋藤虎之介 @tora404

「うん、犬のチャップ。私が今よりもちっちゃい時からずっといたの。」「そっかあ。残念だったね。」「うん。」少女はシクシクと泣き続けた。「ねえ、悲しいかもしれないけれど、そんなに泣いてるとチャップも悲しむと思うよ。」「チャップが?」「うん、空の上から大好きだった君がずっと泣いてるのを

2014-01-30 17:37:56
齋藤虎之介 @tora404

見てると悲しむと思うよ。もしチャップがずっと泣いてたら君も悲しくなるでしょ。」「・・・。うん。」「悲しいのは仕方ないと思うけどいつまでも泣いてるのはね。」「うん!そうだね。悲しいけどチャップの為にも笑っていないとね。」そうして少女と別れた。「バイバイ」と手を降る少女に「バイバイ」

2014-01-30 17:38:11
齋藤虎之介 @tora404

と手を振り返した。 バケツの中を見るとほんの僅かだけど涙が溜まっていた。またテクテクと泣いている人を探して街を歩き回る。小さな公園で男の人が街路樹の影で隠れるようにして泣いていた。ディッチャは駆け寄り男の人の足元にバケツを置き「どうしたの?」と声を掛けた。「彼女に振られたんだ。」

2014-01-30 17:38:33
齋藤虎之介 @tora404

そういって男の人はメソメソ泣いていた。「そっか、その人のことがとても好きだったんだね。」「あぁ、運命の人だったんだ。彼女以上の女性なんてこの世にいないんじゃないかと思えるほど素晴らしい人だったんだ。」「うん。僕は恋愛のことはよくわからないんだけど、別れたんなら

2014-01-30 17:38:43
齋藤虎之介 @tora404

運命の人じゃなかったんじゃないかな。運命の人と出会う為にお互い分かれたんじゃないかな。」「・・・。坊主恋愛マスターみたいなこと言うな。」「へへっそうかな。」「まぁ頭ではわかってるんだけどな。やっぱりすぐには気持ち切り替えられないよ。」「そうだね。でも元気だしてね。」

2014-01-30 17:38:52
齋藤虎之介 @tora404

男の人に手を振り「バイバイ」と言って別れた。バケツの涙はほんの少しだけ増えていた。「ねえそろそろ限界じゃない?」「うん。」「どうすんのさ。」「どうしようか。」「いや、僕に聞かれても。書いてるの君なんだからさ。」「ですよね。ちょっと時間を飛ばそう。」「え?」それからディッチャは

2014-01-30 17:39:02
齋藤虎之介 @tora404

暇な時を見つけては街に出て行って泣いている人を探した。悲しくて泣いている人、怒って泣いている人を見つけてはそっと足元に空色のバケツを置いく。ついでと言ってはなんだけど、泣いている理由を聞いてあげる。そうすることで大抵の人は少しだけ元気になっているように見えた。

2014-01-30 17:39:11
齋藤虎之介 @tora404

涙もバケツに340杯分溜まった。これを、「ちょっと待って340杯ってなに?」「何と言われてもそれだけ涙を流してる人の話を聞いてあげて、ほんの少しだけど元気を振り撒いたってことだよ。」「それにしもやりすぎじゃないかな。どこに保管してんのさ。しかもお父さんがバケツ作ってると言っても

2014-01-30 17:39:19
齋藤虎之介 @tora404

340個もくれるとは思えないんだけど。」「そんな現実的なこと言ったら物語なんか書けないだろ。なんでそんなに冷めてんのさ。」「いや、まあそうだけど。僕は君に作られたんだけどそれはちょっとって思うラインだってあるさ。」「お互い大変だな。」「いや、行き当たりばったりで設定される

2014-01-30 17:39:29
齋藤虎之介 @tora404

僕だけが大変だと思う。」「うん、もう話し進めていいかな。」「…。」ディッチャの住んでいる街には大きなお城がありました。一番高い所で地上300m。まるで空に浮かぶ白い雲のような真っ白そのお城はソールオリエンス城と呼ばれていた。街は山の西側の麓にあったので

2014-01-30 17:39:37
齋藤虎之介 @tora404

朝太陽が昇っても山に邪魔されてなかなか街に日が届かなかった。そこでアモル王が城の外壁、屋根全てを真っ白にし朝日を反射させて街に陽の光を届けようとしたのだった。その目論見は見事成功し、日の出とともに城に反射した陽の光が街に届くようになった。

2014-01-30 17:39:46
齋藤虎之介 @tora404

そのことだけではなく王様は町の人たちのためになるようなことには、私財を投げ打って、よりよくしようとしていたので町の人からとても愛され慕われていた。ある日そんな王様にディッチャは呼ばれた。初めて入るお城に緊張しながら王様の部屋に通された。

2014-01-30 17:39:54
齋藤虎之介 @tora404

部屋に入ると王様は大きなベッドに横たわっていた。時折けほけほと咳をし顔色もあまりいいようには見えなかった。なんだか見てはいけないような気がして王様から視線を外して俯いた。「ディッチャ君は悲しんで泣いている人を探してバケツに涙を貯めているようだね。」「はい。」

2014-01-30 17:40:02
齋藤虎之介 @tora404

「なぜそんなことをしている?」「わかりません。最初はただバケツに何か入れたくて探していたんです。でも川の水だとありきたりだなと思っていた所に泣いている少女がいたんです。それでなんとなく…。」「そうか。時折耳に入って来ていたよ。君が涙をバケツに集めていると。

2014-01-30 17:40:10
齋藤虎之介 @tora404

それで少し元気を貰ったという人の声もちらほら聞こえてきた。」「元気?」「そう、君は涙を貰うついでにその人の話を聞いていたね。」「はい。」「悲しい時落ち込んでいる時に、ただ話を聞いてもらう、それだけで人は元気になることがあるんだよ。君はそれを知らず知らずのうちにやっていたんだ。」

2014-01-30 17:40:20
齋藤虎之介 @tora404

「そんな。僕はそんな大それたこと…。」「ふふっ君が思わなくても結果そうなったんだからいいじゃないか。君は多くの人をほんの少しだけかもしれないけれど元気や勇気を振り撒いたんだよ。私はとてもいいことだと思うよ。」時折けほけほと咳をしながら王様は優しい表情で話してくれた。

2014-01-30 17:40:28
齋藤虎之介 @tora404

「ありがとうございます。王様にそう言って貰えると僕もとても嬉しいです!」「実は君に頼みたいことがあるんだが、いいかね。」王様はディッチャに少し苦しそうにでも嬉しそうにお願いごとを話した。そんなこと本当に出来るんだろうか?色々疑問に思ったけれど引き受けることにした。

2014-01-30 17:40:37
齋藤虎之介 @tora404

それからもディッチャは町に出て涙を集めまわった。「厳しくない?」「厳しい。」「だよね。」「書き手に話し掛けるのはやめて。」「だって、見てられないくらい厳しそうだったから。王様のキャラも僕のキャラもいまだに立ってないし。」「うむ。」「がんばれ。」「うむ。」

2014-01-30 17:40:46
齋藤虎之介 @tora404

ほどなくしてディッチャが王様との約束を果たす時が来た。王様が亡くなったのです。ディッチャはお城からやってきた手伝いの人と今まで集めた涙の入りのバケツをソールオリエンス城に運んだ。その総数435。何度も何度も家と城を往復し今度はそれを城の一番高い展望台へと運んだ。

2014-01-30 17:40:55
齋藤虎之介 @tora404

町中に王様の死が伝えられ皆嘆き悲しんだ。その姿を見るといかにアモル王が人々に愛されていたのかが窺い知れる。町にはスピーカーがいくつも取り付けられており、城からの連絡事項がある時に町中に放送された。城にわざわざ赴くことなく家で知ることが出来るというこれも王様の配慮だった。

2014-01-30 17:41:04