ニュー・デイズ・ムーブ #3
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2014-02-12 20:31:57反ソウカイヤを決意したものの特に何をするでもなくこの廃アパートの近辺でただ食事と睡眠を貪る日々。なんだかんだで緩衝材の役目を担っていたフィルギアは朝から不在。3日前から降り続ける重金属酸性雨。彼らのフラストレーションは実際限界を迎えつつあった。 2
2014-02-12 20:34:18「ところでお前、なんでそんな縁起悪ィ名前なんだ」手持ち無沙汰なアナイアレイターがスーサイドに尋ねた。「……俺を拾ったヤツがつけた」ソウカイヤの、という部分を暈してスーサイドが答える。 3
2014-02-12 20:37:28「ネーミングセンス最悪だな、変えねェのか」「今更だろ」スーサイドが短く返す。「それに、自殺しようとしたのは事実だ」アナイアレイターが目を細め、吐き出した。「くだらねェな、つまり死に損ないかお前は」 4
2014-02-12 20:40:45「おい」ルイナーが割って入ろうとする。だが少し遅かった。「ア?」「這い蹲って生きてナンボだろ人生ってのは。本当にくだらねェ」「黙れよ。生まれてこの方死ぬほどの絶望もしたことなさそうな能天気なツラしやがって」「お前らやめ」バンッ! 5
2014-02-12 20:43:33チャブが激しく音を立てて割れた。アナイアレイターが叩いたのだ。「……」金色の瞳が苛立ちに見開かれている。スーサイドは彼の手に巻きつく鉄条網を見てから、アナイアレイターの目を見返した。「壊すンじゃねぇよ、短気だなテメェは」「アァ!?テメェ殴るぞ!?」「殴ればいいだろ。やれよ」 6
2014-02-12 20:46:25……硬い音が響き、スーサイドのすぐ手前の床が窪んだ。「……クソ!」アナイアレイターは吐き捨て、そのまま部屋を出ていった。張り詰めた空気の中、ルイナーが息を吐いた。「スーサイド=サン」窘めるような声にスーサイドは椅子の上の彼を見た。「悪かったよ」 8
2014-02-12 20:51:05「俺に謝ってもしょうがないだろ。そもそも今のは人の名前にケチつけたあいつに原因がある」「…………」「だが、あいつはお前が思っているほど何も考えてない奴じゃない。バカだけどな」「……お前どっちの味方なんだよ」ルイナーはその問いには即答しなかった。 9
2014-02-12 20:53:42「……個人的には、お前らみたいな短気野郎がよく5日も持ったなとは思うが」ルイナーが椅子から降り、窪んだ床を指先で撫でた。「壊れたモノを直せる奴はいないんだ、ここには」 10
2014-02-12 20:55:32スーサイドはルイナーの言葉の意味を理解しようとした。ルイナーは床から手を離す。「あいつの手を見たか」「……ああ。何か巻きついてたな」「あれがあいつのジツだ。一度発動したら、周囲にいるヤツは漏れなくクズ肉だ。誰も逃げられない」「は?」「ここで発動してたら最悪だったな」「……」 11
2014-02-12 20:57:40ルイナーはスーサイドを見た。スーサイドは視線をそらす。無言で責められているようで居心地が悪い。「……俺は、あいつのことはよく知っているが、お前のことは何も知らない。だから、どちらかに味方しろと言われたらアナイアレイター=サンのほうにつく」「……」 12
2014-02-12 20:59:55「だが、そんなのはブルシットだ」ルイナーは言った。「過ごした時間は短いが、俺もあいつも、……多分フィルギア=サンも、お前のことを仲間だと思ってる」「何で言い切れる」「じゃなかったらお前は今頃この床のシミだ」ルイナーが窪んだ床を指差した。 13
2014-02-12 21:02:09「お前はどうだ」「……」「お前は、どうだ」ルイナーはスーサイドを真っ直ぐ見て、繰り返した。……数秒の沈黙の後、スーサイドは舌打ちして立ち上がった。 14
2014-02-12 21:04:40「クソッ……。……あいつが行きそうな場所、わかるか」「そんなに遠くには行ってないはずだ。ソウルの痕跡を追えばいい」「わかった」スーサイドはルイナーに短く礼を言い、部屋を出る。ルイナーは再び椅子の上で膝を抱えた。窓の外の雨は、止む気配がない。「……本当に手間の掛かる奴らだ」 15
2014-02-12 21:06:39鈍色の通りに、赤い傘が揺れる。降り続ける重金属酸性雨のせいで人通りはまばらだ。「ロック」「後悔は後からしても遅い」「スラムダンク」などのスプレーショドーが施されたシャッターの前で蹲る男。それに気づいて、赤い傘が止まった。 17
2014-02-13 19:25:21「どうした、こんなところで」「……フィルギア=サンか」蹲る男……アナイアレイターは顔を上げた。フィルギアはその正面に向かい合う形で座り込む。傘を傾けるが、一人用の傘は二人で使うには小さすぎた。入りきらず二人の背中は雨に晒されたが、彼らがそれを気にする様子はなかった。 18
2014-02-13 19:30:22「……ちょっとな、あの野郎にムカついただけだ」「へえ。それでどうした?」「どうもしてねェよ」「そいつは何よりだ」フィルギアが目を閉じ、再び開く。「…………」「初めて会った時と比べりゃ、随分と我慢強くなったよな、お前」 19
2014-02-13 19:35:37……アナイアレイターのニューロンに過去の記憶が再生される。彼の両親は、彼が子供の頃に死んだ。借金を苦にしての自殺だった。独り残された彼は施設へと預けられたが、些細なことで他の子供たちの不興を買ってムラハチにされた。彼は追われるようにして施設から脱走した。 20
2014-02-13 19:39:47そして暴力の世界に己の居場所を見出した。彼はストリートギャングとなり、気づけばそのリーダーとなっていた。仲間と呼べる者も大勢いた。だが、あの重金属酸性雨の降る夜に全て殺してしまった。 21
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