#今日の神通さん 「Deliver hope」

バレンタインSSのはずだったんですがガチンコな戦闘SSになってました。
9
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

慌ただしい足音と主に執務室のドアが開く。 「司令官大変です!」 入ってきたのは睦月型の証である月の髪飾りをつけた小柄な駆逐艦だった。 「三日月? 他の連中はどうした?」 「神通さんがやられました!」 提督の手から、麦茶の入った湯呑みが転がり落ちた。 #今日の神通さん

2014-02-13 23:11:37
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「では、行ってまいります」 「あぁ、気をつけてな」 今後の作戦に備えた、混成水雷戦隊での長距離練習航海。それを率いるのはラバウル最高練度を誇る秘書艦、神通。 「あまり遅くなるようだったら連絡を入れてくれ」 「はい」 提督はいつものように神通を見送った。 #今日の神通さん

2014-02-14 22:31:25
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「ラエまで750km、往復は1日あればできますが現地に一泊してから戻ります」 海図を前に神通は同行する駆逐艦たちに航路を説明する。 「道中、何度か陣形を変更して艦隊運動の訓練をします」 今回の練習航海に同行する不知火、初霜、三日月、皐月、磯波が頷いた。 #今日の神通さん

2014-02-14 22:35:45
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

往路は演習に出ていた空母かの哨戒機があったこともあって敵襲もなく、万事順調だった。 艦隊がラエに着く頃には時計は20時を回っていた。 「ではここで解散します。明日は1130時まで自由行動、1200にラバウルへ出発します」 #今日の神通さん

2014-02-14 22:40:42
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

翌日、三日月が船着場で出発時刻を待っていると、彼女の肩を叩く者があった。 「三日月さん」 「なんです?」 三日月は魚雷発射管を減らした「荷物持ち」の役だった。土産物や私物を運ぶ役割だ。 「これ、ラバウルまで持っていてもらえますか?」 #今日の神通さん

2014-02-14 22:47:11
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

神通から渡された紙袋を鞄にしまいながら、三日月は頭二つ分背の高い神通をじっと見上げる。 「中身はもしかしてアレですか?」 「秘密です」 神通は唇に人差し指を当て、秘密のサインを三日月に送る。 「分かりました。ラバウルまで私が責任をもってお預かりします」 #今日の神通さん

2014-02-14 22:50:58
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

復路、十五夜の月に照らされながら艦隊はラバウルへと引き返していた。 「電探に感あり」 そう先頭を行く神通に伝えたのは小型電探を積んでいた不知火だ。 「確認して下さい」 不知火は意識を電探に集中させる。 「敵艦、軽巡三、駆逐十。敵水雷戦隊です」 #今日の神通さん

2014-02-14 22:55:21
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「逆探に感あり!」 不知火に装備されたもう一つの電子戦装備、逆探が敵艦隊からのレーダー波を知らせた。敵もこちらに気づいたのだ。 「三日月さん、磯波さんと皐月さんを連れて離脱して」 「でも、神通さん」 「早く! 今ならまだ間に合います」 #今日の神通さん

2014-02-14 23:00:05
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「わかりました! 二人共早く!」 離脱を命じられた三隻は本隊から離れて増速する。ラバウルまで残り150キロ。彼女たちなら3時間もかからない。 「提督に、増援をお願いしてください」 「伝えます!」 三日月は頷き、敵艦隊へ向かう神通たちの背中を見送った。 #今日の神通さん

2014-02-14 23:05:45
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「距離10海里、敵前衛駆逐艦四。来ます」 「まだ引きつけます。私の合図で一斉射撃してください。梯形陣。速度32を保って」 「了解!」 不知火は神通の命令に頷き、武装の安全装置を解除する。主砲、魚雷、機銃、全て問題ない。 「期待に応えてみせます」 #今日の神通さん

2014-02-14 23:10:41
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「来ますっ!」 前方で幾つもの発砲炎が上がり、初霜の声がうわずる。 「まだです」 不意に暗い海上に突然まばゆい光が現れ、突撃してくる深海棲艦の群れを照らしだす。 「てぇーっ!」 その光の中心で、神通がサーチライトと主砲を構えていた。 #今日の神通さん

2014-02-14 23:15:39
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

初霜と不知火は難なく主砲を照準し、最初の一斉射で敵の半数を撃沈させることができた。 残った敵駆逐艦は電灯に集まる虫のように神通めがけて突進する。 神通の七門の主砲が続けざまに火を吹き、先頭の駆逐艦――魚のような形のイ級――をミンチに変える。 #今日の神通さん

2014-02-14 23:20:19
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

至近弾が嫌な音と共に耳元を掠める。 目をやられないよう左腕を顔の前に掲げ、神通は次の敵艦を探す。 沈める必要はない。戦闘能力を奪って時間を稼げばあとはどうにでもなる。 「斉射っ!」 装填の終わった右腕の主砲を敵艦に向け、三門を続けざまに放つ。 #今日の神通さん

2014-02-14 23:25:10
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

懲りることなく正面から突撃してきた駆逐ハ級が身悶えしながら暗い海に沈む。 「沈めっ!」 後続の不知火と初霜が魚雷を発射し、前衛の駆逐艦はすべて沈むか、戦闘能力を失って逃げていく。 「敵前衛壊滅、やりましたね神通先――」 爆音が不知火の賞賛の言葉を遮った。 #今日の神通さん

2014-02-14 23:30:31
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「くぅ、機関が……」 水線下の艤装に直撃した敵弾によって、神通の左脚が沈みこむ。 「ならっ!」 右足を踏み込み、上体を左に傾けながらの急転舵。いや、ドリフトと言ったほうが正しい。 飛沫を立てながら神通は単縦陣を組む敵艦隊の横合いへ突撃した。 #今日の神通さん

2014-02-14 23:35:23
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「発光信号ですっ!」 初霜は神通からの信号を不知火に知らせる。 「読み上げてください」 不知火の位置からでは水柱の影になって発光信号が読めない。 「次発装填シ第二次攻撃二備エヨ、以上です!」 「まさか、神通先輩」 不知火の表情が曇った。 #今日の神通さん

2014-02-14 23:40:34
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「次発装填、いきます」 初霜は背中に装備した次発装填装置を手に持ち、腰に装備した魚雷発射管に押し付ける。 ストンという少々間の抜けた音と共に酸素魚雷が発射管に装填される。 当然ながら、両手に主砲を装備している初霜は装填中に主砲が使えなくなる。 #今日の神通さん

2014-02-14 23:42:48
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

援護射撃をしながら不知火は焦っていた。 ――早く、早く! あぁもう、これだから欠陥駆逐艦は! 装填にもたつく初霜を睨みつけながら不知火は電探の反応あった方向めがけてひたすらに主砲を撃ち続ける。 「装填完了! 援護します!」 「遅いっ!」 「すみません」 #今日の神通さん

2014-02-14 23:44:21
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

からくり人形のように伸びる不知火の艤装が動き、酸素魚雷を装填し始める。 一発、二発、三発、四発。 「装填完了」 魚雷装填を目視で確認した不知火の目の前が、不意に明るくなった。 「神通さんっ!」 初霜の声で、不知火は今の爆発の意味を理解した。 #今日の神通さん

2014-02-14 23:50:17
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

左腕の艤装が爆発し、耳鳴りが止まらない。 「まだまだ」 もはや役に立たなくなったロンググローブ型の左腕艤装を投げ捨て、神通は残った右腕の方で応射する。 砲弾の軌道はもう身体が覚えていた。発射から数拍置いて神通に主砲を向けていた軽巡の腕がちぎれ飛ぶ。 #今日の神通さん

2014-02-14 23:55:15
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「来ないでって」 主砲が装填されるのを待たず、神通は腰に装備した魚雷発射管をなおも抵抗する軽巡に向ける。 「言ったのに!」 酸素魚雷を二発を受け、断末魔の叫びを上げながら軽巡が沈んでいく。 神通は右腕を残った敵艦に向ける。 #今日の神通さん

2014-02-15 00:00:02
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

彼女の左脚の艤装が限界を迎えたのはその時だった。急速に出力が下がり、みるみるうちに速力が下がる。 神通は左足を踏ん張り、浮力とバランスを何とか保つ。 これを好機と見たのか、生き残った軽巡へ級が神通に近づいてくる。その歪な拳は固く握られている。 #今日の神通さん

2014-02-15 00:04:19
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

深海棲艦は艤装ではなく、拳で神通に襲いかかった。。 神通はヘ級の右腕を左腕で払い、自由な右腕に装備されたカタパルトを相手の顎に突き立てる。 「ゴボッ」 「油断しましたね」 神通は三門の主砲をヘ級に向け、口角をわずかに上げた。 #今日の神通さん

2014-02-15 00:09:33
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

ゼロ距離で主砲をバイタルパートに食らったヘ級は痙攣しながらも神通に抱きつく。 「なっ!?」 その時、神通は生き残ったもう一隻の軽巡が自分に主砲を向けていることに気づいた。 主砲の装填は間に合わない、魚雷の射角からは外れ、回避もこのヘ級によって封じられた。 #今日の神通さん

2014-02-15 00:15:51