本を書きたいというあなたへのメッセージ

たった一人の「あなた」に向けて書いた文章です。
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結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

たぶん十年以上前、山形浩夫氏が「翻訳したいんですがどうすれば」という方からのメールに「やれば?まずやれよ」という主旨の答えをしていたのをときどき思い返します。

2014-01-30 18:16:19
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

何を言ってるかというと、結城のところにもときどき(ごめん、うそでした。頻繁に)、「本を書きたいんですが、どうすれば?」という質問メールが来るのです。

2014-01-30 18:17:17
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

おそらくは結城が書いたプログラミングの本や、数学入門書を読んで、自分も書きたいと思われた刀のだと想像しています。

2014-01-30 18:17:55
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

でも、あまりにも多いので、個別に答えることはちょっと難しいのです。「どうしたら本が出せますか」「どうしたら本が書けますか」「どうしたら結城先生のような本が出版できるでしょうか」とやつぎばやに聞かれても、私としても答えようがない、というのが本音のところではあります。でも。

2014-01-30 18:19:24
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

でも、お気持ちはわかります。本を書くことに特別な何かが必要ではないかと思う気持ちもよくわかります。どこかのだれかに「はい、あなたは本を出してもいいんですよ」と許可や承認をもらいたくなるような気持ちもわかります。私もそう思っていましたから。でも、そんなものはどこにもないんです。

2014-01-30 18:20:47
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

出版社さんや編集者さんはいつも、いつでも鵜の目鷹の目で「よい著者はいないか」「いい本はないか」と探し回っています。許可も承認もあったもんじゃありません。とにかく他の人に読んでもらえるような本、いい本、人気がありそうな本を24時間求めています。ほんとです。

2014-01-30 18:22:11
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

そこには決まった手順もなく、マニュアルもありません。コネが有効になることもあまりなく、ただ、ただ、おもしろい本、すばらしい本、読者を魅了する本を求める人がいるばかりです。

2014-01-30 18:23:25
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

ですから結城に「どんな本を書いたらいいですか」と聞かれても困るのです。「どうしたら本が書けますか」と聞かれても困るのです。気持ちは分かります。でも結城は答えを持っていません。

2014-01-30 18:24:14
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

いえ、答えは持っています。読者が読んでおもしろいと思う本、ためになった、感動した、すばらしいと思う本を書いてくださいということです。それ以上具体的なことは書けません。書くことができないからです。あとは各著者が自分で作品を通して読者に語るだけだからです。

2014-01-30 18:25:27
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

20代の若い方で本を書こうとしている方にお伝えしたいのは、だから、とにかくおもしろい本を書くことです。お金でも読者さんでも、それは後から付いてくるものです。まずは作品ありき、本ありきです。あなたが書いた現物が勝負です。全精力を注いで本を書く。現時点での最善を尽くす。

2014-01-30 18:26:59
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

そうやってどんな著者さんも本を書いているのです。ベテランの方も、新人さんも。まとまった何かを書かないで「どうしたらいいだろう」と悩むのは無意味です。まず、書きましょう。あなたが考えている最高の題材でかまいません。どんなに短いものでもかまいません。

2014-01-30 18:28:44
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

どんなに短くてもかまわないので、ひとまとまりになったもの。一つの独立した、タイトルもついた何か。自分から独立して読まれる何かを作り終えること。それが大事です。自分の言い訳や解説を付けずに、読者に「はい、これです。お読みください」と言えるもの。それをまとめることに全精力を注げ。

2014-01-30 18:30:34
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

タイトルを付けて、ひとまとまりの内容を持った作品を作り、「はいどうぞ」と渡すことのこわさ。「あのね、そこはちょっと、まだ、ちゃんと書けてないんだよね」と言い訳はできないこわさ。自分のことを少しも知らない人に読まれ、勝手に批評されるこわさ。作品を世に出すというのはそういうことです。

2014-01-30 18:32:34
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

〆切に追われる怖さ。最近落ち目だよねと言われる怖さ。作品数が少ないと言われる怖さ。作品が多くて雑になったと言われる怖さ。……さまざまな怖さに直面しても、おびえることなく、自分の意思を持って次の作品を作る強さ。書き続けるというのはそういうことです。

2014-01-30 18:34:09
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

他人と比較していたらきりがありません。自分よりも良い本を作る人は無数におり、悪い本を作る人も無数にいる。誰と比較するかで、自分の評価はまったく変わる。そんな比較は無意味です。

2014-01-30 18:35:20
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

基準をしっかり持つこと。自分がいままでできなかったことが、次の作品ではできるようになったか?これまでの良さを生かしつつ、さらになにか一つでもプラスできたか?他の作家さんと比較するのではなく、自分の基準と比較してどうだったか?読者さんは喜んだか?不満は想定内のものだけだったか?

2014-01-30 18:36:57
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

そんなふうに基準をしっかり持ち、まず《読者さんのことを考える》という態度でいるようにしよう。そうすると、他の作家さんがいい作品を書いてもショックを受けない。かえって喜べる。誰から批判を受けても、謙虚に学べる。そのような執筆生活を心がけることはとても大事だと思っている

2014-01-30 18:38:32
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

つまりは、執筆も、自分の人生の一部であるということ。自分は誰であるか。何をしようと思っているか。何がよいことであり、何がよくないことであるか。そのような、一般的には「イシキタカーイ」とか「コムズカシー」とか「クラーイ」とか言われそうなこともきちんと考えること。それが大事。

2014-01-30 18:40:05
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

そもそも、文章を書くことは楽しい。自分が考えたことを自分一人のものにするのではなく、誰にでも読め、誰にでも理解できる形にするということは、大きな喜びである。自分の読者に伝えること。自分の読者に大切な一言を伝えること。それはとても大事なことだ。

2014-01-30 18:41:40
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

読者を言い負かそうとか、読者を使って一儲けしようとか、そういうことを考えているうちは二流三流だと思う。そんなレベルではダメなんだ。自分の持っている最上のものを差し出すような心づもりが大事なのだ。読者自身が気づかなかった読者の価値に光を当てるような……いや、それも望みすぎか。

2014-01-30 18:43:49
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

せっかくこのような、ネットで世界中がつながるような時代に、テキストを使って思いを伝えることができる立ち位置にいるのだから、たくさんの人に喜びを。励ましを。感動を。新しい発見を。楽しみを……伝えるような文章を書いていきたい、と切に思う。

2014-01-30 18:45:44
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

もう二十年近く前のことだろうか。当時吉祥寺に住んでいた。京王井の頭線、吉祥寺駅のホームでもだえるようにしながら「神さま、神さま、どうか本を書かせてください!」と祈った祈りを私は忘れない。神さまはその願いをきちんと叶えてくださっている。 http://t.co/bnQJsBgD3p

2014-01-30 18:48:35
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

そう。実は人生は祈りなのだ。誰に対して何を祈るか。あなたは「誰」に「何」を祈るか。私は「神さま」に「幸福」を祈った。そしてまた、本を書けるようにと祈った。神さまはそのすべてを祈り以上にかなえてくださっている。 http://t.co/63iUi2pWt8

2014-01-30 18:50:54
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

2003年に私は「神さまは私の10年前の祈りを聞いてくださった」と告白した。 http://t.co/63iUi2pWt8 2014年のいま、私はまた「神さまはさらに10年も祈りを聞き続けてくださった」と告白しよう。結城が最初の書籍を刊行してから二十年が過ぎている。

2014-01-30 18:52:39
結城浩 / Hiroshi Yuki @hyuki

そのほぼすべてが読者さんの大きな応援を受けている。読者さんに深く、深く感謝します。そしてまた、二十年前に(今日のような)大風が吹く日に、吉祥寺駅のホームで泣きそうになりながら祈った自分の祈りに感謝したくなる。よくぞ、祈ってくれた、あのときの自分。

2014-01-30 18:54:29