【第一部-拾弐】誰かを見つめる時雨と山城 #見つめる時雨

時雨×山城
9
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

お風呂上がり。先ほど一緒にお風呂に入った夕立が、お風呂場に忘れ物をしたとかで引き返してしまったので、僕は先に部屋に戻ることにした。最近変えたシャンプーの香りを楽しみながら、廊下を歩く。ひんやりした空気がお風呂あがりの火照った身体には心地よいけど、湯冷めしないうちに早く戻ろう。

2014-01-30 22:00:14
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「あ……」 廊下の角で山城に出くわした。寝間着に羽織を着ている。 「…こんばんは、時雨」 「山城…えっと…」 山城の瞳が僕を見つめる。僕は目を合わせることができず俯いてしまった。いけない…僕、まだ緊張してる…。この前のあの出来事以来、僕はずっとこんな調子だった…

2014-01-30 22:05:11
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

夕立に元気づけてもらったものの、山城の前だとやっぱり固まってしまう。山城を…彼女の唇を変に意識してしまって…。とても柔らかくて…って何を、何を考えてるんだ、僕は…。 「…時雨」 山城の穏やかな声が、耳を通る。…返事をしたいのに、声が上手くでない。

2014-01-30 22:10:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

そっと…僕の頬に山城の手が添えられた。僕の顔がだんだんと熱をもっていくのがわかった…。 「…山城…」 山城は何も答えない。…山城の手が僕の頬を撫でる。むずむずした感覚が、身体を抜ける。 「…んっ…」 僕の心臓の鼓動が響く。山城の感情が読めない。もしかしてあの時、気づいて…

2014-01-30 22:15:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「時雨、髪…乾かしてあげる」 「え…?」 僕は向きを変えられ、山城に背中を向ける形となった。 「え?や、山城?」 「ほら、私の部屋に行きましょう」 背中を山城の柔らかいクッションで押される。僕は困惑したまま、部屋へと向かうしかなかった。

2014-01-30 22:20:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

山城がドライヤーのスイッチを入れる。温風を頭に感じながら、山城の指が僕の髪の間を通って行く感覚に浸る。…不思議だ。さっきまでどうしたらいいのかわからないくらい緊張していたのに…こうされていると少しほっとする。とても、心地が良い。…でもその間、山城は一言も喋ることはなかった。

2014-01-30 22:25:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「…時雨、気持ちいい?」 山城の声が聞こえてきた。僕は素直に「気持ちいい」という言葉が出た。僕の返答に対して、山城は「よかった」とだけ返した。…再び、ドライヤーの音だけになる。…山城は今、何を考えているんだろう。わからない。悶々とした気持ちが広がっていく。

2014-01-30 22:30:12
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

ドライヤーのスイッチを切る音が聞こえた。どうやら終わったらしい。少しの間の後…山城が口を開いた。 「…ねぇ、時雨。この前、急にいなくなっちゃったみたいだけど、何かあったの?…姉様が心配してたわ」 僕の胸が強く鼓動を打った。…やっぱり山城は、何も覚えてないんだよね…?

2014-01-30 22:35:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「…ごめん、ちょっと気分が悪くなっちゃって…」 僕は誤魔化すことにした。あれは、山城には知られちゃいけないこと。知っているのは、僕だけでいい…。 「…そう、それはお酒のせい?他には何もなかった?」 「うん、そうだよ。ちょっと飲み過ぎちゃったみたいだよ…」 …胸が痛んだ。

2014-01-30 22:40:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

少しの間山城は黙ってたけど、しばらくして…また口を開いた。 「…ねぇ、時雨…最近ずっと元気なかったじゃない? あと私、時雨に妙に距離を置かれてたような気がして…もしかして私、あの時貴女に何かしちゃったんじゃないかって、ずっと思ってたの…。」 あ……。

2014-01-30 22:45:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「…本当に何もしてない?私、時雨に何か…」 僕はそれ以上聞いていたくなくて、山城の方へと振り向いた。「何もしてないよ」、そう言おうとした。 「あ……」 …距離感を誤った。山城の顔が…とんでもなく間近にあった。

2014-01-30 22:50:11
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

ボッと、火が点いたように顔が真っ赤になった。……山城の。 「え?」 な、何で山城、そんな顔……。僕もつられるようにして、顔が熱くなった。 「へっ!?あ…ご、ごめんなさい…何でも…ないの…」 山城が顔を離し、赤くなった顔を片手で隠した。

2014-01-30 22:55:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「山城…?」 山城の様子がおかしいのは明らかだった。 「……ねえ、時雨…本当に何もしてない…?本当に何もなかった…?」 それは半信半疑のことを確かめようとしているような…まさか、山城…うっすらと覚えてるんじゃ…。 「何も…なかったよ…」 僕は答えた。

2014-01-30 23:00:17
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「…そうよね、やっぱり夢よね…」 山城が呟く。その言葉は、僕の耳にもしっかりと届いていた…。 「…山城、それって…どんな夢だったの…?」 山城の目が驚いた様子で僕を見た。顔が更に赤くなっていた。沸騰しそうなくらい。 「え!?いや、何でも…何でもないの!」

2014-01-30 23:05:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

僕は何を聞いてるんだろう。自分がよくわからない。 「…ねえ、教えて欲しいな。どうして山城がそんな顔をしてるのか…知りたい」 そうだ。山城が見た夢というのは、きっと僕との夢。どうしてそれで顔を真っ赤にしてるのか、それが知りたいんだ。

2014-01-30 23:10:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

僕は山城ににじり寄った。体を近づけると、山城は僕から遠ざかろうと、少しずつ後ろへ逃げていった。 「え…えっと…し、時雨…」 そして、山城を壁際まで追い詰めた。 「ちょ、ちょっと…時雨…だめ…」 山城の顔が近い。彼女の吐息がかかりそう。 「ねえ、山城…教えて?」

2014-01-30 23:15:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

山城は耳まで真っ赤になっていて、目には涙が浮かんでいた。僕より背が高いはずの山城が、とても小さく見えた。とても…可愛かった。 「山城…?」 「や…やぁ…」 …ダメだよ山城…そんな声出さないでよ。僕、いま理性を抑えるのに必死なんだ…また、山城にいけないことをしてしまいそうで…

2014-01-30 23:20:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「…山城」 僕は山城に倒れこみ、顔を埋めた。 「…え?」 山城の疑問符のついた声が聞こえた。…これ以上変なことは出来ないよね。また、自分の中で山城との距離が離れちゃう。山城と深い仲になりたいって気持ちはあるけれど…あんなに辛い思いをするのなら、いつも近くにいられる方がいい

2014-01-30 23:25:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

でも…それはそれで今まで通り、苦しい思いをするんだろうなぁ…。ふふ、山城…キミって本当に罪作りだよ。 「…ふふ、山城って、可愛いね」 「へっ…!?も、もう…」 山城が脱力するのがわかった。僕に緊張していたのかな。だとしたら少し嬉しい。僕が、山城の心を動かしたってことだから…

2014-01-30 23:30:11
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「…山城が見た夢というのがどんなものかは知らないけど、それはきっと本当に夢だよ。だって、何もなかったんだから…」 僕は山城の背中に回した手に力を入れた。山城の柔らかさを、全身で感じる。…冷静に見ると結構すごいことをしていた。でも、心は不思議と穏やかだった…

2014-01-30 23:35:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「ただいま」 「!?」 突然部屋に入ってきた扶桑に驚き、全身が固まった。そして次の瞬間、僕は山城に放り投げられ、部屋の角に畳んであった二人の布団に突っ込んだ。 「あら、時雨…来てたのね。…どうしたの?」 「……」 布団に顔を埋めて倒れている僕は、異様だったに違いない…

2014-01-30 23:40:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「な…何でもありません、姉様…」 僕も布団から顔を出し、扶桑を見た。 「う、うん…さっきまで山城に髪を乾かして貰ってたんだ…」 扶桑は不思議そうな顔をしながら僕達を見ていた。 「そうなの?でも、ふたりとも最近ギクシャクしていたから、それが元通りになったみたいで嬉しいわ」

2014-01-30 23:45:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「ありがとう、山城…また、明日ね」 久しぶりに山城に笑顔を見せることができた気がした。 「時雨…うん、また明日…おやすみ」 僕はサラサラになった髪を肌で感じながら、ふたりの部屋を出た……

2014-01-30 23:50:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「時雨、どうしたの?」 夕立が布団の上で頭を抱える僕を訝しげに思ったのか、声をかける。 「な…何でもないよ…」 さっきの山城への大胆な行動を思い返して、恥ずかしさで爆発しそうになっていた。…でも、さっきの山城、本当に可愛かったな…って、いやいや…。は、早く寝よう…

2014-01-31 00:00:16