イラストレーター・中村佑介氏による『ノーマン・ロックウェルの魅力』の話。

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中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

さて、今晩あたりに以前予告していた【ノーマン・ロックウェル】についてのお話をさせて頂こうと思います。

2014-02-12 23:44:07
中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

これまでの『ビックリマン』、『ストⅡ』、『クリスチャン・ラッセン』を読んでいた方がより面白いと思いますので、もしまだの方がいたら、それまでにぜひコチラhttp://t.co/Z1bz3p6Xh0のまとめよりお読みくださいませ。

2014-02-12 23:46:20
中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

ということで今晩は、アメリカで最もポピュラーな画家のひとりである【ノーマン・ロックウェル】の魅力を、イラストレーターの立場から紐解いていこうと思います。 http://t.co/zA8qzeYNvY

2014-02-13 01:06:47
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中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

その前にひとつお話しておきたいのは、僕がロックェル作品の魅力に強く惹かれたのは大学時代。それまでもポストカードやカレンダーなどで見たことはあったのですが、「アメリカっぽい、ただの絵のうまい人」くらいの認識だったということです。 http://t.co/xNSbjBNBgC

2014-02-13 01:12:33
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中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

前回もお話したように、80年代の日本でもリアルタッチのイラストは流行していて、特に当時ミスタードーナッツの一連のアートワークが有名だったペーター佐藤さんの作品は、ロックウェルの正統後継といえるでしょう。(図:ペーター佐藤作) http://t.co/KTs6aZlItI

2014-02-13 01:21:18
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中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

その反動もあってか、90年代からはリアルタッチ、リアル等身とは対照的な、ディフォルメされた絵画やイラストレーションが流行しはじめました。僕が大学生の頃もっとも流行していたのは、アーティストでは奈良美智さんの作品(図)。 http://t.co/xZUYBb2b8k

2014-02-13 01:24:58
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中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

イラストレーターではナカムラミツルさんの作品(図)です。同様に美大での教育も、"正しく描く力"より"作品の個性"に重きを置きはじめた印象がありました。その時に出会ったのが一見"個性"とは無縁のような、ノーマン・ロックェルの作品でした。 http://t.co/nrMPqOXPhn

2014-02-13 01:30:56
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中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

まず驚いたのが、やはりそのタッチの安定感。1916~1963年という50年近くもの長い間、同じ雑誌の表紙を手掛けているというのに、初期(図:左)と後期(図:右)でも一見してほとんど見分けがつきません。 http://t.co/WcAIdiDEDR

2014-02-13 01:42:58
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中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

それは徹底してリアリティを追求する為、一旦同じ構図の写真を撮って、それを元に絵を描くロックウェルならではの安定感ともいえますが、本来、作家は同じタッチばかりでは自分も飽きてしまうので、意図的に変えたり、自然と変わったりするものです。 http://t.co/HCuVDMFmTl

2014-02-13 01:48:31
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中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

わかりやすい例としてパブロ・ピカソの作品比較。同じ人が描いたとはとても思えませんよね。しかしピカソの場合はその思想や社会状況によって、意図的にタッチを変えたと思われますが、 http://t.co/odvGLsVihA

2014-02-13 01:54:05
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中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

イラストレーターの場合はタッチの安定感が必要になります。比較的変わっていないイメージのある松下進さんでも雑誌『ファミ通』の昔(図:左)と最近(図:右)の表紙を比べると、髪が伸びるように少しずつ少しずつ変化をしてきたことがわかります。 http://t.co/Wb4tQyvP5H

2014-02-13 02:18:23
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中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

ではなぜロックウェルがまるでタッチの変化を拒むように、リアルに描くことを貫き通したのか。大学の教育では"タッチがない=無個性"のはずなのに、なんでこんなに人気があるのか。僕は不思議に思い、もう一度よくロックウェルのイラストを見てみました。

2014-02-13 02:24:27
中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

これは「The Diary(日記帳)」と名付けられた1枚の作品。彼は一体何をしているのか。左上のリボンやレースの形状から、おそらく母親ではなく、年の近い姉の鏡台なのでしょう。そしてお姉ちゃんのいない間に勝手に部屋に入り、荒らし… http://t.co/4nF5GMomtz

2014-02-13 02:30:33
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中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

そして遂に引き出しの奥に、この作品のタイトルにもなっている日記帳を見つけました。そこに何が書いてあったかは、彼の「ウヒョー!」とも聞こえてきそうな興味津津の表情や、下に散らばるラブレターから推測される如く。少しオトナのこと。 http://t.co/9MBDIW023Y

2014-02-13 02:34:34
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中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

同じようなオトナへの階段作品で言えば、今度は『Girl at Mirror(鏡の少女)』という1枚。さっきの1枚よりは大人っぽいブラシなので、こちらはおそらく母親の化粧道具を借りて、鏡の前で憧れの女優と同じ髪形でポーズを取っています。 http://t.co/vl8IYlLAN1

2014-02-13 02:39:46
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中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

さてこの絵のポイントは、なにも鏡の中の少女だけではなく、実は画面のはじに置かれた何気ない人形にこそあります。寺山修司も『青女論』の中で語っておりましたが、女は常に"もうひとりの自分"を持っているもので、少女期はそれがぬいぐるみ、 http://t.co/4yA1HOlco7

2014-02-13 02:45:07
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中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

大人になると、それは"化粧した自分"になります。つまり大人になった女性には、ぬいぐるみはもう必要なくなるという説。この絵も同じで、お人形さんがぞんざいに扱われていることから、少女→女性になる、一瞬の隙間の時間を捉えたものなのでした。

2014-02-13 02:47:43
中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

次は『旅立ち』。社会人になり、故郷のバス停から新しい街へと旅立つ息子と、見送る父親。真新しい革靴で、背筋を伸ばし行く先である左(未来)を見つめる息子と、使い古した皮靴で、背中を丸めて右(想い出)を懐かしむ父親が対照的に描かれています。 http://t.co/z0r4Z2O2Z0

2014-02-13 02:54:38
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中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

もう少し軽いユーモアなら『Tattoo Artist Painting(彫師)』。海兵が「みなとみなとに女あり」と言わんばかりに、彫師に次々と女性の名前を入れては、消してもらっています。もうスペースがなくちょっと恥ずかしそうです(笑) http://t.co/VWyqETJSoc

2014-02-13 03:00:45
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中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

このようにノーマンロックェルの作品はまるで映画や漫画のように、そこに至る、そしてそれからの時間までもが1枚の中に描かれています。つまりその物語を純粋に感じてもらうためには、タッチはむしろ邪魔で、徹底したリアルが必要だった訳です。

2014-02-13 03:03:49
中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

ご紹介したように、初期~中期ロックウェル作品は、あくまでアメリカの一般庶民生活におけるドラマやユーモアを描き続けてきました。しかし後期になると、社会的な問題や風刺がも入ってくるようになります。

2014-02-13 03:10:55
中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

代表的なのが『The Problem We All Live With(みんなの問題)』。ボディーガードなしでは登校すら危ぶまれるような黒人少女。肌に対して真っ白なワンピースと靴、そして壁に投げつけられた血を連想させるトマトにより、 http://t.co/1RDQRbP9aB

2014-02-13 03:21:37
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中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

間接的にすることによって、痛烈に当時の黒人差別問題を批判した1枚です。つまり"個性=絵のタッチ(表面)"だと思われがちな絵の世界で、ロックウェルはタッチではなく、その中にある絵の内容とそれを導く為の構成力と構図に重点を置いて、成功を収めた数少ない作家なのでした。

2014-02-13 03:28:43
中村佑介🎨2024カレンダー @kazekissa

美大や専門学校に行くと「どうやったら個性的な絵が描けますか?」とよく聞かれます。でもロックウェルの絵を見ていたら、もしそんなものが手に入らなくても、面白い絵はいくらでも描けるのになぁと思います。

2014-02-13 03:32:08